常桜

@chachakotaro

【第一片】 桜色の髪は校則違反ではありません!

入学式。それは誰しも、胸を躍らせ、新たな出会いに新鮮に感じることだろう。

そして、ここに一人の黒髪の地味目な少年、木場浩正もその一人だ。新しい制服に身に纏い、彼の高校生活がここから始まる…。


そんなそわそわしている彼の元に、一人の桜色の髪の少年が現れた。


「お、新入生。何か部活入ろうかとか考えているか?」


「いえ、まだ考えてないですかね。どこかに入ろうかなって思ってはいるんですけど」


浩正はいきなり声をかけられたことに少し驚きながらも、冷静にそう答えた。別にこういう勧誘が珍しくはないと思っていたからだ。強いて言うならば、高校生でありながら、桜色の髪をしていることには驚きではあったが。


「そうか、そうか。なら、スポーツとか始めるのか?」


「うーん、そうですね。昔はサッカーをやっていたんですけど、ちょっと向いていなかったので、今度は違うスポーツをやろうかなって」


「ほうほう。なら、俺の部活に入らないか?スポーツ系だし、お前にぴったりだと思うんだが」


「ええっと、ちなみにどんなスポーツをしているんですか?」


と、浩正はそう問いかけた。本当は軽く受け流すつもりであったが、こんなしつこく言ってくることは想定外だったからだ。

というか、そもそもまだ入学式を執り行ってすらいない。浩正はまだこの高校の敷地内に入ったばかりなのだ。

そんな彼にこんなにしつこく聞いてくるのに、少し鬱陶しさを感じていたのだ。


それに一度もスポーツの名前は言っていないというのに。


「ほう。それを聞くか?」


「当たり前でしょ。それにまたサッカーをやることになっても困るし」


「なら、答えてやろう。だが、まずここに名前を書いてくれ。この学校の取り決めで部活説明を受ける際は書類にサインが必要なんだ」


「はぁ、そうなんですか…。わかりましたよ、仕方がない」


浩正は桜色の髪をした少年に渡された紙を受け取ると、促された場所に名前を書いた。そして、それを渡すと、それを見た桜色の髪の少年は頷いた。


「ありがとうな。……っておい!!お前、見ろ!!もう新入生は教室集まっているぞ!!急がないと、入学早々、遅刻しちまうぞ!!」


「誰のせいだと思ってんだー!!!!」


浩正はそう叫びながら、教室のほうへと駆け抜けていった。慌てて新しい上履きに履き替え、自分の教室の一年B組へとたどり着くことができた。教室の中ではもう担任の先生が話を始めていた。


(くっそ、あの野郎。絶対あとで一発、蹴り入れてやる)


と、浩正はそう思うが、あんな勧誘に足を止めてしまった自分も悪いと感じてもいた。だから、甘んじて入学早々の説教を受けよう、とそう思っていた。そして、教室の戸を開けようとした瞬間、浩正の肩に手が置かれた。


慌てて後ろへ振り向くと、そこには桜色の髪をした少年、つまりはあの勧誘をしてきた男が背後に立っていたのだ。


「え!?なんであんたもここにいるんだよ。あんた先輩でしょ!」


「俺のそんなこと言ったっけ?」


「え!!?違うの!!?」


「ああ、違うけど。お前と同じ新入生だけど」


「はぁああああああああ!!!?」


想定外の言葉に思わず浩正は声を荒げてしまった。今までバレない程度にその教室の戸の傍にいたというのに、彼の叫び声のせいで教室内の一年B組の中にまで聞こえてしまっていた。


そして。


「誰だ!!?って新入生か!!?ここで何をやっている!!?」


「すみません、部活勧誘していたら、完全遅刻しちゃって。新たに作ろうと思っているスポーツ研究部の勧誘を」


「まぁ、そんなことはどうでもいい。二人とも名前は!!?」


「俺は空野風馬。中学ではサッカーやっていました」


と、桜色の髪の少年、もとい空野風馬はそう言った。そして、その名にどこか聞き覚えがあった。確か中学最後のサッカーの公式戦、俺の中学のチームが大敗したチーム、そこのエースをやっていた男。

その時は桜色の髪をしていなかったけど、改めて顔を見てみると、その面影はあの男で間違いなかった。


「ってことで、一年B組の皆さん、よろシュート」

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