エピローグ半年後 俺達の憂鬱(中) 

 まずい、今までにない何かが来る!


「させません!」


 サリアの声。

 同時にゴーレムの一体が前方に急加速。

 高速移動魔法、フミノ先生は縮地と呼んでいた魔法だ。

 瞬く間に敵魔物へと急接近。


 敵魔物の魔力が更に膨れ上がる。 


水の壁アクアエ・ムーリエラ!」


 レズンが本気の防護魔法を起動した。

 なんだな調が消えたのがその証拠だ。

 俺は身を低くして次に来る何かに備えつつ、魔法で敵と状況を見逃さないよう監視する。


 強烈な光が前方で炸裂した。

 敵が放った火属性、爆裂系の魔法だ。


 レズンの防護魔法のおかげで熱も風も俺達のところまでは届かない。

 しかし突進したゴーレムが4腕8mくらい吹っ飛んだ。

 盾で攻撃魔法を防御したが、勢いは殺しきれなかったようだ。


 しかし魔法の直前、ゴーレムの槍は敵魔物の羽根を貫いていた。

 魔物が下へと落ちる。

 致命傷ではなさそうだが、飛ぶことはもう出来ないようだ。


 そして受けた傷のせいか魔法を放ったせいか、魔物の魔力反応が落ちている。

 これなら次の攻撃までに間が空く筈。


 チャンスだ。

 俺はレズンの背後を抜け出し走り出す。

 身体強化魔法と大風魔法を起動して一気に前方へ加速。


「行け!」


 投槍を全力で投擲し、風属性魔法で槍を加速させる。

 魔物が俺の方を、そして槍の方を見る。

 魔物の魔力が膨れ上がる。

 だが遅い!


 投槍は敵の喉元から胴体へと刺さった。

 急激な速度低下のせいで槍の柄部分が上方へと跳ね上がる。

 そんな槍の動きを受けて魔物は仰け反るような形で後方へと倒れた。


 魔物の魔力反応が急激に落ちていく。

 倒したか。

 しかしまだ油断は出来ない。

 魔力反応が完全に消え失せるまでは。


 10数えるくらいの間が経過。

 あの魔物の魔力を完全に感じなくなった。

 どうやら倒す事に成功したようだ。


 魔物の攻撃で飛ばされたゴーレムが起き上がった。

 ゆっくり前進して、魔物のところでしゃがんで手を伸ばす。


「魔石ごと死骸を回収します。あと投槍と矢も。勿体ないですから」


 確かに槍も矢も残しておくのは勿体ない。

 どちらも金属部分は魔力を帯びやすい特殊金属製。

 市販品とは訳が違うのだ。


 ただあの、攻撃魔法が一切効かない魔物を倒した直後の言葉がそれというのは何か違う気がする。

 もっと何か、喜びとか何かあってもいいと思うのだ。

 これではただの作業終了という感じがする。


 しかし一番活躍したのは間違いなくサリアだ。

 サリアがゴーレムに突撃させ傷を負わせたからこそ、俺がとどめを刺す事が出来た。


 それに俺が突進して投槍を投げなくとも、ゴーレムに再度突撃させれば充分あの魔物を倒せたように思う。

 同じ型のゴーレムはあと4体あるし、魔法で被害を受けたゴーレムだって見てくれはともかく普通に動かせているのだから。


 というか、サリア1人でも大抵の討伐任務は出来る気がする。

 空属性レベル5の威力で遠方の魔物でも空即斬魔法で倒せるし、魔法が効かなくてもゴーレム5体を使えば問題無さそうだし、高速移動魔法も使えるし。


 なんて考えていると、ふっと何か立ちくらみのような感じがした。

 魔力不足になる程魔法は使っていない筈だ。

 なら何なのだ、この感覚は。


「この迷宮ダンジョンはこれで終わりのようです。空間が揺らいでいます。間もなく消えるでしょう」


 ヒューマが何でも無い事のように言う。

 えっ、消えるって?


「攻略完了なのか、今ので」


「そのようです。迷宮ダンジョン全体の存在がぼやけ始めています」


 俺の言葉をヒューマが肯定する。


 ただそう説明されても俺にはよくわからない。

 何かふらふらするような感じがするだけだ。

 しかし空属性レベル5のヒューマには、きっと俺には見えない何かが見えているのだろう。


 心配する必要は無い。

 迷宮ダンジョンが消えた場合、中に入っていた冒険者は入ってきた場所へ戻るだけ。

 中で発生した魔物は迷宮ダンジョンとともに消えてしまうけれども。

 その事は先生達から聞いて知っている。


「歩いて戻らなくて済むから楽だな……」


 アギラの言葉とともに周囲が見えなくなる位ぼやけて……


 眩しい。

 いきなり明るい所に出たので目が慣れない。

 目を瞑る寸前くらいまで細めて周囲をさっと見る。

 外、それも迷宮ダンジョンの出口があったところだ。


「えっ、貴方方は……」


 この声はサレルモの街にある冒険者ギルドのマスターだ。

 まだ目が明るさに慣れないので、監視魔法で迷宮ダンジョンの出口があった場所を確認。

 口を開けていた洞窟が無くなっていた。


「先程攻撃魔法が効かない魔物を倒しました。どうやらその結果、迷宮ダンジョン攻略という事になったようです。

 ですのでここの警戒はもう必要無いと思われます」


 対人折衝はヒューマの仕事だ。

 迷宮ダンジョンから出たばかりなのに、既に全てがわかっているような顔をして話し始めている。

 俺達は何も言わず、奴に任せておけばいい。


「そうなのか、やってくれたのか」


「先程言いました攻撃魔法が効かない魔物の他、迷宮ダンジョン内で50匹以上の魔物を討伐しました。回収出来るものは死骸や魔石という形で持ち帰りましたので、指名依頼完了を含め、冒険者ギルドの方で報告したいと思います」


「わ、わかった。それで此処は……」


迷宮ダンジョンは攻略しました。此処にあった出口が消えている事と、迷宮ダンジョン内のかなり奥にいた筈の私達がここへ転送されている事から見て間違いないと思われます。


 それでも街の方が不安というのでしたら、最低限の人員を見張りとして残しておけばいいでしょう。もう迷宮ダンジョンの出口は無いのですから、魔物が出てくる心配はありません。


 ただもし何かあった際に報告に走れるよう、複数人を配置していた方がいいでしょう」


 ヒューマめ、壮年のギルドマスターよりも落ち着いた感じで話している。

 まあ迷宮ダンジョンの発生や攻略なんて経験がある奴なんてほとんどいない。

 だからこの事態でどう判断していいか、ギルドマスターが困っているのは理解出来る。


 勿論俺達もこんな経験ははじめてだ。

 ただ先生達が迷宮ダンジョンを攻略した時の話は何度か聞いている。

 だからある程度予備知識がある訳だ。


「わかった。領騎士団とも話して此処の事は決める。君達は冒険者ギルドに先行してくれ。何なら討伐した魔物の提出作業を始めていてくれると助かる」


「わかりました」


「なら行くんだな」


 レズンが、そして俺達も歩き出す。

 冒険者ギルドは遠くない。

 せいぜいここから100腕200m程度だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る