第108話~父からの手紙~
「エリカ様、手紙が届いてますよ」
その日、私エリカ・エレクトロンはギルドに用事があってきていました。
そうしたらギルドの職員さんに声をかけられました。
「手紙ですか?」
「はい、ヒッグスタウンから届いてますよ」
そう言うとと、職員さんは私に手紙を渡してきました。
この国にはいくつか手紙を送る手段があります。
その中で一番確実なのが、冒険者ギルドに頼むことだと言われています。
料金的には一番高いのですが、安全性という点では確実です。
何せ冒険者が護衛をしてくれるのが売りなので、確実に手紙を届けたい場合にはギルド一択です。
というか、他の手段だと届かない場合が多いみたいです。
何せ、この世界は魔物や盗賊であふれていますので、荷駄が途中で奪われることなど珍しくもないからです。
その点、屈強な冒険者が守ってくれる冒険者ギルドの郵便は人気が高いです。
オプション料金を払えば、手紙が届いたことを知らせてくれるサービスなどもあるので、私はよく利用します。これは、万が一手紙が奪われた時にも知らせてくれるので、二重に安心です。
後、冒険者ギルドを利用する場合、国外にも輸送できるので、国外に手紙を送る場合は、ギルドしかありません。まあ、私は国外へ手紙を出したことはありませんが。
「これは、ご親切に。ありがとうございます」
私は手紙を受け取ると家に帰りました。
★★★
***
拝啓 立春の候、皆様におかれましてはますます繁栄のこととお慶び申し上げます。
お久しぶりですね。エリカ殿。父です。
エリカ殿がホルスト君と一緒に家を出て行ってから直に2年になりますね。
エリカ殿たちにおかれましては元気にやっておられると思いますが、その後いかがでしょうか。
父と母は元気にやっていますが、エリカ殿たちに会えなくて寂しく思っております。
特にホルスター君にはまだ一度も会えていないので、父も母も一度会って頭を撫でてやりたいと願っております。
お母様など、毎日ホルスター君の写真を抱きしめては、「早く会いたいです」とため息をついています。
そろそろ、一度帰郷なされてはいかがでしょうか。
ちょうど、父の当主相続の手続きが終わり、4月に当主の就任式があります。同時にお前の兄のユリウスの結婚式も行う予定です。それらの行事にエリカ殿たちも出席してもらえないでしょうか。
エリカ殿たちにも予定があるかと存じますので、無理強いはしません。
しかし、父も母もエリカ殿たちに会いたいのです。父や母の願いは、ただそれだけなのです。
一度、ご検討ください。
トーマス・ヒッグス
追伸
手形を1枚同封します。もし、帰郷する場合は旅費としてお使いください。
帰郷しない場合でも返す必要はありません。
ホルスター君におもちゃでも買ってやってください。
***
★★★
「旦那様」
俺がリビングのソファーでのんびりと剣を磨いていると、エリカがリビングに駆け込んできた。
珍しく息を切らして慌てている様子だった。
俺だけでなく、横でホルスターと遊んでいるヴィクトリア、リネット、銀も何事かという顔をしている。
「どうしたんだ、エリカ。そんなに慌てて」
「実は、旦那様。実家の父から手紙が届きまして」
「エリカのお父さんから?」
「はい」
そう言うと、エリカは封の切られた手紙を俺に渡してきた。
俺はそれを読み、頷く。
「エリカのお父さん、大分しびれを切らしているみたいだな。そんなにホルスターに会いたいのかな」
「それはそうですわ、旦那様。だって、父や母にとってホルスターは初孫ですもの。会いたいに決まっています」
「そうだよな。会いたいはずだよな。俺だってエリカのお父さんやお母さんだったら孫に会いたいと思うもんな」
「はい、私も父や母の立場なら会いたいと思います」
「それで、当主就任式やお兄さんの結婚式にかこつけて顔を見せに来いということか」
俺はうーんと息を漏らす。
「それで、エリカはどうしたらいいと思う?」
「私は一度帰るのもありかなと思います。父や母には一度ホルスターを見てもらいたいと思いますし、娘として父の当主就任をお祝いしたいですし、妹として兄の結婚もお祝いしてあげたいです」
「そうか。まあ、俺もエリカの気持ちはわかるし、おおむね賛成だ」
エリカの両親やお兄さんは俺のことを差別しなかったし、いや、それどころかむしろ庇おうとしてくれていたし、エリカとの仲も黙認してくれていたみたいだ。
それに対しては俺も恩義を感じている。
だから、ホルスターにも会わせてあげたいし、当主就任や結婚もお祝いしてあげたい。
ただ、そうなると。
「でも、そうなると親父やエリカのじいちゃんにも会うことになるんだよなあ」
正直言うと、俺はあいつらに会いたくない。
会うと思わず殴ってしまいそうだからだ。
「いいではありませんか。おじい様や、お義父とう様に会って、今こそ復讐してやりましょう」
「復讐?」
エリカにしては物騒なこと言うなと、俺はちょっと引いた顔になる。
それを見て、エリカがクスクスと笑う。
「復讐といっても暴力に訴えるわけではありませんよ。ほら前にも話したではありませんか。私たちが幸せになった姿を、おじい様たちに、見せてやりましょうと」
「そうだったな。……そういうことなら、一度ヒッグスタウンに帰るのもいいかもしれないな」
「はい」
俺とエリカは手を取り合いお互いを見つめあった。
しばらくはそのままだったが、俺はそのうちにヴィクトリアたちがいるのを思い出した。
慌てて、エリカから離れ、姿勢を正し取り繕う。
「そういうことで、一度ヒッグスタウンに行ってみることになったわけだが、お前たちも来るだろ?」
「もちろんだ」
「是非」
「銀も行きたいです」
どうやら、全員賛成の様だった。
これで、決まりだ。
「よし、それじゃあ、ヒッグスタウンに行く準備を始めるか」
こうして、俺たちはヒッグスタウンへ赴くことになったのである。
★★★
***
拝啓 早春の候、お父様、お母様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、いきなりでございますが、今度お父様が当主にご就任なさる頃にそちらの方へお伺いします。
私と旦那様、ホルスターの他にも私の仲間たちも一緒に行く予定です。
よろしくお願いします。
ところで、最近のホルスターの様子なのですが、歯も生えてきてお乳以外も食べるようになりました。
順調に育っておりますので、今度行った折には頭でも撫でてやってください。
もちろん、私たち夫婦も元気にやっておりますのでご安心ください。
最後になりますが、お父様、お母様が元気で過ごされることをお祈りします。
エリカ・エレクトロン
追伸
それと旅費をいただきありがとうございます。
ありがたく使わせてもらいます。
***
★★★
トーマスがリビングでお茶を飲みながら報告書を読んでいると、妻のレベッカがうれしそうな顔で入ってきた。
レベッカの手には大事そうに1通の手紙が握られていた。
「トーマス様。エリカから手紙が届いていますよ」
「なに?エリカから?」
エリカと聞いて、トーマスは小躍りしながら手紙を受け取ると、早速開けて手紙を読んだ。
「ふむ。レベッカ。どうやら今度エリカたちが帰ってくるようだぞ」
「まことですか。トーマス様」
「まあ、手紙を読んでみなさい」
「はい」
レベッカがトーマスから手紙を受け取り読む。
たちまち満面の笑みになる。
「まあ、もう物を食べられるように。素晴らしいことですね」
「そうだね。素晴らしいことだね」
「早く会いたいですわ」
「会いたいね」
そこまで言ったところで、トーマスは席を立ち、リビングに飾ってあるホルスターの写真を取ってくると、机に置き、夫婦でそれを眺めながら孫について語り合うのだった。
しばらくはそのまま話していたが、そのうちトーマスがポツリと言う。
「ホルスターに会えるのはいいが、その前に父親のホルスト君に対して、けじめをつけさせるべきやつが多いな」
さて、そいつらにどう償わせるか。
孫について妻と話しながらも、トーマスはそんなことを考えるのだった。
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