第044話 襲撃!
宿屋に戻った私はドレスを脱ぎ、いつもの真っ赤な和服に着替えた。
やっぱりドレスは好きじゃないし、和服が落ち着く。
地味に頭の髪飾りが重いが、何年もつけているので、慣れたものである。
なお、私が着替えている時にリースはそっぽを向いていた。
だが、チラチラとこちらを見ているのにはさすがに気が付いた。
別に気にしないから堂々と見ればいいのに……
そうやって、チラチラと見るからいやらしいのだ。
そもそも、一緒に温泉に行ったこともあるし、今さら何も気にすることはない。
服を着替え、ベッドに腰かけながらリースと話していると、ミサと東雲姉妹も帰ってきた。
私は3人からフランツやヨモギちゃんに作戦を説明したきたことの報告を聞くと、リース用のベッドも出してやった。
その後の10日は宿屋に籠り、おしゃべりや漫画を読んだり、ゲームをして時間をつぶしていた。
東雲姉妹がうるさかったが、女子が5人も集まれば、話が尽きることはないし、楽しかった。
そして、10日後、私が再び、転移を使えるようになると、宿屋を出て、リースが指定していたゴミ収集場にやってきた。
今はすでに夜になっており、宿屋を出た時は随分と暗かった。
だが、ゴミ収集場にやってくると、あちこちにかかり火が焚かれており、明るくなっている。
どうやらフランツが用意してくれたらしい。
もちろん用意してくれたのはかがり火だけではない。
私の目の前には大勢の獣人族が立っていた。
「ヨモギ、全員に説明はしましたね?」
私はヨモギを呼び出し、確認する。
「はい。皆、南部に行きたいと言っております。中にはすでにヒミコ様に忠誠を誓うと言っている者もいますが、多くの者はまずは一族の族長に会いたいそうです」
確かに私の信者リストには知らない名前が結構、増えている。
「よろしい…………勇敢なる獣人族の戦士よ、聞きなさい!」
私はヨモギの頭を撫でると、1歩前に出て、獣人族に語りかける。
「お前達は不幸にも奴隷となり、この地にやってきました。だが、お前達の同胞は私にお前達の救出を依頼してきました。私はヒミコ、幸福の神、ヒミコ! 救いを求める者を救う神なり! お前達にはこの先、自由が与えられる。何者にもお前達を縛ることは出来ない。ただ自由に生きるのです。ただし、今しばらくお待ちなさい。すぐにでもお前達を南部に連れていきたいのですが、私にはまだ救わねばならない者がいます。ですからあと少しだけ、ここで待機するのです」
私はそれだけを言い、後ろを向くと、手をかざし、ヘリを出した。
すると、私の後ろからざわめきが起こる。
「静粛に! 我らはこれより領主の屋敷に奇襲をかけ、エルフを救出する! すぐに戻ってくるからお前達は静かにここで待機すること!」
ミサが久しぶりに怒鳴った。
やっぱうるさいわ。
「ミサ、リース、ナツカ、フユミ、準備はいいですか?」
私は4人を見渡す。
「問題ありません」
ミサはコンタクトからメガネに戻り、ドレスから学校の制服に変わっている。
「いつでも行きます」
リースはいつも通り、白いローブだ。
「ついに来た! 私の大活躍シーン!」
「姉貴、これまでのうっぷんを晴らそうぜ!」
東雲姉妹はメイド服から学校指定のジャージに着替えていた。
メイド服の双子が暴れていたという噂がキールの町にまで流れるとマズいからだ。
「よろしい! これより、このヒミコに逆らう愚か者がどうなるかを世に示すのです! 私を敬わない者はいらない! 私以外の神は必要ない! 天上天下唯我独尊! 私こそが世界を平和に導く救世の神である! さあ、私のかわいい子供たちよ! 出陣です!」
「「「「はっ!」」」」
私達はヘリに乗り込むと、リースが操縦席に座り、ヘリを動かしだす。
私達は後ろで待機だ。
このヘリは軍用ではなく、普通のヘリである。
軍用ヘリは5人も乗れないのだ。
だが、このヘリには大量の銃や手榴弾が搭載されている。
たかが、領主の屋敷を制圧するには十分すぎるだろう。
「飛びます!」
リースがそう言うと、ヘリが大きな音を出して動き出す。
今回の作戦の一番のネックはヘリがうるさすぎることである。
おそらく、夜とはいえ、敵も早い段階で襲撃に気付くだろう。
だから、速攻で領主がいると思われる5階を制圧し、階段を確保しなければならない。
「リース、領主の屋敷まで最短距離で行きなさい」
「了解です!」
ついにリースが運転するヘリが上空に飛び上がった。
上空に上がった後に窓から外を見るが、外の景色は本当に暗い。
町の中はポツンポツンと明かりが見えるが、町の外は本当に真っ暗だ。
リースが操縦するヘリは町の中でも、そこそこ明るい場所に真っすぐ進んでいる。
当然、そこは領主の屋敷だ。
結構な距離があるが、ヘリは速い。
あっという間に町中を突き進み、塀を越え、領主の屋敷の敷地に入った。
ヘリの中にいるとわからないが、下ではこのヘリの存在に気付いているだろうし、パニックになっているだろう。
南部で5000の兵を壊滅させたヘリが急に現れたのだから。
「ひー様、あれが領主の屋敷です!」
リースに言われたので、前を見ると、確かに明るくて大きな建物が見える。
「よし! 作戦通り、屋上に降下!」
「はい!」
リースが返事をすると、ヘリは真っすぐ領主の屋敷に向かった。
そして、屋敷の真上に着くと、降下を始める。
「敵はすでにこちらの襲撃に気付いています! おそらく、屋敷の中にも警備の兵もいるでしょうが、一方的に蹴散らしなさい! 敵の武器は所詮、剣や槍です」
私はヘリが降下している間に東雲姉妹に指示を出す。
「了解です!」
「任せとけー!」
こういう時には頼もしい東雲姉妹である。
ミサや東雲姉妹がマシンガンを構えていると、ヘリが屋上に着陸した。
「到着です!」
リースがそう言うと、ミサが扉を開き、東雲姉妹と共にヘリから降りる。
リースも操縦席を離れ、マシンガンを手に取ると、ヘリを降りた。
全員が降りたので、最後に私も降りる。
私が降りると、4人が私を見ていた。
「これより、作戦を開始する! ミサはここで待機! 東雲姉妹は警備の兵を蹴散らしつつ、階段を抑えよ! リースは私と共に領主を抑える! 行け!」
「あいあいさー!」
「よーそろー!」
東雲姉妹は謎の掛け声を言い、マシンガンを構えながら屋敷に突っ込んでいった。
「リース、行きますよ!」
東雲姉妹が見えなくなると、リースに声をかける。
「はい! ミサ、ここは任せます!」
「了解!」
私達はこの場をミサに任せ、屋敷の中に入っていく。
屋敷の中に入ると、早速、兵士の死体を発見した。
東雲姉妹がやったのだろう。
それに遠くから銃声と共に東雲姉妹の笑い声が聞こえ、男の叫び声まで聞こえている。
いきなり奇襲をかけられ、マシンガンが相手では敵は阿鼻叫喚だろう。
「ひー様、こちらです」
リースが先行して案内してくれる。
屋敷の中は結構、明るい。
また、貴族の屋敷らしく、きれいな内装をしている。
これは儲けてますわ。
「な、なんだお前達は!? ひ、ヒミコ!? 幸福教団か!? 幸福教団だ!! 幸福教団の――がっ!」
警備の兵に見つかったが、すぐにリースのマシンガンの前に退場してしまった。
「あんた、魔法は?」
リースって、優秀な魔法使いじゃなかったっけ?
「マシンガンの方が速いし、強いです」
そんなもんかね?
情緒がない気がするけど、まあいっか。
その後も私達が進んでいくと、何人かの警備の兵が現れたが、すべてリースのマシンガンで一掃していく。
そして、そのまま進んでいくと、通路の突き当たりにある豪華な扉を発見した。
ただし、その扉の前には黒ローブを着て、杖を持っている男が立っている。
おそらく、通り魔事件を解決するために呼んだ魔法使いだろう。
「ヒミコだな…………やはり、幸福教団か……ここから先は通さんぞ!」
男が杖を構える。
ちょっと強そうだ。
「そこをどきなさい。正義は私にあります。それとも神に逆らうのですか?」
私は一応、降伏勧告をしてみる。
「興味ないな……俺は傭兵。料金の分の仕事をす――――がはっ!」
かっこつけて何かを言っていた魔法使いの男は穴だらけになり、血を吐き出して、倒れた。
リースが私の後ろからマシンガンを乱射したのだ。
「ちょっとは話を聞いてあげたら?」
私は魔法使いさんがちょっとかわいそうと思った。
まだ、名乗ってすらないのに……
「時間がないですし、この世に必要のない者です。さっさと部屋の中に入りましょう。この魔法使いがここにいたということは領主はこの先の寝室です」
うーん、情緒がない……
まあ、いいか。
そんなことよりもエルフの救出が先!
私達は憐れな魔法使いさんの死体をまたぎ、豪華な扉を開けた。
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