ミッドナイト ハンティング

 何となく眠れなくて真夜中のコンビニへ。赤の他人でもいい。独りでいたくなかった。

 レジの中にはワンオペの店員さん。気だるげに入店を歓迎してくれた。いや、もしかしたらあれはもはや条件反射で、彼はパブロフ君なのかもしれない。そんなくだらぬ事を空想して、ひたすら意識を逸らす金曜夜。正確には、土曜深夜。

 お菓子を選びつつ心此処に在らず。飛んでいった心は、貴方を描き続けている。


 憧れの貴方は雲の上の存在。所属部署は同じでも、あまり接点がなく、決して届くことのない一等星。

 そうと分かって潔く諦めたつもりでいたけれど、覚悟が足りなかったらしい。美しく瞬く星を、いつまでも眺め続けていた。

 今日のお昼時、同僚が言った。

「パートナーと仲良く歩いてるのを見た人がいるって」

 アドバイスを意図した発言だったと思う。優しさだと思うけれど、亀裂を隠しつつ騒めく心。「完全に終わったんだ」。


 星を失い、それでもなお、あの輝きを忘れられない胸の奥。


 お酒のショーケース前で適当に視線を漂わせていると、入店音が響きパブロフ君が鳴いた。


 そこでふと我に帰る。

 今、右手には百円チョコレート、左手にはオマケ目当ての発泡酒。こんな虚しい姿、赤の他人でも晒したくない。誰かの瞳に触れた途端、チョコより早く溶ける自信がある。

 急いでレジを目指す瞬前、優しく響く呼び声。

「向伊さん?」

 この世で一番会いたくて、この瞬間は最も会いたくない、貴方だった。

 視線が勝手に先走り、眼鏡姿と無造作に降ろされた前髪を初めて拝む。既に心臓がとろけそう。辿々しく「こんばんは」と返すのがやっとだ。

 けれど眼福な時間は儚く終わり、すぐさまカゴの中のスイーツ数点が目に入った。甘党な一面を知れたが、そんなの全く嬉しくない。だって。


 きっと、お家で待ってるパートナーと食べるんだろうな。


 そんな邪推が顔に出ていたんだと思う。彼は照れくさそうに手を振った。

「深夜にこの量はヤバイですよね」

「二人なら丁度良いのでは?」

「それが一人分でして。新商品とか、期間限定の文字に弱いんですよ。これとかパッケージオシャレだし」


 知れば知るほど可愛いらしい人。

 そんなに魅力を振りまいてどうするの。


 彼はこちらの手元を覗いて言った。

「向伊さんもそのチョコ好きなんですね」

「ええ、まあ」

「あ、そのお酒まだあります? 最近よく飲むんです」

 指先で場所を示せば広がる笑顔。咄嗟に目を逸らした。

「気が合いそうですね。僕たち」

 咄嗟に耳を疑った。

 硬直する手から、優しく抜き取られるチョコとお酒。いつの間にかご馳走になっていた。



 後から聞いた話によると、じっくりとスイーツを吟味する姿を誰にも見られたくなくて、時折ひそかに深夜のスイーツハンディングを決行するらしい。

 さらにあの噂は噂でしかなく、たまたま妹さんといた所を勘違いされたのではないかとのことだった。

 ちなみにこれはスイーツハンディングから数週間後に、彼氏から直接聞いたお話。

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