冒険者の夢

@TSGui

第1話 - 転移




(異世界かあ)


っと、コンビニのバイトで暇な時間に漫画を読みながら、その言葉を頭の中で

繰り返した。


日常だ。


(俺もこういう世界に行きたいなあ)


異世界ものにハマり、毎日のようにこう願っていた。


それが本当に起こると知らずに…


……………


「はあ」


(なんてなあ。こんな風に言っても起こらないよねえー)


いつものようにそうしていると客が来た。


(妄想は後にしようか)


お客さんの目当ての物は既に決めていたようで、それを迷わずに取り、すぐに

会計に来た。この男は知っている。近くの高校の先生で、昼休みはこうして

コンビニで弁当を買いに来る。


(学校かあ。異世界じゃ魔法学校が多く出るなって、仕事中だ!)


またしても妄想を始めるところだった。


「あれ?」


何かあったか。先生は外を見て、何かに気を取られた。


「先生、どうした?」


「月島くん、いきなり静かになってないか?」


(ん? 確かに静かだな)


ここは本当に学校に近いから、昼休み中の生徒達の声が聞こえるくらいだ。


(っていうか…)


「クーラーに電気はあるけど動いてないな。冷蔵庫も、カメラも同じだ」


先生に言われて段々と他のところにも違和感を感じ始めた。


(音っていうより、動き?)


流石に異変を感じ、俺と先生は外へ出た。


「あれ、車も止まっている?」


先生は数メートル前に道路の真ん中で止まっている車を指さした。


「中に閉じこまれているかも知れない。先生、見に行こう!」


先生と一緒に走って、車に近づいた。


「おい、大丈夫⁉って、なんだこれえ!?」


止まっている。

車に近づき、中を見たら運転者の男はまるで何も起こっていない様な顔で

前を見ている。


だが、動いていない。


(時間が止まっている!?)


窓をノックして、ドアノブを引っ張って1ミリも動かない。車全体が止まっている。


「月島くん、何が起きている!? ドッキリか何か!?」


「流石に分からないけど、ドッキリにしても、俺が居たコンビニの物が止まっているのは変だ」


先生と一緒に状況を飲み込めずに居ると、またしても変化が起きった。

だけどその変化に、俺は二重の意味で驚いた。


「何だこの光!?」


突然に俺と先生の足元が光りだした。


(これは…)


その光が消えたっと思ったらいきなり戻って、ある形になった。


(おいおいおい! 魔法陣だ!!!)


俺たちの足元の魔法陣らしき物に文字が現れ始めると、その光が増した。

先生は魔法陣から出ようとしたが、動いても追ってくるようだ。

そして10秒くらいで文字が止まると、俺の目の前の景色が一瞬で変わった。



道路の真ん中に居たが、今は真白な部屋に居る。


(ヤバイヤバイヤバイ!)


俺は周りを見ながら、この状況への期待を膨らませた。

この白い場所には俺だけじゃなく、先生の他に1、2、3…8人が居る。

皆バラバラに制服、スーツ、私服を着ている。


制服の学生達は5人で知り合いか、一つのグループになっている。


(他の人は他人同士のようだな)


「あの子達は私の生徒だ。どうしてここに…」


先生はそう言って、学生達のところへ向かった。


(本当に何が起きっている…?)


皆で状況を分からずに居ると、俺たちから10メートルくらい離れた所に一人の

女性が"突然に現れった"。


「始めまして、私の名前はシェイラ。女神です」


その真白な服と赤くて長い髪の女性は全員を見ながらそう言った。


(マジか…)


他の人も驚いているようだけど、誰一人も声を上げない。全員が女神と名乗った

女性の話を静かに聞いている。


「君たちを召喚したのは私ではないですが、ここに居る全員は異世界に行きたい

と願っていることは知っている」


(っ!)


以外に冷静だった俺たちは異世界という言葉で流石に我慢ならなかった。


「本当にですか⁉」

「どうしてそれを知っている⁉」

「本当に女神様なの?」


「ええ、真実ですよ。異世界、アトラリアという世界で君たちが本などで

読むように、とある国が勇者召喚の魔術を使いました。その召喚は自分たちの

世界だけではなく、アトラリアと繋がている世界で勇者に相応しい素質の者を

探し、強引に召喚するものです」


(強引…)


その言葉に反応した瞬間に、女神が俺の方を見た気がした。


「ですが、私はその魔術に干渉をして、その世界に行きたいだけの人を

探しました。そして選ばれたのは君たち10人です」


(噓かどうかは別にシンプルで分かりやすいが、俺たちにも何かの力があるのか?)


「君たちも勇者になる素質は持っているのです。もしもアトラリアに向かうことを

決めたら、見合ったスキル、または魔術などの能力を使えるようになります」


(本当に剣と魔法の世界だ…)


「正しく、君たちの求めている世界でしょう。ですが…」


女神はそう言い終わると、足元に巨大な映像が現れた。


「その世界は平和とは限りません」


その映像に映っているのは剣、杖や弓などの武器を手に持ている人達だ。


(冒険者か何か?)


その人達は森の中を歩いていて気づいていないが、後をつけている者が居た。


それは2メートルもある巨大な狼だった。


「これは今、アトラリアで起きっていることです。この世界には魔物が居て、

人々を無差別に襲ってくる化け物です」


女神がそう言っている間にも狼がその人達に段々と近づいていた。そして一番後ろ

に居た人の背中に音一つも無く前足を振り下ろした。


映像から音は出ないが、地面に落ちて、血まみれになりながら痛みに苦しむ男の

姿は俺たちに充分以上のショックを与えた。


(映像が消えたけど、今で起きているってことはまだ終わっていない)


「女神さっ」


「出来ないです」


「えっ?」


力を貰えるなら俺をあの人達へ飛ばしてくれっと頼もうとしたが、即座に断れた。


「君たちは一つの国に召喚されています。私は魔術に干渉しましたのですが、これ

以上に世界と関わることは出来ません。召喚を受けるかどうかだけが選択肢です」


(今話している間にもあの人達は死んでいるのに、本当に出来ないのか!)


「それでは、私からは以上です。向かわない人は地球に戻り、今までのように

過ごします。そして、アトラリアに向かう人は地球へもう二度と帰らないという

可能性があります。人々からも君たちの記憶が全て消されます。それを考えた上で

決めてください」


女神はそう言って、目を閉じた。俺たちに考える時間を与えた。


(この女神、俺たちに人が死んでいるところを見せて、この状況で浮かれている

俺たちに覚悟を持たせるつもりか。優しさ故にかもしれないが、こっちとしては

人を見殺しにした気分だ)


他の人を見れば同じか、顔に戸惑いを浮かべている。


(俺はもちろん行くが、最後まで他の人がどうするのを見ないといけない)


学生たちは先生と一緒に話をしているけど、全員は行きたいようだ。中には

笑顔を浮かべている子も居る。先生は5人の安全を心配しているが、自分も

この状況を望んでいたからか、強くは言えないみたいだ。


(っていうか先生も異世界が好きだったのか)


他の3人はスーツの男、そして私服を着ている女性が2人だ。その3人と先生たち

の話が終わり、女神を見ていた。彼女は目を開けて、その瞬間に全員の足元に

魔法陣が現れた。


「全員向かうのですね。私の関わりはこれで最後です。いい人生を…」



………


……




つづく

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