第146話~地底湖周辺での戦い~

 白ネズミの案内で、俺たちは地底湖への洞窟を抜けた。


「これはすごいな」


 出た先はすごかった。

 二重の意味で。


 まず、地底湖の広さだ。

 希望の遺跡でも地底湖へ行く機会があったが、ここの地底湖はあそこのよりも広い。

 多分、この前言ったカイザー湖よりも広いのではないかと思う。

 何せ対岸が見えないのだ。

一瞬ここは実は海なのではないかと思ったくらいである。


 そして、もう一つすごいのが。


「旦那様、周囲にはたくさんの敵がいるようです」

「どうやら、そのようだな」


 俺たちは武器を取り身構える。


「フライフィッシュの群れですね」


 フライフィッシュ。文字通り空を飛ぶ魚だ。

 普段は水の中にいて普通の魚と変わらぬ生活をしているが、たまに獲物を見つけると地上に出てくる奴だ。


「『天雷』」

「『電撃』」

「『精霊召喚 風の精霊』」


 ただ、水棲モンスターだけあって雷の魔法が弱点だ。

 俺たちの雷の魔法で次々と黒焦げになっていく。

 そうやって、魔物を排除しながら進んでいくと。


「ホルスト君、あれを見て!」


 リネットが一匹の白い大きな猪が寄ってかかって襲われているのを発見した。


「皆様、あれこそがカリュドーンの猪です」


 ネズ吉が俺の肩に上ってきてそう囁く。


「急ぐぞ」


 それを聞いた俺たちは移動速度を速めるのだった。


★★★


「ふふふ、これでカリュドーンの猪も我らの手に落ちたか」


 カリュドーンの猪を襲っていた集団の指揮官がほくそ笑んでいた。

 もっとも、襲い掛かっていたというよりは、餌に眠り薬を混ぜて眠らせたところに、忍び寄っていき、無理矢理体内に魔石をねじ込んだという方が正確だ。

 魔石を口の中にねじ込んだ後に猪が暴れたので、苦労して抑え込んでいたのだ。


「抑え込むのに多少手間がかかったが、仕込みさえちゃんとすれば神獣といえど、我らは支配下に置くことができるのだ。さあ、カリュドーンの猪よ。我らのために働いてもらおうか」


 指揮官がカリュドーンの猪を見る。

 そして、命令する。


「さあ、カリュドーンの猪よ。この地底湖を出て、ドワーフ共の国へ行き存分に暴れまわるのだ!」


 しかし。


「プイ」


 カリュドーンの猪はそっぽを向いて指揮官の言うことを聞こうとしなかった。

 どうやら残った力を振り絞って、最後の抵抗を試みているようだった。


「どうやら、まだ完全には支配できていないようだな。こうなったら仕方ない。者ども、カリュドーンの猪が魔石の力に抵抗できなくなるまでいたぶるのだ」

「はっ」


 指揮官の命令を受けた部下たちが、今まさにカリュドーンの猪に攻撃しようとした時だった。


「『風刃』」


 そんな声と同時に部下の一人の首が刈り取られた。


「ひ」


 その首はそのままコロコロと指揮官の所まで転がっていき、それを見た指揮官は思わず悲鳴を上げた。


「何者!」


 指揮官は魔法が飛んできた方向を見る。


「お前らの悪事もそこまでだ」


 すると、そこには黄金の剣を構えた剣士とその仲間の御一行様がいた。


★★★


「エリカ、やれ!」


 敵集団との距離を大分詰めたので攻撃を開始する。


「はい、旦那様。『風刃』」


 エリカが先制の魔法を放つ。

 ドサッ。

 カリュドーンの猪を襲おうとしていたやつの首がちぎれ飛ぶ。


 すると。


「何者!」


 向こうが聞いてきたので、言い返してやる。


「お前らの悪事もそこまでだ」


 決めポーズを決めながら、カッコよくそう言ってやった。


「おのれ!」


 俺のセリフを聞いた相手が地団太を踏んで悔しがるのが見える。

 うん、悪事をする働くを叩き潰すというのは最高の気分だ。


 おっと、今は感傷に浸っている時ではない。


 続けて、攻撃する。


「『精霊召喚 風の精霊』」


 ヴィクトリアが風の精霊を召喚し攻撃する。


 ドゴオオオオ。

 たちまち巨大な真空の竜巻が発生し、敵集団に襲い掛かる。


「ぎゃあああ」

「ひいいい」


 たちまち敵の集団が壊滅状態に追い込まれる。

 カリュドーンの猪に当たらないように配慮して攻撃したので、全滅とまではいかなかったが、それでも半分以上の敵の体がバラバラに引きちぎれた。


「リネット、行くぞ」

「おう!」


 エリカとヴィクトリアでかなりの数を片付けてくれたので、残りは俺たちが始末すべく突撃していく。


「『風刃』」

「『火球』」


 無論、敵も迎撃の魔法を放ってくるが。


「無駄だ」


 カランと、俺とリネットが持つオリハルコン製の盾が簡単に弾いてしまう。

 奴らが使う程度の魔法など、オリハルコンの装甲の前では無力なのだ。

 奴らの攻撃を軽くいなした俺たちは、一気に接近する。


「地獄へ落ちろ」


 グサ。ドサ。

 次々に敵集団を切り捨てていく。


「さて、残りはお前だけだな」


 ほとんどの敵を切り捨て、残りは敵の指揮官だけになった。




「くそ、おのれえ」


 うん、滅茶苦茶悔しがっている。

 いい気味だ。


 もちろん、いくら悔しがろうが泣きわめこうが、容赦などしない。


「地獄で後悔しろ」


 俺は指揮官を頭から真っ二つに切り裂いてやった。

 これで、敵の殲滅は完了した。


 後はカリュドーンの猪を助けるだけだ。


★★★


「旦那様、これは厄介ですね」


 カリュドーンの猪の体を魔法で探知したエリカが、そう診断する。


「エリカ、それはどういう意味だ」

「魔石の位置を魔法で探索したところ、心臓の近くにあることが分かりました」


 心臓の近くか。

 それは確かに厄介だな。


 下手に取り出そうとすると、心臓を傷つけてしまう可能性があるからだ。


「どうにかならないかな」

「方法はありますよ」

「本当か」


 助ける方法があると聞いて俺は気色ばんだ。


「はい、多分しばらく経てば魔石が場所を変えると思います」

「場所を変える?」

「はい。こういう相手を支配する魔石が効果的に作用するには体の中心部に存在する必要があります。心臓だとちょっと中心部から遠いので、多分、時間が経てば少しずつ移動していくと思います」


 なるほど、そんなものなのか。

 ただ、それだと気になることがある。


「でも、それを待つとして、それまでこいつの意識が持つのか」

「わかりません。でも、待つしかないです」


 ということで、俺たちはしばらく待つことにした。


★★★


「元気出してください。ガンバ」

「カリュドーンの猪よ。頑張るのだ」


 カリュドーンの猪をヴィクトリアとネズ吉が励ましている。

 他のみんなもカリュドーンの猪を心配そうに見守っている。


「エリカ、まだか」

「もうちょっとですね。もうちょっとで心臓に影響が出ないところまで移動します」


 エリカに魔石の場所を確認してもらうと、もう少しみたいだった。


「カリュドーンの猪よ。もう少しみたいだから、頑張れ!」


 俺もそうやってカリュドーンの猪に声をかけてやる。

 それから30分後。




「旦那様、そろそろ大丈夫みたいですよ」


 ようやくエリカから手術のお許しが出た。


「よし、それではヴィクトリア。魔法を準備しろ」

「ラジャーです」


 ヴィクトリアに治癒魔法の準備をさせて、いざ魔石の摘出手術をしようとする。


「さあ、カリュドーンの猪よ。手術をするから仰向けになってくれ」


 そして、手術のためにカリュドーンの猪に腹を見せるように促す。

 しかし、ちょっとだけ間に合わなかったようだ。


「ぐおおおおお」


 それまでおとなしくしていたカリュドーンの猪が突然暴れ出したのだった。

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