【第九片】 初めて触る機械には全て説明書が欲しい
会科高校には生徒のほとんどが利用する大食堂がある。そこで風馬と浩正は食券の券売機に並んでいた。別に今日は午後まで学校があるわけではないが、いち早く食堂を利用したいと思っていたからだ。
「というか、なにやっていたんだよ。校門の前で馬鹿みたいにビラなんて配ってさ。あんな怖い先生に怒られる羽目になったし」
「いいんだよ。新しく部を設立するには人数が四人必要で、それには目立つことが大切なんだから」
「目立つといっても、あれは悪目立ちなんだって。ああいうことしていると、本当に部員が入って来なくなっちゃうって」
と、言いながら、列が進んだため、二人は少し歩いた。そして、いつの間にか券売機の目の前まで列が進んでいた。
「で、これってどうやって買うんだ?」
「知らん」
浩正と風馬はこの券売機の前で固まってしまった。
聳え立つ券売機は何故か、普通のものとは違う。普通の券売機と同じで直方体ではあるが、お金を入れる場所が一番下にあるのだ。
風馬はその券売機の前にしゃがみ込み、そのお金を入れる場所を眺めた。
「前に券売機で買っていた奴ら、しゃがみ込んで金を入れていたのか?」
「全然、前見てなかったからわからない」
「なん…だと…」
風馬は思わずそう呟いてしまった。そして、後ろの迷惑になっていると思った浩正は後ろの人に聴けばいいのではないか、と思い、ちらりと後ろを振り向くと、腹を空かせた他の学生たちがずらりと並んで、血走った目をこちらに向けてきている。
そんな恐ろしい目を一秒でも見たくなかった浩正は瞬間的に顔を前に戻した。
「後ろの人たち、全員目が怖かったんだけど。とても聴ける雰囲気じゃなかったんだけど。僕たちが買い方をわからないと言ったら、絶対に列からはじき出されるような感じだったんだけど」
「おいおい、何言ってんだ。俺は絶対に並び直すなんて嫌だぞ。だって、大行列だもの。これを逃したら、食べる時間14時頃になって、遅くなっちゃうんだもの」
風馬は不満そうにそう言った。確かに券売機に並んでいる列は新しいゲーム機を買うために並ぶ列くらい並んでおり、並び直すのは絶対に避けたいほどであった。
そのため、風馬と浩正はこの券売機に立ち向かう。
「まずは金を入れる!!」
風馬はそう言うと、財布から出した千円札を一番下にあるお金を入れる場所に突っ込んだ。もちろんススススっと千円札は吸い込まれていった。そして、千円札で買える料理の場所が光った。
だが、その光っている場所を押そうとした瞬間、光が消え、押したとしても反応がない。
「こいつッ!!ならば、見せてやろう。某漫画の主人公のような、強烈な連打を」
風馬はそう言った瞬間、券売機に向けて、連打を始めた。それはまるで一斉に放たれた矢の雨のように。標的を仕留めるまで、止むことはない。
だが、それは風馬の体力が持てば、という話ではあるが。
いつの間にか風馬は手を膝に付いてしまっていた。
「はぁはぁ。やるな、こいつ。高校生ってのは、こんなにも大変なものなのか。俺は甘く見ていたぜ」
「いや、絶対違うだろ、って言いたいけど、言えない現実がある…」
そんな券売機に苦戦する二人に近寄る一人の生徒の姿があった。その人物は茶色の長髪を後ろに一つにまとめ、スカートを指定された長さで着るなど、きちんと制服を着ている。まるで生徒の模範といえるような少女であった。
「あの、良かったら手伝いましょうか?困っているみたいだし」
そんな助け舟に風馬と浩正は目に涙を浮かべながら、こう答えた。
「「お願いします!!」」
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