第8話 バンパイア
ひげ根にぐるぐる巻きにされたおっさんは口を利くこともできなかった。
絡みついたひげ根を振り解こうと「うんうん」唸っている。
お姉さんはそんなおっさんに「吐きやがれ!」とポコポコ蹴りを入れていた。
オバサンは今までの出来事に気付いていないようで未だに草木に当たり散らしている。
地面からおっさんがボコッと飛び出してきた気持ちの悪い光景は私にトラウマを与えた。
この先この悍ましい記憶がどれほど夢の中で繰り返されるのだろうか。
「このおじさん誰?」
「バンパイアよ。凶悪な奴だけど口を割らせて見せるわ」
「それでは口を利けないのでは?」
お姉さんは私の言葉に「はっ」なりバツが悪そうにしていた。
口を覆っていたひげ根がシュルシュルと離れていく。
「吐きやがれ!」
改めてお姉さんの尋問が再開された。
しかし気弱そうで冴えないこのおっさんが本当にバンパイアなのだろうか?
オバサンの家族を手に掛けたのだろうか?
「い、痛い…何の話ですか?」
あいにくオバサンに話は聞こえていない、遠くの方で草木に夢中になっている。
おじさんの尻を蹴とばすお姉さんの尋問は容赦なく繰り返された。
「お前が父と娘の親子に手を掛けた事はわかっているんだ!吐きやがれ!」
「手を掛けてません。血を頂いただけです」
「だから、それが殺したってことだろ?」
「いや、だから殺してません。生きてる筈ですが?」
お姉さんの蹴りがピタリと止まった。
首をかしげて「???…」といった顔をしている。
お姉さんは慌ててオバサンの所に走り、抱えるとUターンして戻ってきた。
「オバサン、旦那さんと娘さんは亡くなっていたのよね」
「はい。ミイラみたいに干からびて」
「それ、生きてますよ。体力が回復すると元通りになります。1週間以上掛かりますけどね…ハハハ…」
おっさんは笑い事の様に言ってるが笑い事では済まされない。
オバサンの顔からみるみる血の気が引いていく。
「埋葬してもう何か月も経つんですけどぉ」
「私に血を吸われてバンパイアの眷属になってるので、地中に埋まってるなら3年くらいは平気ですよ。腹は空かせてるけど」
オバサンは慌てて畑の隅に佇む墓地に向かった。
スコップを手にして一心不乱にを掘り返した。
大小の棺がいっぺんに掘り起こされていく。
「ガブ!!」
「ガブ!!」
大小の棺がガタンと開き、ダンディなオジサンと私にそっくりな女の子が飛び出した。
顔色の悪い二人は瞳を充血させながら一心不乱にオバサンに襲い掛かる。
首元を同時に噛みつかれたオバサンはみるみる干からびていった。
「うわぁー嫌なもの見ちゃった…」
お姉さんの顔は青ざめている。
干からびてくオバサンとは逆に二人の顔色は人間味を取り戻していった。
白骨化の一歩手前の姿のオバサンは死んでいるようにしか見えない。
これではオバサンが死んでしまったと勘違いして埋葬してしまうのも納得だ。
「おじさん、これ生きてるんですか?」
「生きてますよ。戻るのに時間は掛かりますが…」
私は試しにオバサンの口にとろろを注いでみた。
「ビチャビチャ…」「うぐっうぐっ…」
干からびたオバサンがみるみる元通りになっていく。
「あなた!!真利亜!!」
気が付いたオバサンは娘の真利亜を抱きしめる。
その光景は仲睦まじい親子の日常にしか見えなかった。
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