アンハッピーバースデイ
空殻
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誕生日を喜ばなくなって、もう何年になるだろうか。
子どもの頃は、誕生日が近づいてくるとそわそわとして、毎日少しずつ楽しさが増していった。
そして誕生日当日、家族に祝われながら、その日一日、自分は主役だった。
おめでとうと言われ、プレゼントをもらったり、おいしいものを食べたりして、とにかく一日中楽しかった。
少し成長すると、自分が生まれてきたことを感謝する日だという意味も理解できてきて、神様なんて信じていないから、とにかく両親に感謝した。
何度か、自分が生まれた日のことを聞いてみたりもした。
自分はよく晴れた夜、流星群が降り注ぐ日に生まれたのだと聞いた。
それは分かりやすく特別な日で、そんな日に生まれたという特別性を自分が持っているのだと思うと、誇らしいような気持になったのを覚えている。
でも、今はもう誕生日は喜べない。
自分が何歳なのか、数えるのを止めてしまった。
もう何年前のことなのか正確には分からないけれど、だいたい今から1000年前、自分が10歳の頃に、世界に再び流星群が降り注いだ。
自分が生まれた日に世界の2割を滅ぼしたその流星群は、今度は残りの8割を全て滅ぼしてしまった。
赤く燃える星がいくつも、いくつも空から落ちてきて、人類の文明を焼いていった。
その時自分が住んでいた町の近くにも巨大な隕石が一つ落ちてきて、見えない衝撃と熱波が建物を吹き飛ばして、町を焼き尽くした。
家族もその時に皆消えてしまったのだけれど、その時に自分は、轟音と瓦礫と灼熱の炎に包まれながら、自分が生まれた日のことを思い出した。
自分は流星群の日に、空から落ちてきたのだと。
人類が誰もいなくなった世界に、自分は取り残された。
星の雨は、自分を殺すことはできなかった。
その辺りから体の成長が止まってしまって、僕は10歳前後の姿で、滅亡後の世界をさまよっている。
時間は膨大にあったので、崩れた町の積み重なった瓦礫を少しずつ掘っていって、ついに自分が住んでいた家の残骸を見つけた。
そしてその中で、かろうじて燃えずに残った両親の日記を見つけた。
自分は、流星群の日に、空から落ちてきた星だったらしい。
他の星が墜落しては世界を砕いていく中で、自分だったその星はとても小さく、また燃えずにただ、白く煌々と輝いていたらしい。
空から舞い落ちるように降ってきたその星は、地面にふんわりと着地し、人の子どもの形をとったそうだ。
その様子をたまたま目撃したのが両親で、元々子どもがいなかったことと、あまりに不思議なその『星の子ども』とでもいうような奇跡に感動して、自分たちの子どもとして育てることに決めたのだという。
事実を知って、自分だけが生き残った謎は解けた。
流星群は人類を滅ぼしたが、同族である自分を殺しはしなかったのだ。
それでも、この大地に取り残された自分は、いまさら空に帰ることもできなくて、そもそも人間として生きてきたのだから星として生きることなど願い下げで、だからずっと、この大地で人間として死ぬ日を待っている。
星の寿命は、あと何年だろうか。
それはとても遠大で、数えるのはあまりに気が滅入るから、歳月を数えるのは止めた。
アンハッピーバースデイ 空殻 @eipelppa
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