初任務開始!前首相前野を捕縛せよ!



 あれから幾日か経ち、何の音沙汰も無く桜河も忘れかけていた頃、またもや高校からの帰り道に黒服の男たちは現れた。


「げっ!」

「任務だ」


(夢じゃなかったのかよっ!)


 桜河は何度、あの出来事が夢であれと願ったことか。押し切られるままに協力することになってしまったが、革命を成し遂げ、あまつさえ日本を背負う覚悟などさらさら無かった。


 しかし、抵抗するだけ無駄だと知っているため、拳銃を取り出される前に素直に彼らに従い車に乗り込む。





✳︎✳︎✳︎





「桜河、これを」


 そう言って、龍馬に差し出されたのは黒のアタッシュケース。開けてみると、その中には真新しい拳銃とライフル銃が入っていた。



「!?」

「安心せえ。その2つは紛う事なき本物じゃが、使う弾はゴム弾と麻酔針じゃき」

「あ、安心出来るかよ! これを人に向けて撃つって事だよな!?」

「⋯⋯威嚇いかく射撃でも構わん」

「こんなのでビビってんの? ダサっ」


 背後から小馬鹿にしたような声が聞こえて来る。この声は間違いなく誠司だ。


「何だと⋯⋯!?」



 桜河が抗議しようと振り返ると、誠司は亜麻色の髪を一つに結い、2本の刀を腰に差しているところだった。改めて目の当たりにする本物の刀に、先ほどまでの怒りも忘れて桜河の視線は釘付けになる。



「⋯⋯⋯⋯何?」

「なあ、それって加州清光? いや、ナントカ安定?」

「⋯⋯だったら何なのさ。後、ナントカ安定じゃなくて大和守やまとのかみ、だから」

「いや、本物の刀って凄えって思っただけだよ。⋯⋯あれ? でも確か、沖田総司の刀ってもう残ってないんじゃ⋯⋯⋯⋯」

「僕が死んだ後、徳川家が修復して密かに保管しておいて下さったんだよ。⋯⋯ていうか、何でそんな事知ってるの? もしかして、僕のストーカー?」



 軽蔑の視線を向ける誠司に、桜河は思わず声を荒げる。


「ちげーよ馬鹿! 授業で習ったんだよ! 誰がお前なんかストーカーするかっ!!」

「ふーん⋯⋯?」

「てか⋯⋯ずっと思ってたけど、お前は俺に悪態つかないと死ぬ病気なのかよ!?」

「なわけないでしょ、この単細胞!!」


 今にも喧嘩が始まる、というところで龍馬が口を挟んだ。


「おまんたちの仲が良いのはよ~く分かった。じゃが、戯れ合いはそこまでにせい。これから本日の任務内容を説明しゆう。桜河、おまんに取っては初めての任務じゃき、心して聴いとおせ」







✳︎✳︎✳︎







 桜河と誠司は闇に紛れ、揃いの制服を纏い、住宅街を駆ける。

 普段ブレザースタイルの制服しか着たことのない桜河が、密かにバンカラスタイルの維新部隊の制服にテンションを上げていたのはここだけの秘密だ。



『どうじゃ、わしの声は聴こえるか?』


 ザァザァという機械音の後、左耳につけたインカムから龍馬の声が聴こえてくる。



「聴こえる!」

「問題ありません」


『ならええ。さっきも話したが、今夜のおまんたちの任務は前首相、前野正一の捕縛じゃ』



 政府に潜入している諜報員より知らせが届いたのは昨夜の事————。

 九頭龍派筆頭である前首相前野正一に大きな動きがあったそうだ。何でも、近々超大国の役人との密会があり、そこで大量の武器弾薬の買い付けを行うという話だった。

 そして、それを阻止する為にも、前野を秘密裏に捕縛しして貰うのが今回の任務の目的だ。




 都内でも有数の高級住宅街の一画で気配を消し龍馬からの指示を待つ。

 桜河の手のひらにはじわりと汗が滲み、緊張と不安から僅かに震えていた。



「何ボーッとしてんの。そろそろだよ」

「⋯⋯あ、ああ!」

「もしかして⋯⋯まだビビってんの? まあ、僕がいればアンタの出番なんて無いも同然なんだから杞憂なんじゃない?」


 そう言ってニヤリと口角を上げる誠司。いつも通りの彼の態度に、桜河の強張っていた身体から力が抜ける。


「ハッ⋯⋯! 言ってろ! お前には絶対負けねえ!」



(いつの間にか手の震えが無くなってる⋯⋯。癪だけど、コイツのお陰かもな。だが、今回の任務で絶対にコイツを見返してやる⋯⋯!!)

 

 ————そして、ゆくゆくは敬語を使わせて、先輩と呼ばせる!



 桜河はそんな野望を胸に、グッとアタッシュケースの持ち手を握り締めた。



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