第79話~祝勝会~
ダンジョンから帰って3日ほど経って落ち着いたところで、ダンジョン攻略の祝勝会を開いた。
場所はいつもの冒険者ギルドの酒場だ。
ついでに、俺とエリカの誕生日がもうすぐだったので、その誕生日会も兼ねることにする。
エリカの妊娠のお祝いもしようかという話もあったが、エリカが「それは子供が生まれてからでいいです」と言うので、行わないことになった。
後、銀は家でお留守番だ。子供を夜の酒場に連れてくるのはよくないからな。
本人は行きたがっていたが、お土産を買って帰るということで納得させた。
「ダンジョン攻略達成、おめでとうございます。それでは、かんぱ~い」
まずは、ダンジョン攻略のお祝いで一杯やる。
「ホルストさんとエリカさん、誕生日おめでとうございます」
2杯目は俺とエリカの誕生日祝いで1杯やった。
「旦那様」
「ホルストさん」
「ホルスト君」
「「「プレゼントです」」」
3人が俺にプレゼントを渡してくる。
開けてみると、手編みのセーター、マフラー、手袋が出てきた。
どれも3人の思いが込められていて暖かそうだった。
「みんな、ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「「「はい」」」
「それじゃあ、次はエリカの番だな」
俺へのプレゼントが終わったので、次は俺、ヴィクトリア、リネットがエリカにプレゼントを渡す。
「ありがとうございます」
エリカが早速中身を取り出す。
俺があげたのはブローチ、ヴィクトリアは髪留め、リネットは財布だった。
「大事にしますね」
そう言うとエリカはもらった物を大事そうにしまった。
さて、プレゼント贈呈も終わったことだし、あとは食事である。
★★★
食事中は和気あいあいと楽しく過ごした。
途中、ヴィクトリアがエリカを見てこんなことを言う。
「それにしてもエリカさん髪の毛短くなっちゃいましたね」
ダンジョンから帰った後すぐに、エリカは散切り頭になった髪の毛を切りに行った。
そして帰ってきたら、耳が少し出るくらいのショートボブになっていた。
長い髪もよかったけど、ショートヘアでもこのくらいの長さなら女の子らしくていいなと思った。
「折角短くするのですから、一度ベリーショートに挑戦してみようと思うのですが」
美容院に行く前、笑いながらエリカはそう言っていたが、さすがにそれはと思ったのでやめてもらった。
さすがに奥さんが男みたいな髪型にするのは俺的に抵抗があったからだ。
「若奥様らしくて、いいと思いませんか?」
家に帰ってくると、エリカは新しい髪形を褒めて欲しいのかそう尋ねてきた。
もちろん、俺の対応は全肯定だ。
「素敵だよ。エリカ」
そう言いながら、俺がエリカの頭を撫でてやると、気持ちよかったのか、エリカは目をつむり俺に寄り添ってきた。
撫でている俺の方も気持ちがよかった。
切りたての髪の毛の先がチクチクと手に当たる感触は何とも言えず、心地よかった。
特に短くなった襟足を触っている時の感触が気持ちよく、病みつきになりそうだった。
現に、昨日もベッドの中でずっと触っていたくらいだ。
「旦那様、くすぐったいのでやめてください」
そう言われたが、無視して続けると、そのうちにエリカも気持ちよくなったのか、
「もっと触ってください」
と、最後はせがんで来るようになった。
ちなみに、ヴィクトリアとリネットもこの感触はお気に入りのようだ。
「エリカさんの髪の毛、気持ちいいです」
「アタシも触らせて~」
そうやってさっきから触りまくっている。
「ワタクシも髪の毛切りたくなりました」
「アタシに短い髪は似合うかな?」
「二人とも、髪を切るのはいいのですが、独身のうちは伸ばしておいた方がいいですよ。子供でもできれば長い髪なんて邪魔なだけだから短くしてもよろしいと思いますが、世の中の男性は、髪の長い女性の方が好きみたいですから」
「「はい、そうします」」
その後、3人が俺の方をちらっと見てきたような気がしたが、だいぶ酔っていたのでよくわからなかった。多分気のせいだと思う。
俺はそんな光景をほほえましく見ながら、無事にダンジョンから帰ってこられたことを嬉しく思いながら飲み食いする。
そして、もう少ししたら俺も父親になるんだなとしみじみ思いながら幸せをかみしめる。
★★★
一方その頃。
どこかの国のどこかの建物。
ここでは、『神聖同盟』の盟主が部下の陳情を受け付けていた。
「なに、魔石が足りないだと?」
「はい、その通りです。盟主様」
古代神復活のために使う魔石が足りない。
部下はそう言っているのだ。
「実は、使い回す予定の魔石が行方不明になっておりまして」
「ふむ、海の主とヤマタノオロチに使った分だな」
海の主とヤマタノオロチを狂わすために使われた魔石は、当初の予定では使い回す予定だったのだが、それが事件が解決すると同時に消えていた。
どこへ行ったのか不明であり、神聖同盟にとっては痛手だった。
「どうするつもりなのだ。あれだけの魔石、簡単には用意できまい」
「一応、1から作ろうとはしておりますが、完成には10年はかかるとか」
「それでは、全然ダメではないか。折角アルキメデスの鍵を手に入れたというのに、何ということだ」
盟主が頭を抱える。
それに対して部下が代替案を提案する。
「ご安心ください。手はあります」
「ほう、それはどのような」
「はい、この世界にはいくつか聖石と呼ばれる魔力を多く蓄えられる宝石があります。それを邪悪な意思で染め上げ魔石を作るのです」
「ほう、それは素晴らしい考えだな。だが、聖石とて簡単に手に入る物でもあるまい。当てはあるのか?」
「はい、実は次のヴァレンシュタイン王国で行われる武術大会の景品として出されるという情報があります。それを奪取すれば1個手に入るかと」
「うむ。いいぞ。さっそく実行せよ」
「ははっ」
その後しばらく盟主と打ち合わせをした後、部下は出て行った。
★★★
「もう飲めませ~ん」
宴会の帰り、俺はすっかり酔いつぶれたヴィクトリアを背負って家路を急いでいた。
本当にこいつは限度を知らない。
宴会をやるとよくこんなふうになる。
普通なら、反省を促すためにも後でエリカに叱ってもらうところだが、今日はおめでたい席だったので勘弁してやることにする。
「う~ん、頭が痛い」
今日は珍しくリネットも酔って苦しそうにしている。
彼女は下戸なのに、おめでたい席だからと、俺たちに付き合って無理に酒を飲んだのだった。
「リネットさんしっかりしてください」
エリカが励ましているが、それで苦しさがまぎれるわけではない。
その様子を見て無理に飲ませない方がよかったなとちょっと後悔している。
そうこうしているうちに家に着いた。
「早く寝ろ」
俺とエリカはヴィクトリアとリネットをベッドに放り込むと、リビングに行く。
子狐の銀は寝ているのかリビングに姿はない。
「お茶を淹れますね」
そうエリカが勧めてくるので二人でお茶を飲む。
エリカが淹れてくれたのはハーブティーで、酔いを醒ますのにちょうどよかった。
しばらくは会話をせず、二人でお茶を飲むだけだったが、やがてエリカがこんなことを言い出した。
「実家の父と母に私の妊娠を伝えても構いませんか」
「エリカのお父さんとお母さんに?」
「はい。旦那様をイジメていたおじい様とかはどうでもいいのですが、父と母には知らせておきたいのです。二人は私と旦那様のことを庇っていてくれていたので、あまり心配させたくないのです。ただ、そうなると、おじい様や旦那様のご両親にも知られてしまうことになってしまいます。だから、旦那様はどうお思いになるかなって」
「そうだな」
俺はしばらく考える。
俺も自分をイジメた両親やエリカのじいちゃんのことはどうでもいいが、エリカのお父さんやお母さん、ばあちゃんは俺のことを庇おうとしてくれようとしたことはエリカから聞いている。
だったら、その恩を返すためにも、例え嫌な奴らに知られることになったとしても、エリカのお父さんたちには知らせておくべきじゃないかと思った。
「いいよ。お父さんたちには伝えておきな」
「ありがとうございます。後で手紙を送っておきます」
そう言うと、エリカは俺にくっついて来た。そして。
「旦那様、大好きです」
そう言いながら、俺の腕に頬ずりしてきた。
こういうエリカも可愛くてよい。
俺はしばらくエリカにされるがままだったが、そのうちにどちらからともなく寝ていた。
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