第105話~くじ引きの景品の粗品はお菓子です~

「盟主様、ご命令通り聖石を手に入れてまいりました」


 とある国のとある建物。

 ここでは『神聖同盟』の盟主が部下から報告を受け取っていた。


「そうか。手に入れたか。よくやった」

「は、おほめいただきありがとうございます。ただ、手駒として使ったグレートデビルが倒されてしまいました」

「グレートデビルが、か?まあ、グレートデビルは確かに上級悪魔だが、代わりなら、多少手間はかかるがまた召喚できよう。大した損害ではあるまい。それよりも、だ」


 盟主はギョロリと部下を見る。


「例の計画の方はどうなっておる」

「は、それにつきましては次は南の方で動く手はずとなっております」

「南か。現在の状況は?」

「あらかた準備が終わって、あとは時期を待つだけとなっております」

「そうか。ならば、しばし待つことにしよう。遺漏なきように遂行せよ」

「は、畏まりました」


 話し合いはそれで終わった。

 話し合いが終わると部下は出て行った。


★★★


 俺の武術大会優勝の祝勝会が開かれた。


 会場は大規模訓練場の大練兵場を借りた。

 屋外という点があれだが、参加人数が多く、そんなに人が集まれる場所がほかになかったため、ここにしたのだった。


 というのも祝勝会はギルドが開催してくれたのだが、参加希望者が思ったよりも多く、ギルドの予算では全員が参加できないみたいだったのだ。

 折角みんなが俺を祝ってくれるのにそれは悪いと思った俺は、足りない分の予算を俺が負担し、希望者みんなが参加でき、食い放題飲み放題の祝勝会をすることにした。

 その結果、さらに希望者が増え、ここしか場所がなかったというわけなのである。


 ちなみに参加条件はギルド関係者、または招待客ということにしたのだが、それでも千人近い人が集まってくれた。


「ホルストさん、おめでとう」

「ホルストちゃん、おめでとう」

「ホルスト、おめでとう」


 祝勝会が始まると参加者たちが次々に俺にお祝いの言葉をかけてくれた。


「みんな、ありがとう」


 俺はお祝いしてくれた人たちに続々とお礼を言っていった。

 これだけでも忙しくて飲み食いする暇がないくらいだ。


 お祝いしてくれる人の中には当然親しい人もいる。


「よお、ドラゴンの。武術大会優勝、おめでとうよ」


 そう挨拶してきたのはフォックスだ。


「ありがとうございます。それよりもこの前は面倒をかけてしまいましたね」


 武術大会の時の避難誘導のことである。


「おお、いいってことよ。困った人のために働くのは冒険者の義務だからな。それにおいしい思いもさせてもらったしな」


 そう言うとフォックスは懐から、紙の包みを出す。

 封筒の表紙には『金一封』と書かれていた。


「今回のことで国から報奨金をもらったんだ。一人金貨5枚あった。これでしばらくは楽ができるぜ」


 そう言うフォックスはホクホク顔だった。


「それではパーティーを楽しんでいってくださいね」

「ああ、そうさせてもらうぜ」


 それでフォックスとは別れた。


「ホルスト殿、おめでとう」

「ホルスト殿、優勝とはすごいじゃないか」


 次にあいさつに来たのは冒険者ギルドのギルドマスターのダンパさんと商業ギルドの支配人のマッドさんだった。


「ホルスト殿、君は我がノースフォートレスギルドの誇りだよ」

「ホルスト殿と取引があるというだけで、商業ギルドの信用が上がりまくりです。ありがたいことです」


 二人ともとてもニコニコ顔だった。

 そんな風に次々とあいさつをこなしていくうちに人の波が途切れたので、食事に行く。


「ほう、これはうまそうだな」


 祝勝会の会場は立食形式で運営されており、テーブルの上にはたくさんの料理が並んでいた。


 会場に集まっている連中には冒険者が多く、彼らはここぞとばかりに皿に山盛りに料理を盛って、がむしゃらに食っていた。

 まあ、低ランクの冒険者だと生活はそんなに楽でない場合が多いからな。

 食える時には腹いっぱい食っておきたいということだろう。

 その気持ちはよく分かった。


「どれ、一つ食ってみるか」


 俺はテーブルに並んでいた鳥の肉を一つつまむと口に運ぶ。


「お、うまいじゃないか」


 俺は料理の出来に満足した。

 なお、会場の食事の調理は冒険者ギルドの酒場のマスターと、大規模訓練場の食堂のおばちゃんたちに頼んである。


「いいですよ」


 頼みに行くと、マスターは笑いながら二つ返事で引き受けてくれた。

 おばちゃんたちも、


「任せておきな」


と、気軽に引き受けてくれた。

 ありがたい話だった。


 そんな彼らに報いるために、給料は相場よりも大分色を付けた。その上。


「料理が残ったら、持って帰って家族に食べさせてあげなよ」


 そう言ってあるので、特におばちゃんたちが張り切ってくれている。

 まあ、冒険者連中の食いっぷりを見ていると余るかどうかわからんが。


 そんな風に宴はつつがなく進行していった。


★★★


 祝勝会の途中では、俺が参加者に挨拶をする場面もあった。

 正直、こういうみんなの前であいさつするとかいうのは苦手だ。

 それでも、気持ちを奮い立たせ、みんなの前に立ち挨拶する。


「この度は、私ホルスト・エレクトロンの武術大会優勝祝勝会にお集まりいただきありがとうございます。皆様の声援のおかげで、こうして武術大会優勝を果たすことができました。応援ありがとうございました」


 そう言いながら俺がぺこりと頭を下げると、会場から拍手が沸き起こる。


「それでは、引き続き、パーティーをお楽しみください。それと、この後パーティー参加者の方々のためにカラくじ無しの大抽選会を用意しております。是非、ご参加ください」


 大抽選会とはくじ引きで当たったものをもらえるというくじ引き会のことである。

 上の方の景品には剣とか鎧とか魔法の杖とかマジックアイテムとか、それなりの物を用意してある。

 一応ハズレは無しで、最低でもお菓子とかの粗品はもらえるようにしてあった。


「わー、わー」


 大抽選会と聞いて会場が色めき立つ。


「最高だぜ。ホルストさん」

「ホルストさん、ステキ♥」


 そんな声が会場中から聞こえてくる。

 そんなに喜んでもらえると、企画したこちらとしてもうれしい。

 俺は参加者たちの笑顔を見れてよかったと思うのだった。


★★★


 そして、30分後。

 会場のくじ引きスペースには長蛇の列ができていた。


「ああ、粗品だったか」

「やった。3等の鋼の剣だ。今まで銅の剣しか使っていなかったから、これで大幅戦力アップだ」

「ポーション5本セットか。しかも内1本はハイポーションか。ポーションて結構使うから、助かるわ」


 くじ引き会場では喜びの顔、残念な顔、様々な人間模様が見られた。

 そんな中。


「お前ら、何をしているだ」


 なんと抽選の列に銀を連れたヴィクトリアが並んでいた。


「何って、くじ引くために並んでいるに決まっているじゃないですか」

「アホか。お前、主催者の側だろうが。これは参加客のためのくじ引きだぞ。主催者が引いてどうするんだ」

「だって、銀ちゃんもくじ引きたいって言うし。ねえ、銀ちゃんもくじ引きたいよね」

「え、ホルスト様、ワタシたち、くじ引いちゃダメなんですか」


 そう言うと、銀はじーっと俺のことを見つめてきた。

 やめてくれ。そんな純粋そうな瞳で俺を見つめないでくれ。

 まるで俺が悪者みたいじゃないか。


「わかった。くじは多めに用意してあるから、引いてもいいよ」

「わーい。ホルストさん、ありがとうございます」

「ホルスト様、ありがとうございます」


 ヴィクトリアのやつ。子供をだしにしやがって。

 俺はヴィクトリアに呆れながらもくじ引き会場を後にし、エリカたちと合流する。


「本当に、ヴィクトリアは……仕方のないやつだ」


 俺が愚痴をこぼすと、エリカとリネットがクスクスと笑う。


「まあ、いいではないですか、旦那様。くじ引きくらい引かせてあげれば、よろしいではないですか」

「ヴィクトリアちゃんらしくていいじゃないか」


 そうやって、二人がヴィクトリアを庇うものだから、俺はそれ以上何も言えなかった。

 そうこうしているちに、くじ引きを終えたヴィクトリアと銀が戻ってきた。


「わーい、ホルスト様。クッキーもらっちゃいました」

「ワタクシは、ドーナツもらいました」


 粗品のお菓子をもらえて、二人はとてもうれしそうだった。

 そんな二人を見て俺は思う。


 これでよかったのだと。

 二人にくじを引かせて正解だったと。


 その後もパーティーは続き、夜の10時ごろにようやくお開きとなったのであった。

 それは、夜の暑さが少しずつやわらぎ、そろそろ秋が始まろうかというくらいの季節の出来事だった。

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