第142話~宰相の決断~
「地底湖への洞窟?そんなところへ行ってどうするつもりだね」
地底湖への洞窟への入場許可を求めた俺に対して宰相は当然の質問を返してくる。
さて、この質問に対して俺はどう返答しようかと悩んだが、正直に言うことにする。
なぜなら、宰相はリネットのおじいさんだけあって、嘘やごまかしとかそう言うのが嫌いだろうと感じたからだ。
だから率直に言う。
「今、世界中で魔物があふれているのはご存じですよね?それはなぜか。実は神聖同盟という連中が裏で暗躍しているからです。そして、神聖同盟は過去にこの世界に封じられた邪悪な存在を復活させようとしています。その封印の一つが地底湖の遺跡にあります。ですから、俺たちはそこへ行って封印を強化したいのです」
「神聖同盟?邪悪な存在?封印?君は一体?というか、なんでそんなことを君が知っているのかね?」
「それは女神アリスタ様から神命を受けたからです。古代に封じた邪悪な存在の復活を阻止してくれと頼まれたのです」
「女神アリスタ様に?本当かね?」
「本当ですよ」
自信たっぷりに言う俺に対して、宰相はこいつは何を言っているんだという顔をしている。
当たり前だ。
俺だって、目の前に真顔でこんなことを言うやつがいたら正気を疑うだろう。
宰相も俺のことを変なやつだと思ったに違いない。
ただ、ここで助け舟が現れた。
「オヤジ、こいつはこんなことで嘘を言うやつじゃないぜ」
フィーゴさんだった。
「そうなのか?」
「ああ、こいつは仲間思いで、優しい奴なんだ。リネットにもよくしてくれている。そんな奴がわしらにこんなうそを言うと思うか?それに、こいつはものすごい奴だ」
「お前がそこまで認めるとは……彼はそれほどなのか?」
「ああ、こいつはすごい奴だぜ。何せ、たった一人で10万の魔物を滅ぼしたり、強大なドラゴンやら悪魔やらを滅ぼしている。この前はヴァレンシュタイン王国の国王陛下にご褒美をいただいたりもしている。実はとんでもない奴だ。それだけの実力があれば、神様に頼みごとの一つや二つされても不思議ではないぜ」
「この者は、それほどの実力者なのか」
フィーゴさんの話を聞いて宰相は絶句している。
そこへさらにリネットが追撃をかける。
「おじいちゃん、アリスタ様に頼まれたというのは本当なんだ。何せ、アタシも一緒にいて頼まれたからね。これを見て」
そう言うと、リネットは首にかけている『戦士の記憶』を取り出し、宰相に見せる。
「リネットや、これは何だい?何やらすごい力を感じるんだが」
「これはね、アリスタ様にいただいた神器だ。アタシにものすごい力を与えてくれる。邪悪な存在の復活を阻止するために使ってくれと、アリスタ様にもらったんだ」
「まさか、そんなことが……」
「本当だよ。それにホルスト君は、これよりもすごい力を産まれながらにもらっている。いわば、現代の勇者様だ。アタシたちのご先祖様は勇者様のお供をして邪悪な存在を封印したんでしょう?今、再びそれを行う時が来ているのではないかと思うよ」
「……」
そこまで聞いたところで、宰相は一旦黙り込む。
そして、しばらく考えて結論を出す。
「わかった。お前たちの言うことを信じよう」
「本当ですか」
「ああ、ちょっと待っていなさい」
そう言うと、宰相は一旦退室した。
そして、しばらくしてから小さな箱を一つ持って帰ってきた。
「これを持っていきなさい」
「おじいちゃん、これは?」
「洞窟の奥には湖へ通じる扉がある。ドワーフ王家の血を引く者にしか使えぬが、リネットや、私の孫であるお前なら問題なく使えよう」
そこまで言うと、宰相はリネットに小箱を渡した。
「それと、洞窟の入り口には我が宰相家の騎士が警備についている。私から連絡して、入れるようにしておこう」
「ありがとうございます。おじいちゃん」
「うむ、気を付けていくのだぞ」
こうして、俺たちは宰相に洞窟へ入る許可をもらったのであった。
★★★
その日の夜。
俺たちは宰相家の屋敷にお泊りすることになった。
「うわー、ごちそうです」
豪勢な料理をごちそうになった後、風呂に入り、それぞれ割り当てられた個室に行く。
「今日は1人部屋か」
今日は珍しくエリカと同室ではなく、一人部屋だった。
さっきエリカの実家にホルスターを迎えに行ったとき、
「今日はホルスターと二人で寝たいのですが、構いませんか」
と、エリカに言われたのでそうすることにしたのだ。
普段なら、ホルスターを寝かしつけた後エリカが俺の所へ来るのが常なのだが、今日は母子で寝たいらしかったのでそうなったのだ。
「しかし、広いな」
ただ、俺の部屋は1人部屋にしては広かった。
その分ベッドも大きく二人や三人くらい寝られるくらいの大きさがある。
「まあ、いいや。さっさと寝るか」
とはいってもベッドが広いのは悪いことではないので、俺はのびのびと寝ることにした。
すると、コンコンと入り口のドアをノックする音がした。
誰だろうと思って扉を開けると、
「やあ、ホルスト君。ちょっといいかな」
扉のところに居たのはリネットだった。
今日のリネットはいつもと雰囲気が違っていた。
普段はしていない化粧を薄っすらとしており、服装も何というか色っぽいのを着ていた。
何だろうと思ったが、立ち話も何なので中に入ってもらうことにする。
「中へ、どうぞ」
「では、失礼するよ」
俺の許可を得たリネットはずかずかと部屋の中を歩いて行き、俺のベッドの上に座った。
え、そこ?
と、俺は思った。部屋にはテーブルも椅子もあるのになぜ?と感じたが、まあいい。
仕方ないので俺もベッドの上に座る。
ベッドの上に並んで座ると、距離が近く感じられてちょっとドキドキした。
ベッドの上に座ると、リネットが早速話しかけてきた。
「今日はありがとうね。お父さんをおじいちゃんの前に連れて来るのを手伝ってくれて」
「いや、別に構わないですよ。俺たち仲間じゃないですか」
「そうだね。仲間だね。でも、仲間だからこそこういうのはきちんとお礼をしなければいけないと思うんだ」
「別にお礼何て……」
「いや、是非受けてほしい」
そう言うとリネットはぐっと俺に近づいてきた。
そして、俺の肩をがっしりと掴むと、一気に顔を近づけてきて、目を閉じて、俺にキスしてきた。
「うっ!」
俺はびっくりして、目をぱちくりさせたが、すぐに目を閉じ、リネットを受け入れた。
正直、リネットのキスはメチャクチャ気持ちよかった。
思わずリネットを抱きしめる。
「ホルスト君、好きだよ。もっと抱きしめてあげる」
すると、リネットも俺を抱きしめてくる。
そのまま、二人でしばらくの間抱きしめあっていたが、やがて。
「リネット」
俺はキスだけでは我慢できなくなって、リネットの体に手を伸ばそうとした。すると。
パシッ。
リネットが彼女の体を触ろうとした俺の手を振り払った。
手を払った後、リネットは体を俺から離し、こう言う。
「これ以上は今はダメだよ。ヴィクトリアちゃんにも言われたんでしょう?アタシはちゃんと自分の気持ちを伝えたんだから、これ以上先に進みたいんだったらちゃんとしてよね」
それだけ言うと、リネットは俺から離れて部屋から出て行った。
部屋から出る時に、
「急がないからね。いつまでも待っているからね」
そう言い残していった。
残された俺はぼうっとするだけだった。
★★★
その日、俺は寝られなかった。
ヴィクトリアに続いてリネットまで俺に愛を告げてきた。
俺は今日のことで気が付いた。
俺はリネットのことを好きなんだな、と。
エリカというちゃんとした奥さんがいるのに、他にも二人の女性を愛してしまうなんて何ということだと俺は思ったが、好きなものはどうしようもない。
ただ、怖いのはエリカだ。
二人とキスしたことがばれたら確実に本当に殺されてしまう。
さて、これからどうしてくべきか。
俺は真剣に悩むのだった。
この時の俺は知らなかった。
今日の出来事がリネットからとっくにエリカとヴィクトリアに報告されて、
「リネットさん、とうとうやりましたね」
「おめでとうございます」
そう二人から褒められていたことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます