邪竜ズィグヴァーン
!~よたみてい書
傘を持った闇の使い
(早く帰って溜まってる動画消化しなきゃ!)
十代後半に見える容姿の茶髪の女性は薄暗闇に染まった空の下、路上を歩いていた。
「えっ、きゃっ!?」
茶髪女性が自分の体を見下ろすと、胸部が他人の腕で締めつけられている。
(え、なになに!? 後ろに誰かいる!)
すぐさま顔を後ろに向ける茶髪女性。
「やめてください!」
「もう少し、このままでいさせて」
二十代後半の容姿に見える黒髪の男性は抱きしめる腕に力をこめる。
茶髪女性は眉尻を下げながら、
(きもちわるい……! ……逃げれない! どうしよう、どうしよう……。うぅ、だれか、だれか助けて!)
すると、後ろから近付いてきた二十代前半に見える黒髪の女性が男性の肩を強めに叩き、
「貴様、一体何をしている?」
「うぇ? いや、違う違う! 俺たち恋人!」
目を見開きながら首を高速で左右に振る男性。
黒髪女性は少し頭を傾け、茶髪女性を見つめながら、
「本当か?」
茶髪女性は何かを伝えるかのように高速で首を横に振る。
黒髪女性は目じりを吊り上げながら男性を睨み、
「彼女は違うと言っているが?」
男性は口調を荒げながら、
「そんなことより一体お前は何なんだよ!? あぁ!? 部外者だろ! 恋人同士の営みを邪魔する権利なんかねぇだろっ!」
「
ズィグヴァーンは不敵な笑みを浮かべながら腰下から伸びている猫の尻尾をくねらせた。
茶髪女性は無表情のまま、
(え、外国の人? というか、邪竜? なんで猫耳と尻尾?
男性は乾いた笑みを浮かべて、
「は? なに? バカなの?」
茶髪女性は不安そうな表情をしながら、
(このお姉さん、ふざけてるの?)
ズィグヴァーンは傘を持った右手を腰に当て、左手を左目に持っていく。
左手の薬指と中指の間を開き、左目を囲うように。
「バカなのは貴様だ。我を
「仕方ないなぁ、あとでお前も味わってあげるから、ちょっと待って――」
ズィグヴァーンは毛を逆立てた尻尾を立て、持っていた傘を瞬時に男性の首に目掛けて突いていき、
「
「ぐぉぁかぁっ!」
男性は首を押さえながらその場によろめく。
ズィグヴァーンはすかさず傘を下から振り上げ、男性の顎を殴打し、
「
「あぐぅっ!」
男性は夜景を眺めながら数歩後ずさりする。
ズィグヴァーンはそのまま持っていた傘を空高く放り投げた。
そして、すぐに男性との距離を縮めて、
「
丸めた右手を男性の胸部に、続けて左握りこぶしを胸部に衝突させる。
さらにその場で飛び上がり、体を横に一回転させ、勢いをつけた横蹴りを男性の横顔にお見舞いした。
男性は体を回転させながら、
「ぁ、ぅっ、ほぐぅぁっ!」
地べたに倒れこむ。
一方、薄暗い宙を舞っていた傘は勢いよく落下していく。
しかし、しっかりとズィグヴァーンが腕を頭上高く伸ばし、傘を迎え入れる。
ズィグヴァーンは腕を組みながら男性を見下ろし、
「我に敬意を示す姿勢が違う」
一方、茶髪女性は丸めた手を口元に添えながら、
(わぁ……簡単にやっつけちゃった。すごくカッコいい……けど、ちょっと怖い……。なんか叫んでたし。でも、助けてくれたんだよね。ううん、助けてくれた。だからちゃんとお礼は言わないと)
茶髪女性は不安そうに上目遣いをしながら、
「あの、もう大丈夫です、助けていただいてありがとうございます」
「
「え?」
「この不届き者に更なる制裁を加えるべく、君も早く
「え? あっ、はい、すぐに呼びます」
ズィグヴァーンは腕を組みながら微笑み、ゆっくり首を縦に振り、
「うむ。では、用事も終わった事だ。我はここで失礼する」
「あ、ありがとうございました! あの、なにかお礼がしたいのですが」
ズィグヴァーンは尻尾を上下に振りながら、
「ふむ。それなら、我の配下として役立つように、健康な生活を送るがよい。我の足手まといになるような配下などいらん」
「え?」
ズィグヴァーンは柔らかい笑みを浮かべ、そしてすぐに不敵な笑みを作りながら後ろ髪を払いのける。
そして、体を反転させ、背中を見せながら軽く手を振っていき、茶髪女性から離れていった。
ズィグヴァーンは薄暗闇に包まれた町の中に姿を小さくさせていく。
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