【第四片】 バスケで唯一苦手なのはシュート

「はぁ、まぁ、なんというか。浩正だっけ?同じ嫌われ者同士、仲良くしようぜ」


「誰のせいだと思ってるんだ!!」


風馬の提案に、浩正は蹴りで答えた。

甘んじて受け入れた風馬の体は、宙を舞い、地面に落ちた。


「というか、お前、俺のこと覚えてないのか??」


「お前のこと?あーわかるよ。わかる。たぶん。どこかですれ違ったことあったよね、街のどこかで」


「それだけのことあるかー!!」


浩正の再びの蹴りを、風馬は再び受け入れた。そして、風馬の体は空を舞い、地面に落ちた。


「待て。俺には男に蹴られる趣味はねーよ。俺の体を蹴っていいのは、かわいい女の子だけだ!!」


「消えろぉ、ド変態野郎がぁあああああ!!」


次の浩正の攻撃は蹴りではなく、殴りであった。当然ながら風馬の体は三度、空を舞った。もう誰もいない空虚な教室の中で、最後の鳴り響いたのは風馬が地面に落ちる音だった。


だが、浩正が呆れて、教室を後にしようとしたとき、風馬も同時に外に出た。


「お前、今朝のこと覚えているか?」


風馬の真面目な声に、浩正は足を止めた。

もちろん浩正は忘れてなどはいない。だから、浩正は静かに頷いた。


「そいつは良かった。それでお前、ちゃんと内容を見ずにサイン書いていたよな?」


「あ、そういえば、あの時、勧誘が鬱陶しくて、しっかりと内容を読んでいなかった。あれには何が書いてあったんだ?」


「それにはな、こう書いてあったんだよ」


と、風馬は今朝、浩正が書いた紙を出した。そして、その紙を浩正に見やすいように正面へと向けた。

その紙には一番上に大きな文字で。


「スポーツ研究部、入部届……だと」


そう彼はいつの間にか入部届にサインをしてしまっていたのだ。そして、いつの間にか、その入部届の下の方には受領印が押されてしまっていた。

それを見た浩正は足の力が抜け、思わず膝を地面についてしまっていた。ただでさえ、変な噂を流されてしまっているのに、同じ部活に入ってしまったことに衝撃を受けてしまったからだ。


そして、風馬はそんな浩正を見て、悪い顔を浮かべながら言った。


「サインするときはちゃんと内容を読んでからしないと駄目だぜ。ってことで、これからよろしくな、浩正」


そんな言葉に浩正は声にならない叫びをあげていた。

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