閑話休題10~その頃のヒッグス家3~
「トーマス様~、これをご覧ください」
ある日。トーマス・ヒッグスが執務室で仕事をこなしていると、妻のレベッカ・ヒッグスが駆け込んできた。
最近トーマスは忙しい。
秋の収穫期が終わり、収税作業に大忙しなのに加えて、自分の当主引継ぎのための引継ぎ作業やあいさつ回り、息子の結婚式の準備と、やることが多すぎて猫の手も借りたい状況だった。
だが、妻を無視するわけにはいかない。
妻が望むのなら話をきちんと聞いてやる。
それが結婚以来自分がずっと通してきたことだ。
だからこの時も、トーマスは仕事の手を止め、レベッカにニコリとほほ笑みかける。
「どうしたんだい?レベッカ」
「トーマス様、これを見てください。エリカからの手紙です」
「ほう」
エリカからの手紙。
これはさすがのトーマスも予想の範囲外だったらしく、妻から奪うように手紙を受け取ると、目を皿のようにして、手紙を読みふけった。
そして、読み終えると涙ぐむ。
「レベッカ。これは本当なのかい?エリカのお腹に子供がいるって」
「ええ、本当みたいですよ。手紙にそう書いてあるではないですか」
「ああ、そうだね。ということは、もう少ししたら僕たちも、おじいちゃんとおばあちゃんになるのかね」
「そうですね。もう少ししたらなるでしょうね。私、今、ものすごく幸せです」
「僕もだよ」
そう言うと二人は感極まり、抱き合って孫ができる幸せを喜んだ。
しばらくは二人でそうやって抱き合っていたが、やがて。
「そうそう、エリカとホルスト君から贈り物が届いてますよ」
「贈り物?」
「はい、これです」
そう言うとレベッカは持っていた包みを開けた。
中には1本の角のかけらと1枚の毛皮が入っていた。
「これは?」
「なんでもベヒモスの角と毛皮らしいですよ」
「ベヒモス?ベヒモスと言うと伝説に出てくるような化け物ではないか。そんな物をどこから手に入れたのだ」
「なんでも冒険の途中で討伐したとか。それで、この角と皮は杖とローブにして父上の当主就任式にお使いください、ということらしいですよ」
「ほう。それは素晴らしいな。ベヒモスの杖とローブなど国宝級の品だからな。僕も見たことがない。それを就任式で使えとは。なんて親孝行な子だろうか」
「本当にそうですね」
夫婦してしみじみとする。
「それよりも、エリカの妊娠を私の父やオットーにも伝えなくてはなりませんが、どうしますか」
「そうだな。まさか、教えないわけにもいくまい。二人を呼び出すとするか」
トーマスは机の上のベルを鳴らす。
すると、隣の部屋からすぐに秘書官が飛んできた。
トーマスはその秘書官にすぐに用件を伝える。
「義父上(ちちうえ)とオットーに話がある。すぐに両名を連れてくるように」
「はっ、畏まりました。すぐに手配します」
命令を受けて秘書官はすぐに執務室を飛び出して行った。
★★★
3時間後。
トーマス夫妻の前にセオドアとオットーが座っていた。
二人とも憔悴しているように見える。
当然だ。
この前の親族会議で二人は糾弾され、セオドアは半ば幽閉されるような形で屋敷の一角に閉じ込められ、オットーも魔法師団長に左遷されたうえ、今は自宅謹慎の処分を受けていたからだ。
二人が揃ったのを見たトーマスは、話を切り出す。
「今日、エリカから手紙が届きました」
「なに?エリカから?」
これまで音沙汰なかった孫娘から連絡があったと聞き、セオドアが色めき立つ。
「それで、なんと。あの小僧に愛想をつかして帰ってくるのか?」
「義父上(ちちうえ)、落ち着いてください。そんなわけがないじゃないですか。むしろ、二人の仲は良好ですよ。なにせ、子供ができるくらいですから」
「「子供?」」
子供と聞いて二人は目を丸くした。
「そうです。二人の子供です。予定では春くらいに産まれるみたいですよ」
「そうか、ワシにもひ孫が」
「孫が」
二人とも家族が増えると聞いて喜んでいた。
ホルストのことは憎く思っていても、孫やひ孫となると別らしかった。
だが、トーマスはそんな二人に死刑宣告をする。
「言っておきますが、エリカは二人にタダで子供の顔を見せるつもりはないと言っていますよ」
「「何、それはどういうことだ」」
セオドアとオットーがそれを聞き、前のめりになる。
それに対してトーマスが冷徹に告げる。
「自分のしてきたことを胸に手を当てて考えてみてください。それを清算しない限り、エリカは二人を子供に会わせないと思いますよ」
「トーマス様の言う通りです。父上とオットーは自分がホルスト君にしたことを反省すべきです。反省したうえで、どう身を処すべきかご自身でお考え下さい」
「義父上たち、そういうことですので、今日の所はお引き取りください。身の振り方を考えたらまたお越しください」
それで、セオドアとオットーは部屋から追い出されてしまった。
部屋を追い出されたセオドアとオットーは、どうすれば生まれてくる子供に会わせてもらえるようになるのかと頭を悩ませる羽目になるのだった。
はっきりって自業自得にもほどがあるので、誰も二人を庇ってくれる者はいなかった。
ーーーーーーー
これにて第5章終了です。
ここまで読んでいただいて、気にっていただけた方、続きが気になる方は、フォロー、レビュー(★)、応援コメント(♥)など入れていただくと、作者のモチベーションが上がるので、よろしくお願いします。
それでは、これからも頑張って執筆してまいりますので、応援よろしくお願いします。
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