第6話 山芋の効能
辺りが地獄絵図となった様子を見てお姉さんとオバサンは口をあんぐりと開いていた。
そこに言葉は無く、血の気を失った2人は魂の抜け殻の様に放心していた。
「凄い事になったんですけど…⁈」
私の言葉も耳に入らないのかお姉さんは遠くを見ている。
現実から逃げ出して過去の思い出にでも浸っているのだろうか?
「話を聞いて下さいよ!」
お姉さんは「はっ!」と我に返った様に私を見つめた。
「なんてことを…」
「知りませんよ…言われた通りにやっただけです!」
「少しは力の加減をしなさいよね!」
「これどうするんですか?」
取り返しの付かない状況に私は人任せにするしかなかった。
「土に返しなさい!」
ぶっきらぼうな、お姉さんの言葉は全く意味が伝わらない。
どうするのか具体的な言葉が欲しかった。
「どうやって?」
「山芋はそもそも根っこよ。栄養分を吸収できるわ。そこから吸い取れば良いのよ」
「えっ?とろろで?」
話しがかみ合っていない様だった。私はとろろでとろろを吸収することをイメージしていた。
「違うわよ!山芋って土に這ってる根っこなの!これよ!」
そう言いながらお姉さんはどこかから泥だらけの山芋を出した。
「へぇ~これが山芋なんだぁ~」
お姉さんは山芋を辺りいっぱいのとろろに沈める。
「あんたこれを持ってとろろを吸い込むのをイメージして」
私はお姉さんに言われた通りイメージを浮かべた。
すると山芋の近くのとろろがみるみる吸収されていく。
しかしそれは全てを吸収する程の勢いはなかった。
「これ全部、吸い取るには日が暮れちゃいますよ」
「ここら辺の地面いっぱいに生やして一気に吸い取って」
「どうやって?」
「とろろを出した時と同じように指先から山芋を出すイメージをするのよ。今度は指を地面に向けてて良いからね」
私は言われた通りにイメージした。
さっきと同じように体は茶色く光り、体中の熱が指先に集中する。
指先からうねうねと山芋が伸びだし地面に向かって広がっていく。
私はその悍ましい光景にドン引きし虚ろな顔を浮かべていた。
「さあ、伸ばしきったら吸い込むのよ」
『ズズズズズルズル…ズズズズズルズル…』
鼻水を啜るような気持ちの悪い音が辺りに響き渡った。
オバサンも何だか嫌~な顔をしている。
しかし思った以上の速さで、辺りを埋め尽くしたとろろは無くなっていた。
「片付いたみたいね。じゃあ、オバサンの口にとろろを流し込むのよ!」
「きゃー、殺されるー」
慌てた様子のオバサンは一目散に逃げだした。きっと物凄い量のとろろが注ぎ込まれ、腹が破裂する己の姿を思い浮かべたに違いない。
お姉さんは「ちっ!」と舌打ちをするとオバサンを追いかけた。
オバサンはお姉さんにすぐに捕まった。羽交い絞めにされて私の元へとやってくる。
「さあ、オバサンの口にとろろを注ぎ込みなさい!少しで良いからね!」
私は言われた通りにオバサンの口めがけてとろろを放った。
『ベチャベチャベチャベチャ……』
「うぐっうぐっ…」
何かの拷問でもしているかの様な気分だった。
とろろを飲み込むオバサンの姿は泡でも吹いてるようだ。
嫌な気分で放出を続けるとオバサンの体がうっすらと光り始める。
その輝きは激しさを増し辺り一面を光が包んだ。
光の中から現れたオバサンの様子は憑き物が取れたようにすっきりしていた。
にこやかに微笑むその姿は活力がみなぎっていた。
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