神の悪戯~世界の偽り~

ネムネム

はじまり

漫画やゲームの世界では、特異能力を持った主人公が活躍して世界を救う。

でも現実では、そんな事は起きない。


小さい時は「夢」を親や小学校の先生に言っても誰も否定はしない。

だが、高校受験を前にすると、親も教師もまだ本人にも分からない「未来」について考える様に言ってくる。


仮にプロ野球選手になりたい。映画に出る様な有名な俳優になりたい。そんな「夢」を言ったら、必ず言われる。「現実を見なさい。」「それじゃ食べて行けないぞ。」

分かっている、自分には他者を圧倒する才能も無ければ、外見的優位性も無い。

隣に住んで居たお兄さんが、話をしてくれた言葉を思い出すな。


「夢を見続けろ!そして行動に起こし続けろ」


正直、意味は未だに表面上しか理解出来ない。夢を見続けても叶わない夢なら、諦めた方が余程楽だから、行動に起こす様に言われたけど、それも続かない。

やりたい事を悉く否定され続けると、人間は何もやらなくなる。


おじいちゃんから貰った望遠鏡。

遠くに感じていた星々が、望遠鏡を覗き込むとそこに居た。

俺は楽しかった、空を見上げれば自分の知らない世界が無数にあった。


そんな事をじいちゃんに話すと、じいちゃんも楽しそうだった。

小学校終わりには、家から近いおじいちゃんの家に毎日の様に通った。


おばあちゃんはジュースとお菓子を用意して待っていてくれて、おじいちゃんは宇宙の本、他の星に生息しているかも知れない、未知の生物が書かれた本を出してくれていた。

そんな本を読んでいるのが俺は楽しかった。


「どうだ?面白いか?」

おじいちゃんが聞いて来た、俺は本の中に広がる世界に夢中になっていたのだろう。


「うん!宇宙にはこんな生き物がいるの!?」


そんな無邪気で何も知らなかった俺は質問をしていた。

今では部屋から見る空に何も感じない、いつも曇っている様にしか見えず、ただ広いだけの空。曇天。私の心を映し出した様な色。


毎日おじいちゃんの家に行っていたある時、おじいちゃんは帰る私に何冊か本をくれた。

貰った本は宇宙誕生から現在に至るまで、さまざまな事が載った宇宙の歴史本を貰った、おじいちゃんは帰ってから読む様に言って来た為、走って家に帰った。


家に着いて、急いで中に入ると玄関には母親が悲しそうな目をしながらこちらを見ていた。

普段と様子が違う事に幼少の私でも気が付き、そこはかとない恐怖心が背中に圧し掛かった。

すると、母親は涙を流しながら私が貰った本を無理やり奪うと、今日の朝までの母親の姿はそこには無く、何かが憑依した様に狂い、発狂しながら私の肩を抑えて来た。


「またあの家に行ったの!」


涙を流す、母親はもう私の知る母では無く、嫉妬に取り憑かれ、今にも私を殺してしまうのではと思う程に恐怖した。


私が会いに行っていた、じいちゃんは父方の家だった。

母は昔ら義父とは会話が出来なく、自分がどう思われているのか不安なのかと当時の私は安易に考えていた。外功内嫉なのだと思い込んでいた。


そんな中、私が毎日通っていれば精神的に余裕が無くなる事は想像出来る。

恐怖で体を動かす事も出来ず、声もろくに出ない。そんな私を見た母は・・・。

私は恐怖のあまり、玄関で小便を漏らしていた。


恐怖心。ホラー映画を見るより、お化け屋敷に1人で入るより。圧倒的な恐怖。

涙も出ず硬直した体は動かず、あれを金縛りと呼ぶなら、私の金縛りはあれが初めてであった。

嫉妬、妬み、嫉む、嫉視、母が私と祖父に向けていた気持ちはこんな言葉で表せられるのか?

今では母が心配する気持ちは理解できる・・・・・そう思いたい。


酔生夢死、まさに今の私に当てはまる。酒は呑める年齢ではないが、酔う、と言う事はどういう事かは調べたから知っている。


今は何をやるにも基本的に母が反対して、俺も父も何も言わずに終わりにしてしまう。

家庭崩壊に近いだろう。いや、あの時もう崩壊してしまったのかも知れない。

そんな幻想を受け入れつつも、昔の様に仲良く話をしたい。


俺は母にプレゼントを贈る事にした。来週は母の誕生日だったからだ。

普段、会話という会話をしないで居たが、久しぶりに母が笑う顔が見られるかもしれない、そんな淡い期待と想像をしながら母が好きな花にコスメとハンドクリームを渡す事にしよう。買い物を進め、家に向かう足は不思議と軽かった。


駅前を過ぎ、商店街を歩いていると昔の記憶が蘇って来た。

今も昔も賑わい、少し煩いぐらいに人の話し声が色々な場所から聞こえる、俺の家では森の中に居る様に静かで、居心地の悪さを感じる時があるが、ここは変わらない。

気まぐれに帰り道を変え、久しく来ていなかった商店街はお祭りの様に人の生きた声が響いた。


中学生の時に市内のホールで聴いた、オーケストラの音圧に圧倒され、感動した時の高揚感、初めて映画館で映画の音、俺は静まり返った家が怖く逃げたかった。

友達を家に呼ぶ事も怖く呼べなかった、もっと賑やかな家族で居たい、そんな寂しい気持ちがあるのかも知れない。

懐かしい雰囲気に聞き覚えのある声に。

「あの肉屋のおっさんはまだ元気に店に居るんだ。」

不意に声が出た、時間がどれだけ過ぎても俺には大切な場所なのだと感じられる。

心のどこかで安堵する。


辺りは暗くなり、まだ家まで少しある。冬の寒さが俺の足を自動販売機の前で止めた

「何か飲もうかな?」小銭を財布から出し、何を買うか悩む。

温かい飲み物を買う事は決めているが、何を飲むか決めかねる。


コーヒーは家で毎日の様に飲んでいる、だからここでもコーヒーにしよう!なんて無難で問題ないが、普段家では飲まない物を!そうなると自販機にある物のほとんどを家では飲まない。


コーヒーか水しか家では飲んでいない。

目の前に並んでいるお茶、紅茶、ホットレモン、ココア、コーンスープ、どれも家では飲まない。

どうするか?俺は一瞬悩み空を見上げた。

見上げた空には満天の星空。


「あぁ、綺麗な星空だな。」



うん?暗い?星空は何処に?それになんだ?この浮遊感、まるで体が一瞬浮き上がった様に感じる、エレベーターが止まる瞬間みたいなのが、断続的に続いている。

本当に浮いているみたいだ、昔読んだ、ピーターパンの様に手を広げ空を今にも飛べる!そんな錯覚さえしてしまいそうだ。


「なんだ!俺は夢でも見ているのか?最高に面白いじゃんか」


そんな事を口にしていると何かが聞こえた?音?声?良く分からないけど、この夢ならいつまでも見ていたいな。


「おい?お前いつまでも遊んでいないで早く「あの世」に行ってくれないか?」


さっき聞こえた声の主が現れた。どこかで見た事がある見た目、直感的に、私が世界で一番嫌いな存在「神」って奴だ。直接見た事が無くてもこの変な空間に居ると理解できる、あれは、紙に書かれていた神だ。


見た目は金髪にエスニック系のシャツにサルエルパンツにサンダル。

神にしてはラフな服装でアクセサリーも着けている。


「おい?人間?聞いているか?」


なんだ?そう言えば、なんて言っていたっけ?

すると凍り付いた冷たい眼光にニヤついた顔で神は言う。


「さっさとあの世に行けこの糞野郎。だよ?」


何だ?この口の悪い神って奴は?私の様に誠実に生きていれば、使う事の無い糞尿塗れの様な言葉は、神って存在も紙の中でしか居ないモノだと思っていたからな?いや、ゲームや漫画にも出て来たか?でも今、目の前に居るのが、神なら俺は?


「お前は死んだんだよ?自販機を目の前に空を見上げたその瞬間、撃たれて死んだ」


はぁ?撃たれた?何を言っているのか、私は知っている、よくある異世界転生ものの主人公が死にました、神に貴方は異世界で頑張りなさいって言われるアレだろ?だが、神が現世で信者に言わせている、魂の救済をサボって自分の娯楽の為に死者の魂を異世界に飛ばして見て笑い、面白く無ければ、困難を主人公に与える。誰がそんな事を頼んだ!


「お前は我が憎いのか?」

ニヤついた表情、不遜な態度、神は私の想像通りだ。


「憎い?何の事だ?」

本当に今、目の前に居るのが神なら私は直ぐにでも殴りたいが、そんな事、時間の無駄だ。


「お前の母が死んだ時、なんて言ったと思う?「あの子との時間がもっと欲しい」と泣いていたな?最高に不細工な顔をしていたぞ!人間?」


えっ?


「それに比べてお前は自室に引き籠り、死んだ母親の事を受け入れないで、幻想の母親にプレゼントを渡そうとして、気まぐれに買い物に出たら。

職質を受けた、ヤク中のジャンキーが警官の拳銃を奪って逃走、そんな時に馬鹿なお前は呑気に空を見上げていて、逃走中の犯人がお前に向かって発砲、ヤク中の奇跡がここで起きた!お前の頭を見事に一発で撃ち抜き、お前は即死。」


嬉しそうに話す神は、座っている椅子の肘置きに肘を立て頬杖を着き、白い歯を見せながら、うっすらと笑った。


あぁ、なるほどなぁ、この嫌な気持ちは何なのか分からなかったが分かった、私は自分が嫌いで現実逃避を繰り返していく中で、こんなクソみたいな妄想までして自分が母親に会いたいマザコン野郎だって。


小学生の「あの時」死んで会えなくなった母さんに私はまた会いたい、死んだ母に心配させない様に中学では、上手く友達を作ろうとしたが1人も作れず、ただ、教室では周りの空気を壊さない様に自分を殺し、集合写真でも気が付かれない様に、姿を消して、修学旅行でも同じ部屋の奴らが寝る前に寝て、空気として3年間過ごした。


高校では自分を受け入れてくれると信じて、なのに自分からは何もしないで内気な性格、そのくせ、周りを見下す様になって来た。ろくに青春というものを謳歌しないで終わった、大学にも行かず引き籠って。

もう辛い・・・・。

もう妄想の世界で生きるのも疲れた。目を覚ましたら首を吊ろう。


「バーカ、お前はもう死んでいる。話聞いて無いのかよ?」


「っじゃあ本当に死んでいる事を証明しろよ!」

どうせ、これは俺の夢の中、起きれば部屋に居て、いつもと同じ朝が来る!


「じゃあ、一瞬だけ生き返らせてやるよ?もう一回殺されて来いよ!童貞ニート!!」


「パチンッ」

神が指を鳴らした。頭が痛い、今まで味わった事が無い痛み。


「銃を降ろせ!早く降ろせ!」


「俺は新世界の神になるんだ!ギャァハハハ」

なんだ?煩いな、てかやっぱりさっきのは夢だったのか!何が神だよ?今時小学生でも信じないぜ。


「おい?お前なんで死んで無いんだよ?そうか?俺が神になる為にはお前の様な悪魔も救わないとダメなんだな?」


何だよ、その目は、何を薄笑いこぼしているんだよ!おい、早く助けろよ警察!なんだよ、普段偉そうな事を言っているのに何でこんな時に助けないんだよ!

テレビであんなに市民の生活を守るのがどうとか、今、目の前に倒れている善良な市民が頭のイッてる奴に殺されかけているんだ、右顧左眄、無理無体、無理難題、優柔不断、あの警官には何が当てはまる!っていいから早く撃ち殺せよ!


「パンッ!」

乾いた音が響き渡った。なんだ!


「くっは」

犯人の口から大量の血液が俺の腹部に垂れて来る。


「ぐぁぁ」

男はまた口から吐血した。俺の腹部に浴びせられる度にその温かくも重たい命の液体。ただの液体なら軽く、塗らされた事に怒りを覚えるが、犯人とはいえ、撃ち殺せと願ったとはいえ、私の体に垂れてくるこれは命。


「パンッ!パンッ!パンッ!」

乾いた銃声がまた耳を貫いた。


「何を!そんなに撃ったらコイツ死んじまうぞ!」


「おい?悪魔?お前は俺が救ってやるから安心しろよ?」


コイツはなにを言って!止めろ。銃口をこっちに向けるな、その憐れんだ目はなんだ?アンダードック効果ってやつか?確かに服装は、お世辞にもお洒落じゃないし、髪型もボサボサ、死んでいないだけで、生きていないが。


「おい!ふざっ」



「アハハハハ、お前本当に面白いな!犯人に同情したり、警察に助け求めたり、挙句警察が撃つと逆ギレして。」


聞き覚えのある声にゆっくり目を開けると、目の前には神が足を組み椅子に腰を掛けていた、この浮遊感、そうか、また戻って来たのか。

あの犯人が俺を殺したのか、まぁ良いか、ここがもし夢なら目を覚ましたら死ぬつもりだったし、自分で死ぬより、一瞬で死ねたから良いか。


「一瞬で死ねたから良いのか??それはつまらない事を言うな?お前が死ぬ瞬間、死んだ後もまぁまぁ、面白かったぞ?見るか?」


神がまた指を鳴らすと、空間に俺が死ぬ瞬間の映像が流れた。


「おい!ふざっ」


俺が犯人に何かを言おうとした時、殺された。

額に一発撃たれた、血液は勢い良く飛び出していた、まるで水を溜めた袋に小さな穴が開き、水がそこから出て来る様なそんな光景。


しばらくすると、倒れていた俺の体が一瞬だけ動いた。まるで虫が頭を失ったにも関わらず、暫く動き続ける様な物に見えた。


「見たか?お前の不細工な顔?鼻水垂らしながら、何がしたいのか分からない言動、お前みたいな人間は少なくてな?殆どの人間はここに来て我が神だと言うと媚びて、あの世に問題なく行きたがる者、現世に未練があり帰らせてくれと懇願する者、大体がこんな人間で辟易としていた。

だが、お前はどうだ!我を「神」という存在さえ恨んでいるお前は、剰え我を殴りたいと来た!お前は信仰心が足りん。善行を積んだ訳でもない、現世で努力をした訳も無く、自分に都合の良い様に言い訳をして来た。お前は天国に行かれては迷惑、地獄の鬼にもこんな童貞ニート相手にさせるのは心が痛む・・・・・」


「じゃあどうすんだよ!消し飛ばして無かった事にしてくれんのかよ」


「それじゃ、面白くないだろ?お前みたいな童貞ニートの豚野郎は違う世界で、神への信仰心ってやつを教えた方が面白いよな?良かったな?童貞ニート君?人生もう一回やり直して、我、すなわち「神」を信じるチャンスを与えてやる!お前が憎む「神」に泣いて縋り付く姿が早く見たい、楽しませてくれよ?人間。」


「最後にお前は母親が玄関で泣いていた理由を覚えているか?」


「知りませんよ」


「だろうな!親不孝な童貞ニートに真実を見せてやろう?宿命通」


神がそう言うと私が生まれてから、撃ち殺されるまでの事が頭の中に流れ込んで来た。

そして、あの時の真実が分かった。

だから、母は泣いていたのか!それじゃ母を殺したのは俺じゃないか!

どうすれば良かったんだ。



視点変更・母


最近、息子が学校終わりに主人の実家に通っています、行く事自体には反対なんてしません。

義母も話し相手が孫の「俊」になる方が、また違う楽しさがあると思いますからね。

ですが、最近、息子が可笑しな事を言い始めました。


「今日ね、おじいちゃんに本を貰ったんだよ!」


私は驚きました、私は義父の事を知っていますが、息子と義父はあった事が無い、いえ、会えないのにどうしてそんな事を言うのか?私は主人に事の経緯を話しました。


ですが、主人は「ハハハ、どうせ、俊が父さんの部屋に入って本だけ持って帰って来たんだよ!で怒られるのが怖いから嘘を言ったんだ。」


私も初めはそう思う様にしていました。

ですが、次の日も、その次の日も俊はおじいちゃんから貰ったなんて、あの目は嘘を言っている様な目では無いんです。

嬉しそうに私に自慢したい無垢な目。


私は義母の所に次の日に行きました、話を聞いていると、俊は家に上がるなり二階にある義父の書斎に籠るようです。

義母も不安になり、様子を見に行くと室内から誰かと会話を楽しんでいるかの様な、俊の声が聞えてくるらしいです。


俊は昔から内向的で友達を作るのはあまり得意ではありません、だから楽しそうに帰って来る様になった時は安心しました。

義母と話をした後、私は家に帰りましたがショックが大きく、どの道を歩いて帰ったか覚えていません。

今晩中に今日聞いた話は主人に話をしないと、ダメだと思い話しました。


「ねぇ!アナタ真剣な話をしているんだから、お願いだからちゃんと聞いて!」


「分かっているよ、でも幼少期には大人に見えないモノが見えるなんて、良く聞く話じゃないか?むしろ、俊が楽しそうならそれで良いじゃないか?」


主人は理解してくれませんでした、あの子の無邪気な表情が私にどれだけ恐ろしいか。私はどうしたら良いの?あの子を思えば止めずに行かせ続けるのが親の責任なの?


そして、数日が経ったある日。蝉の鳴き声が静かな家の中にも微かに届いていた。

元気に玄関を開け「ただいまー」という声に私はいつも通り玄関まで迎えに行った。

元気な姿の俊、また義母の家に行ったのね?私は俊を思い、深く考えない様にした。

でも、その日は違いました。


息子の後ろに立つ「ソレ」は黒い人の形をした何か、目と口だけがあった。

眼光は恐ろしく、生き物とソレは違い、まるで・・・・「鬼」


息子を殺そうとしている、そんな風に見えました。

ニヤっと私に笑い、息子の体に触れようと腕を伸ばしました。

私は息子を守ろうと、俊の肩を掴み聞きました。


「またあの家に行ったの!」


私の問いに俊は驚いたのか、答えません。

私が動揺しているウチに黒いソレは、息子に触れようとしたので私は・・・・。

私はとっさに黒い手に触れてしまいました。



ここはどこ?暗い空間、まるで宇宙の様な。


「人間!ここは死んだ者が来る場所だ、お前「アレ」に触ったのか?

愚かな人間だな」


男の人の声がした、すると、私の前に青年の様な見た目の人?が現れた。


「あなたは誰なの?」


「我か?我は人間が言う「神」だ」

私は理解できなかった、理解できなかったけど、息子の所に、俊を守らないと!


「お願いです!息子の所に帰して下さい。」


「なぜだ?お前に息子などいないぞ?」


「そんな訳がありません!俊は私の息子です!」


「お前は理解できていない様だな?」


「理解?何を言っているんです?私はあの子との時間がもっと欲しいんです、早く帰して!」


「それは、神に命令しているのか?」


「違います!息子のそばに少しでも長く居たい、それだけのお願いです。」


「うーん?だがな?お前の体は奴に乗っ取られて、壊れたぞ?」


「え?」


「見るか?お前の肉体が壊れる最後を?」


薄ら笑う顔、私を見て面白がっているの?

神はそう言うと指を鳴らした。すると突然、映像が流れ始めた。

そこに映されていた光景は・・・


玄関で俊の事を自分の方引き寄せた、私が何かに抵抗しようと手で振り払おうとした途端、動きを止め、暫く経つと突然、首を左右に激し動かし、正面を見たと思うとその目には人の生気は無く、それは、もう私じゃない生き物でした。


不意に立ち上がると玄関に背を向け、ゆっくりと歩き出した。向かう先には。

台所で足を止めると、夕飯の途中だった、包丁を手にした、私は映し出されている映像に向かって叫んだ。


「お願い!止めて、俊だけは!あの子だけには手を出さないで!

やるなら私の体にして」


幸か不幸か、私の願いが届いたのか、私の体に何度も嫌な感触が伝わって来た。


「グシャ、グシャグシャ」何度も私の体に包丁を刺す。


「何だ?魂のお前には何も感じ無いのに辛そうだな?」


「あなたには分からないの?自分の子に辛い思いをさせて、嬉しい親がどこにいるのよ!」


「アハハハハ!そうなだ?人間?そんな親は滅多にいない!が、人間お前が見た「アレ」はそんな事は関係ないみたいだぞ?」


「どういう事よ!アンナ気味の悪い奴!」


「お前のガキは何処に通いつめていた?誰から本を貰っていた?答えてみろ?」


「それは・・・・!」


「クックックッ、やっと気が付いたのか?あの黒い正体は人間、お前の義父だぞ?」


「どうして!お義父さんが!」


「奴もここに着た時、しつこく懇願されたな?そんな時に奴が提案した、孫の顔だけ見れるなら、感情などは要らないと言うからな?だから願いを叶えてやった、感情を全て無くすのは神として心苦しい所があったから、だから、一つの感情だけ残してやった、妬ましいという人間らしい感情だ」


「じゃあ初めから俊を狙っていた訳じゃ無くて」


「その様だな?狙いは初めから人間?お前の命だけが狙いだった様だな」


その時、神様は口元を左手で隠していたが、指の隙間から口を開いて笑っているのが私には見えた。


「人間?お前の肉体は壊れた。もう戻る事は出来なくなった、惜しかったな?あと少し早く我が戻してやれれば」


「いえ、もう大丈夫です。」


「安心しろ、あの家に居る化け物は我の信頼出来る者を送る、すぐに始末しておこう。」


「はい、ありがとうございます。」


「では、もうあの世に行っていいぞ?我も忙しい?」


「神様?最後に一言良いでしょうか?」


「あぁ」


もう興味を無くしたのね?良いわ、これだけは言うわ。

「あなたが嫌いです!」


「人間!我はお前の様な目の奥に怒りを隠している者が好きだぞ」


俊ごめんね、お母さんもっと一緒に居たかったけど、今日でお別れになっちゃったね?何もしてあげられなかったお母さんを許してね?俊はお友達を作るの苦手みたいだけど、俊は優しい子だからきっと直ぐに作れるわよ、あと、おばあちゃんにもお話してあげてね?全然話してくれないって

寂しがっていたわよ?

あと、これからは、お父さんと二人になるけど、お父さんのご飯も食べるのよ?お父さん料理下手だけど、作ってくれた事には「ありがとう」ってちゃんと言うのよ?

後は、宿題は早く終わらせるのよ?それに、好きな子が出来たら、泣かせたらダメよ?

それに、それに・・・一緒に居てあげられなくごめんね。

お母さんいつも近くに居るから、ごめんね。


私の子で生まれて来てくれて、ありがとう。

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