第143話~ネオ・アンダーグラウンドの冒険者ギルドの酒場にて~

 リネットとあんなことがあった翌日。


「旦那様、そろそろ行きますよ」


 俺たちは朝から出かけた。

 どこへかって?

 ネオ・アンダーグラウンドの冒険者ギルドだ。


 何をしに行くのかというと、情報収集とあいさつ回りだ。

 冒険者ギルドには冒険者が集まっているので情報を集めるのにはいい場所だし、ギルドマスターたちにも挨拶をしておきたいからだ。


「結構遠いですね」


 歩きながら、ヴィクトリアがそうぼやく。

 冒険者ギルドは商業区にあるので、屋敷からはちょっと離れている。

 まあ、冒険者ギルドが高級住宅地にあるわけがないので仕方ない。

 ノースフォートレスでギルドに行く時も歩いて行っていたのだから問題はない。

 ただ、あの時と違うのは。


 ヴィクトリアとリネットに常に見られているような気がする。

 移動中にヴィクトリアとリネットに期待のこもった視線を向けられるようになったことだ。


 ああいうことがあった後だから、二人の気持ちはわかるが人前では勘弁してほしかった。

 さすがに恥ずかしいし。

 女の子にそう言う視線を送られること自体はうれしいのだが。


「あ、あのオークの串焼きおいしそうです。ちょっと買ってきます」


 途中、商業区を通っている時に、ヴィクトリアが買い食いをする。いつもの光景だ。


「はい、みなさん、どうぞ」


 ただ、今日はみんなの分も買ってきた。

 多分、こうしておけば誰も文句を言わないと学習したのだろう。

 この辺、ヴィクトリアもいらない知恵がついてきたと思う。


「ああ、ありがとう」


 まあ、もちろん俺たちはそれをおいしくいただくわけだが。


「お、着いたな」


 そうやってオーク肉を食っているうちにギルドに着いた。


★★★


「やあ、よく来てくれたね。私がネオ・アンダーグラウンドのギルドマスターのヨークだ。よろしくお願いする。それでこっちが拭くギルドマスターの……」

「チェロです。噂に名高いホルスト殿にあえて光栄です」

「ホルストと申します。こちらこそよろしくお願いします」


 俺は挨拶してくれたヨークさんとチェロさんに挨拶し返すと、手を取って握手した。

 俺たちはギルドに着くと、すぐに受付に行き、ギルドマスターに面会を申し込んだ。


「え?Sランク?あなたが噂の……すぐにギルドマスターに連絡をとるのでお待ちください」


 ギルドカードを受付の職員さんに見せると、職員さんはすぐに連絡を取ってくれた。

 ということで、今俺たちはギルドマスターたちと面会している。


 ちなみに、ヨークさんはドワーフで、チェロさんはモグラ人という人種だ。

 モグラ人は地下に住む少数民族で、外見はモグラを人間にした感じだが、魔物ではなく、亜人だ。


「それにしても、ここのギルドも朝から人が多いですね」


 挨拶が終わった後は雑談する。


「そうだね。どこのギルドも朝に依頼ボードに依頼を張り出すからね。朝は忙しくなるよね」

「まあ、依頼は取り合いになりますからね。どこもそうなんですね」


 冒険者同士、共通の話題が多いので話がどんどん進んでいく。

 そうすると、ヨークさんがこんなことを言い始めた。


「どうだい?これから一杯どうだい?」

「え、一杯って。まだ昼前ですよ」

「問題ないね。ドワーフ王国では親睦を深めるために酒を飲むのなんか普通だよ。皆、意気投合さえすれば昼間から酒飲んで騒いでいるの何ていくらでもいるよ」


 さすが酒好きの多いドワーフの国である。

 そういうことになっているとは。


 まあ、そういうことなら断るわけにはいかないな。

 うん、『郷に入れば郷に従え』というからな。


「わかりました。それでは飲みに行きますか」

「そうこなくっちゃね」


 飲み会の開催が決まったので、早速俺たちは移動した。


★★★


「ここですよ」


 ヨークさんたちが俺たちを連れて行ってくれたのは、ギルド近くの酒場だった。

 結構大きな酒場で、内装も割ときれいだ。


 ただ、人間の国の酒場と違うのは。


「朝っぱらから、人が多いね」


 リネットが酒場を見てそう呟く。

 そうまだ午前中だというのに酒場の半分くらいの座席が埋まっていた。

 ヨークさんがこの国では昼間から酒を飲むのは普通だと言っていたが、本当だったわけだ。


「ドワーフ酒を6つと、そっちのお嬢ちゃんにぶどうジュースを1つくれ」

「はい、畏まりました」


 席に着くなり、チェロさんがそう注文する。

 俺たちの好みとか無視でいきなりドワーフ酒というのを注文したが、ここでは最初の一杯は必ずドワーフ酒を飲むのが習わしらしかった。


 ちなみにドワーフ酒とは、ドワーフたち伝統の蒸留酒らしくアルコール度がかなりお高いお酒らしかった。


「「「「「「「かんぱ~い」」」」」」」


 注文するとすぐに飲み物が届いたので、とりあえず乾杯する。

 そして、ドワーフ酒を飲んでみる。


「これは、おいしいけど、結構きますね」


 噂通りにドワーフ酒はアルコールがきつい酒だった。ちょっと飲んだだけで体が熱くなっていくのを感じた。

 ヴィクトリアも、


「なんか熱いですね」


と、汗をかいているし、酒に弱いリネットに至っては、


「うーん」


一発で顔が真っ赤になってしまった。


「これはおいしいですね」


 唯一平気なのはエリカだけだった。

 顔色一つ変えずにぺろりと飲み干すと、


「すみません。もう一杯同じのをください」


と、追加で注文しやがった。

 さすが我がパーティー一の酒豪である。


「お、さすがホルストさんの奥さんだ。すごい飲みっぷりだね」


 それを見て、ヨークさんもエリカのことを褒めるくらいだった。

 ただ、俺としてはこの連中に付き合っていたら潰れてしまうので、二杯目はエール酒にしておいた。


「ご注文のお料理をお持ちしました」


 酒を飲んでいると、店員さんが料理を運んできた。

 うわー、見事に脂っこい料理が多いな。

 ドワーフの郷土料理という話だったが、脂っこい料理が多かった。ただ。


「うん、うまいな」


 味は良かった。

 俺以外のメンバーもそう思ったようで、


「ヴィクトリア様、おいしいですね」

「銀ちゃん、おいしいね」


と、好評なようだ。

 こうして宴は楽しく進んでいった。


★★★


「うん、揺れてる?」


 宴の最中に視界が揺れた。

 酔い過ぎたかかなと思ったが、


「旦那様、地震ですよ」


地震が発生したのだった。


「「「「あわわわわ」」」」


 俺のパーティーの連中が一斉に俺に寄り添ってくる。

 完全に地震にビビったのだと思う。

 対して、ヨークさんやチェロさん周囲の客たちは平気な顔で飲んでいた。


「この位の地震、ここではしょっちゅうだよ」


 ヨークさんが状況を説明してくれる。


「そうなんですか」

「まあ、ここは地上より地脈に近い場所だからね。この程度の地震はよくある話さ。だから誰も驚いていないだろ」


 確かにその通りだ。

 それを聞いた俺たちは落ち着きを取り戻し、席に着いた。


「ただ、最近ちょっと多すぎる気もしますけどね」

「そうなの?」

「ええ、多いですね。まあ、別に特に大きい揺れがあるというわけではないので許容範囲ですけどね」

「それと、地震が増えたことと関係あるかどうかわからないけれど、魔物も増えているんだよね」

「ほう」


 チェロさんが気になるところを言い始めたので、俺は耳を傾けた。


「そんなに魔物が増えているのですか」

「増えているね。昨日、別の町から荷駄が運ばれてきたんだけど、その荷駄隊も

来る途中魔物の群れに20回ばかり襲われたそうだよ」

「20回?そんなにですか」


 20回はさすがに多いなと思った。

 俺たちもヒッグスタウンからネオ・アンダーグラウンドに来る途中魔物に襲われたが、10回もなかったはずだ。


「後、これはこの辺だけの特徴だけど、この辺の魔物って結構気が付かない間に襲われることが多いんだよね」

「それはなぜなんですか?」

「というのも、この地下空洞って知られていない空洞部分があるんだよね。魔物たちはそこに隠れて我々が通りかかったときに襲ってくるというわけだ」

「なるほど。参考になります。教えていただいてありがとうございます」


 有益な情報を教えてもらったので、俺はチェロさんに声をかけた。

 本当、地味でもこういう有益な情報を教えてくれるのは助かる。


「ああ、君たちも地下空洞を旅する時は気を付けるんだよ」

「はい、気を付けます」

「さて、それじゃあ、もっとどんどん飲んで友好を深めようか」

「はい」


 その後も俺たちは酒盛りを楽しみ、ようやくヒッグス家の屋敷に帰ったときには夜になっていた。

 相当自堕落な一日だったが、たまにはこういう日があってもいいとは思った。

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