第104話~輝きの宝珠~
「ホルスト・エレクトロン。武術大会での優勝見事である。これからも精進するとよい」
武術大会から数日後、俺の表彰式が行われた。
強大な悪魔が武術大会に現れたということで、一時町中が騒ぎになったが、数日が過ぎ、それ以上何事も起こらなかったことで、町は落ち着きを取り戻しつつあった。
俺も何度も知り合いにどうなっているのかと聞かれたが。
「もう俺が退治しちゃったので、心配しなくても大丈夫ですよ」
そう、聞かれた人には答えておいた。
尚、今回俺の表彰式は政庁の大広間で行われている。
本来なら、闘技場で盛大に行われるべきところだが、その闘技場はグレートデビルのせいでボロボロで、使用不可能となり、しばらく立ち入り禁止となっていた。
ただ、それでも国王が出席する式典だ。
大広間は大勢の役人や護衛の騎士であふれていた。
「はは、お褒めいただきまして、誠に恐縮至極に存じます」
国王陛下にお褒めの言葉をいただいた俺は、一歩前に進み、膝を屈し、恭しくお礼を述べる。
「うむ、それでは、褒美を授けよう」
お礼を述べた俺に、国王陛下は褒美として、賞状と景品目録を下賜してくれた。
「ありがたき幸せ」
俺はありがたくそれを受け取る。
「それでは、ホルストよ。これからも武芸に励むがよい」
「はは、これからも精進してまいります」
これで、表彰式は終わった。
俺は役人に導かれて、大広間を退出した。
★★★
大広間を出た後、俺は控室に通された。
しばらくそこで待っていると、エリカたちも合流してきた。
「旦那様、おめでとうございます」
「ホルストさん、カッコよかったですよ」
「ホルスト君、素敵だったよ」
「ホルスト様、おめでとうございます」
みんなが口々にお祝いを述べてくれた。
実はエリカたちも俺の表彰式を見ていた。
普通なら一般人であるエリカたちは大広間に入れないのだが、俺の仲間ということで特別に入れてもらっていたのだ。
エリカたちと合流した後しばらく談笑していると、役人がやってきた。
「失礼いたします。国王陛下がお呼びでございます。どうぞ、こちらへお越しください」
「わかりました」
俺たちは役人の案内で国王陛下のもとへ向かった。
俺たちがここに集まっていたのは、国王陛下に私的に面会するためだった。
★★★
俺たちが案内されたのは政庁の応接室だった。
「失礼いたします」
俺たちが部屋に入ると、国王陛下はすでに席について俺たちを待っていた。
「よく来てくれた。とりあえず、座るがよい」
「はい、座らせていただきます」
国王陛下が座るよう勧めてくれたので、俺たちも席に着いた。
「それで、本日はどういったご用件で、我々をお呼びになられたのでしょうか」
「うむ、その前に先に礼をしておこうか」
そう言うと、国王陛下は俺たちの方に改めて向き直る。
「この度は、我が国の民を、そして余を守ってくれてありがとう。そなたたちが迅速に行動してしてくれなければ、今頃多くの民の命が失われ、余も命を落としていたところであった。深く感謝する」
何と国王陛下は頭を下げて俺たちに感謝の言葉を述べてきた。
国王陛下ともあろう方に頭を下げられた俺は慌てる。
「いえ、国王陛下。私どもは当然のことをしたまでです。国王陛下が頭を下げる必要などありません」
「いや、ホルストよ。そなたたちの働きに対して礼を述べるのは当然なことだ。そのように恐縮する必要はない」
「は、そう言ってもらえるのなら」
「うむ、それでよい。さて、それでは本題に入るとするかの」
それまでどちらかというとにこやかだった国王陛下の顔が真剣なものになる。
「実はそなたに渡した賞品目録の中に『輝きの宝珠』というものがあったと思うのだが」
輝きの宝珠?
ああ、そういえばフォックスが今年の優勝景品にそういう物があるとか言っていたな。
それがどうしたというのだろうか。
「確かに、そういうのがありましたね。それがどうかされたのでしょうか」
「実はお前に渡すことができなくなってしまったのだ」
え、そうなの?
「なにかあったのですか」
「うむ。これは王国の恥になることなのであまり言いたくないのだが……そなたには話さぬわけにもいくまい。そなたたち、よそでは話さないと約束してくれるか」
「「「「「はい、もちろんでございます」」」」」
俺たちは当然承諾した。
それを見た国王陛下はコクリと頷き、話し始めた。
「実は『輝きの宝珠』が盗まれてしまったのだ」
「盗まれた?」
「うむ。グレートデビルが倒れた後、この闘技場周辺が騒然となったであろう。その時、輝きの宝珠の警備が手薄になってしまったのだ。その隙を突かれて強奪されたのだ」
国王陛下の顔が渋くなる。
「しかも、それを奪っていったのが我が近衛騎士団の騎士の一人らしいのだ」
「らしい……ですか」
「その通りだ。実は詳しいことは調査中でまだ分かっておらぬのだ。ただ確かなことは、『輝きの宝珠』を守護していた騎士。これも近衛騎士だったのだが、これが殺されて、『輝きの宝珠』が奪われたということと、近衛騎士が1人行方不明になったということだ」
「国王陛下に対して失礼かと存じますが……」
国王陛下の話を聞いて、おやと思った俺は聞いてみることにした。
「国王陛下の話を聞く限りでは、逃亡した近衛騎士が必ずしも『輝きの宝珠』を強奪したとは限らないのではないですか?宝石の強奪と騎士の逃亡という2つの事件がたまたま重なっただけという線も考えられますし。何か根拠があるのでしょうか」
「根拠はある。実は護衛していた騎士たちは剣を抜いていなかったのだ」
「剣を?」
国王陛下は静かに頷く。
「その上、護衛の者たちは一太刀で切り殺されていた」
「つまりは?」
「護衛の騎士たちが剣を抜かなかったのは相手が知り合いだったからだと考えられる。そして、護衛をあっさり殺していることから護衛の騎士を斬った者は、相当の手練れだと考えられる。後、現場周辺で当該騎士を目撃した者もおる。つまり、その逃亡した騎士が一番怪しいということになる」
「そういうことですか」
俺は国王陛下の説明に納得した。
「しかし、その騎士はなぜ『輝きの宝珠』を盗んだのでしょうか」
「わからぬが、多分、欲に目がくらんだのではないかと思う。『輝きの宝珠』は聖石と呼ばれる特別な宝石でな。それを見る者を魅了すると言われておる。逃亡した騎士も『輝きの宝珠』の魅力にやられたのだろう」
聖石って。俺たちも持っているやつか。
確かに貴重品だが、騎士という身分をなげうってまで欲しい物かね。
俺は国王陛下をじっと見る。
「そういうことで、そなたに『輝きの宝珠』をやることはできぬ。
だから別のものをやろう」
★★★
輝きの宝珠が奪われてしまった。
ということで、国王陛下は俺に別の褒美をくれるらしい。
「そなたに爵位を授けようと思うが、どうじゃ」
どうやら、国王陛下は俺に爵位をくれるつもりらしい。
普通の人間なら喜ぶかもしれないが、そんな面倒なもの俺はいらない。
だから、いつもの言い訳をする。
「大変ありがたいお話ではありますが、お受けできません」
「ほう、それはなぜじゃ」
「一族の掟がありますゆえ」
「掟とな」
「はい。実は私と妻はヒッグス一族の人間なのです。実は、以前北部砦での戦功で、爵位を打診されたことがあったのですが、その時も同じ理由で断らせてもらいました」
「ほほう」
ヒッグス一族と聞いて国王陛下が納得した顔になる。
どうやら、国王陛下もヒッグス一族の掟のことは知っているらしかった。
「そなたは、あの魔術師のヒッグス一族の人間なのか」
「はい。一応、私は重臣の家、妻は本家の出身でございます。今は事情があって冒険者をやっておりますが」
「重臣と本家の出身とな。本家ということは、そなたの妻は宮廷次席魔術師のユリウスの関係者か」
ユリウス。ユリウス・ヒッグス。エリカの兄である。
かなりの腕を持つ魔法使いで、魔術師の称号ももらっており、宮廷次席魔術師を務めるほどだ。
宮廷次席魔術師は宮廷魔術師のナンバー2で相当高い地位だ。
ただ、ユリウスは魔法の才はあったが、生まれつき体が弱く、いつもエリカの両親を心配させていたのを覚えている。
俺にも優しく接してくれていて、会えば、「ホルスト、頑張れよ」といつも励ましてくれていたいい人だった。
「はい、ユリウスは私の兄でございます」
国王陛下の問いにエリカが答える。
「なるほど。そういうことなら無理強いするわけにはいかぬな。何かほかに望みのものはあるか」
「いえ、特にほしいものが思いつきません」
「そうか。ならば、年金とかはどうだ」
「年金ですか」
「そうだ。国が長年功績のあった役人に支給する終身年金がある。それをそなたに出すようにしよう。それで構わぬか?」
「はい、ありがとうございます」
「では、財務官よ。すぐに証書を発行せよ」
「はは」
国王陛下の命令で財務官がすぐさま年金証書を発行する。
「ありがたくいただきます」
俺はそれをありがたくいただき、証書に書かれていた数字を見て驚く。
「あのう、国王陛下。年に金貨50枚支給とは多すぎではないですか」
なんと年金は年に金貨を50枚もくれることになっていた。
終身ということだから俺が死ぬまで一生この金額をくれ続けるわけだ。
……俺が死ぬまでに総額いくらになるか、想像もつかなかった。
「構わぬ。この金額には『輝きの宝珠』の他にもグレートデビル討伐の報酬も入っておる。気にせず受け取るがよい」
「はは、ありがとうございます」
これで国王陛下との話し合いは終了した。
後は軽く雑談をして、そのあと退席した。
★★★
「大金も入ったことだし、ケーキでも買って帰りませんか」
国王陛下との謁見の帰り道。ヴィクトリアがおねだりしてきた。
「またかよ。お前、最近ケーキ食い過ぎじゃないか」
「そんなことないです。最近食べたの、3日前ですし」
「3日前って。十分食い過ぎじゃねえか」
俺がしかるとヴィクトリアは黙るが、ここで援護射撃が来る。
「まあ、いいではないですか、旦那様。私もちょうど甘いものが食べたかったですし、買って帰りましょう」
「アタシもケーキ食べたいな」
エリカとリネットだった。
お前ら最近ヴィクトリアに甘くないか。
そう思ったが、それを言うと怒られそうで怖かったので俺は何も言わなかった。
「しょうがないなあ」
ということでケーキ屋に寄ると、女性4人はケースに顔を引っ付けながらケーキを選び始めた。
それを見て俺は、つくづく平和だなと思うのだった。
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