第14話 お仕置きタイム~ロクサーヌ編~①
「な、なんでアンタたちがここにいるんっすか!」
三人は「何言ってんだ? コイツは」とため息をついて呆れている。
「何でここにいるのか? ですって…… 少しは周りを見て自分の置かれている状況くらい考えたら? 男とヤル事しか頭にないパッパラパーだと状況把握能力が欠落してしまうのかしら? 脳みそピンク色にするのも程ほどにしておきなさい」
「ここは君が気を失う前にいた洞窟ではない。僕達が泊っている宿屋だよ。起き上がりとはいえ、すぐ分かるものと思ったけど…… もしかして周りの状況も理解できない程僕達に怯えているのかな? これはこれでお仕置…… 躾の甲斐があるよねえ」
「彼に手を出した大罪人にはしかるべき神罰が下るでしょう…… いえ、神をも恐れぬ不届きものには地獄すら生温い。まずはその身を持って知るといいでしょう、私達が地獄以上の恐怖を教えてあげます」
ロクサーヌは三人に言われ放題の内容については一旦気にしない事にして、マリーが言ったように落ち着いて状況把握することにした。
一息ついて改めてキョロキョロと周りを見渡すとここは洞窟ではない事がわかる。そしてアリスは「僕達が泊っている宿屋」と言っていた。つまりここはいつもの街だ。
方法は分からないが今は確かに戻ってきている事を理解した。
「なるほど、ウチは気を失う前は洞窟にいたはず…… そしてアンタ達がここに居るって事はウチが誰といたかも把握済みって事っすね」
「でなければわざわざアンタをここに呼び寄せる訳ないでしょ。そして私達が言いたい事ももう分かるわよね? ディックは諦めて手を出すなら他のオスにしておきなさい」
ロクサーヌは勝機でも見つけたのか「ククッ」と笑い余裕を見せている。
「それは可笑しな話っすねえ。ディック君とアンタ達は同じパーティー…… 『だった』かもしれませんけどね、そもそもディック君とそういう関係に誰ともなってないでしょ? ならディック君との関係にどうこう言われる筋合いないんじゃないっすか?」
「『だった』じゃないわよ。今もディックは同じパーティーメンバーよ。今は諸事情があって一人で頑張ってもらってるだけ」
「ふーん、諸事情っすか……」
ロクサーヌは考えていた。四人にとって自分達よりも大切なディックを意味もなく突き放すはずがない。確かに事情はあるという事に関して嘘はなさそうだと。
そしてディック自身も『実は当分の間ソロ活動することになりまして……』言っていた事から裏も取れている。
けど納得いかない点もある。ディックが関わる話であればお得意の力技で自分達の我を押し通すはずなのにその節が見られない。
一体何があったのか…… そういえばこの間王宮に呼び出されていたはず。その時にディックに関わる何かがあったのだと推測した。ちょっとカマをかけてみよう。
「そういえばこの間王宮に呼び出されてましたよね? 何かあったんすよね?」
ロクサーヌの発言にビクッとした三人は同時に『このアマ気付いてる』とアイコンタクトを送り合っていた。
ポーカーフェイスがド下手くそな三人は汗をダラダラ垂らしながらわざとらしくニコニコしている。
「そ、そ、そんな事ないわよ。大体何の根拠があってそんな事言い出してるのよ!」
わかりやっす…… これでハッキリした。王宮で何かあったな…… 王都に向かい情報収集するべきだと判断した。あとはどうやってこの状況を抜け出すべきか――斥候として一人で行動する機会も多く、捕まったとしても簡単に口を割らない様な拷問訓練も散々叩き込まれたロクサーヌに生半可な拷問は通用しない。
しかし相手は規格外の連中の為、闇の世界も渡り歩いて来た自分ですら思いもよらない方法で行われる可能性もある。
暴力に訴えるなら儲けもの。それに関しては赤子の時から仕込まれてきたから問題ない。問題は精神に作用する拷問…… 元より失う者のない自分にとって未知の領域。
いや…… 一つだけあった。今更何を女々しい事をと思っているとマリーが途端に真面目な顔で問い詰めて来た。
「アンタさ、何でディックなの?」
来るとは全く思っていなかった質問に度肝を抜かれたロクサーヌは思いもよらない声を上げていた。
「え?」
「あんまりこういう事言いたくないけどアンタモテるじゃん。別にディック相手じゃなくても良くない? アンタ好みの草食系男子なんて冒険者以外なら結構いると思うんだけど……そこからつまみ食いすればいいじゃん」
マリーが言う様にロクサーヌはモテる。真面目、不真面目問わず多数の冒険者から、街のチンピラや半グレは当然の事であるが引きこもりがちの少年、青年ですらロクサーヌを見れば顔を赤らめてしまうほどである。
ちなみに四人はというと…… 基本は誰も近寄って来ない。殺気というか近寄るなオーラが凄く気配に敏感ですらない一般人ですら本能的に避けてしまう。
たまに自分の実力を勘違いした冒険者が自分ならと近寄ってくるが瞬殺されて再起不能又はそれに近い状態にされてしまうため、それ以降に寄ってくることはない。
四人は顔の造形だけならロクサーヌといい勝負をしている。体型を含めると勝負になりそうなのはセリーヌかリシェルになるが、それでも四人に寄ってこないのは単純に恐れられているからに他ならない。
闇の世界を生きてきた連中、王宮の騎士団ですら四人に目線を合わせない。合わせたらそれは死を意味するから…… 故に彼らは四人と同じ空間に出くわそうものなら瞬時に壁の一部に擬態する。
「やっぱウチみたいな見た目だとそう思われて仕方ないとは思ってるんすけどね…… ウチこう見えて
三人の声量で宿全体が飛び上がってしまうのではないかという程に驚愕していた。
「「「ええええええええええっ!?」」」
アリスは こんらんしている!
マリーは こんらんしている!
リシェルは こんらんしている!
「ハハ…… やっぱそう思うっすよね」
いつも他人からそう思われがちのロクサーヌはとっくに諦めていた。男受けしそうな身体と服装であれば遊んでいると思われるに決まっていると。
むしろそれ以外の目線で見られたことが無い事も理解している。ただ一人を除いては……。
かつて所属していた組織で暗殺者として仕事をしていた際にターゲットを垂らし込む為にもその身体を使っていたから本人も否定しにくい所がある。
ちなみに組織に所属していた時のロクサーヌのモットーは『犯られる前に殺る』である。
「ちょっとまだ信じられないけど
「それを話しするにはまずは根本的な勘違いを訂正する必要があるみたいっすね」
「根本的な勘違い?」
「ウチは別に草食系が好きなわけじゃないんすよね。好きになった男の子が草食系だったと言うだけの話っす」
三人は今の言葉で悟った。『嫌な予感がする』と……
いつ? どこで? ほぼ一緒にいるから気付かないなんてことはないはずなのに…… 残りのタイミングで出会っていた?
しかもフラグを立てていた? ロクサーヌを相手にフラグを立てる? そんな簡単な女じゃないだろ、コイツは……
アリスは絞り出すような声でロクサーヌに確認する。
「『好きになった男の子』がディックだとでも言うつもりか…… いつだ? どこで君たちは出会ったんだ? そして何をしたんだ!」
ロクサーヌはキョトンとしている。
「アリスさん…… 覚えてないんすか? あの場にあなたも居たっすよね?」
「「アリス、ギルティ!」」
「ちょ、まっ…… ロクサーヌ! キミィ、適当言ってないだろうね?」
「アリスさん…… マジでディック君以外何も見てないんすね…… 呆れるどころかある意味感心するっす。良いっすよ、アリスさんも忘れてるみたいから話しましょうか。あの寒い冬の日の事を……」
ディックは知らない…… というか気付いてない。ロクサーヌが周りでどう思われていたのかという事と自分にガチで想いを寄せられていたことを。
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