第67話~希望の遺跡、裏3階層~

 裏3階層は森林地帯だった。

 木々が生い茂り、視界が物凄く悪かった。その上。


「すごい霧ですね」


 霧が出ていて、一寸先は闇というような状態だった。


「これはお互いにばらばらにならないように気を付けないとな」


 こういう時に怖いのは、パーティーが離れ離れになってしまうことだ。


「ロープで繋ぐか」

「それが、いいですね」


 そこで俺たちはお互いの体をロープで繋ぐことにした。

 腰にロープを巻き、それを繋ぐ。


「何だか、電車ごっこする子供みたいですね」


 ヴィクトリアがまたよくわからないことを言う。

 電車って何だと思ったが、まあ、ツッコんでも教えてもらっても理解できそうな気がしなかったので

聞かなかった。

 こうして、ロープで体を繋いだまま俺たちは移動することになったわけだが。


「なんで皆そんなに俺に体を引っ付けてくるんだ」

「だって、旦那様。パーティーがバラバラになったら一大事ではないですか」

「エリカちゃんの言う通りだ。ここはリスクを取らず、バラバラになるような行動をすべきではないと思う」

「2人の言う通りです。ここは一緒に行動しましょう」


 俺は正直歩きにくい気がしたが、3人がそう主張してくるので、このまま移動することにした。


★★★


「また、玉ねぎか」


 森の中を進んで行くと、これで何度目になるのだろうか、またモンスターが現れた。

 現れたのはここまで何度も見た玉ねぎ型の植物モンスターだった。

 というか、ここでは生物といえば目の前の玉ねぎとかトレントのような植物系モンスターがほとんどだった。


 たまにリスとかウサギとか狐とか、小動物を見たりもするがそれよりも圧倒的に植物系モンスターが多い。


「エリカ、やれ」

「『風刃』」

「ぷぎゃ」


 俺がエリカに指示をして魔法を撃たせると、玉ねぎは一瞬で縦に両断され、玉ねぎを切った時のつんとした臭いが周囲に漂う。


「もう、いやです」


 玉ねぎを倒した後にヴィクトリアがボソッと不満を口にする。

 俺もその気持ちはよくわかる。


 俺たちが今不満に思っていること。

 それは先行きの不透明さだ。


 何せこのエリアは視界が悪すぎる。

 霧のせいでせいぜい数メートル程度の視界しかなく、自分たちがどこにいてどこへ進んでいるのかさっぱりなのだ。


 その上、この場所は似たような風景が続いているため、実は同じところをぐるぐる回っているだけなのではという疑心暗鬼まで生まれてしまう。

 一応途中で木々に目印を残したりして、1回通った場所はわかるようにしていて、今までそういう目印の所に戻ってきたりはしていないので、どこかへ向かって進んでいるはずだとは思う。


 まあ、あまりその辺自信はないが。

 というか、俺たちはどこへ行けばいいんだ。手がかりが無さ過ぎて不安なんだが。


 おまけに深い霧のせいで道どころか魔物の視認状況も悪いことが、俺たちをさらに苛立たせている。

 一応エリカが探査魔法を使ってくれているので安全を確保しているが、思った以上に精神を消耗するのだ。


 もう、いやだ。

 俺もヴィクトリアのようにそう嘆きたいが、俺はパーティーのリーダーだ。

 俺が泣き言を言っていてはこのパーティーは終わりだ。


 だから必死に打開策をひねり出す。

 そして、考えに考えた結果、あることを思いつく。

 そういえば、ここには狐がいたな。もしかして。


★★★


「皆、聞いてくれ。今から、この辺りの狐たちを呼び出そうと思う」


 俺は3人を集めて相談を開始する。


「狐を呼び出す?ああ、この森にいる狐を集めて情報を得ようという話ですか。悪い考えではないとワタクシは思いますが、それで行けるんですかね?一応、白狐はこの世界の狐は自分の眷属だとは言っていましたが、果たしてそれがこのダンジョン内でも通用するのでしょうか?」


 俺の提案にヴィクトリアが当然の疑問を口にする。


 それは俺も思った。

 狐たちが白狐の眷属だとしても、この迷宮の中の狐まで対象範囲なのか。よくわからない。


「でも、『物は試し』と言うだろ?他に手もないことだし、やってみる価値は十分にあると思うぞ」

「そうですね。旦那様の仰る通りです。別に試しても損はないのですから、やってみるべきでしょう」

「アタシも賛成だな。試してみる価値は十分にあると思うよ」

「まあ、やるだけやってみればいいと思いますよ」


 全員の意見が一致したところで、俺は狐たちに呼びかける。


「この周辺にいる白狐の眷属たちよ。我が呼びかけに応え、ここへ集え!」


 数分後。

 俺たちの前に20匹ほどの狐が整列していた。

 どうも、ここの狐たちも白狐の眷属で合っているようだった。


「お初にお目にかかります。私、この森の狐を束ねておりますゴンと申します。あなた様方のことは白狐様より伺っております」


 その中の1匹が前に出て、頭を下げながら丁寧にあいさつをしてきた。

 どうやらここの連中の長らしかった。


 というか、狐ってどいつもこいつも礼儀正しいな。

 余程白狐の統率がすぐれているのだろう。結構な話だ。


「俺はホルストだ。こちらこそよろしくお願いする。それで、お前たちに来てもらったのは他でもない。聞きたいことがあるんだが」

「はい、わかっておりますとも、この森についてでございましょう?」


 うん、さすがだな。話が早くて助かる。


「この森は通称『迷いの森』と呼ばれております」


 長が説明を始める。


「ご覧の通り、この森は霧に覆われております。それだけでも厄介なのですが、その上この霧は感知できないほど微量の魔力を含んでおります」

「魔力?」

「左様でございます。そして、その魔力こそが、この森を迷いの森たらしめている原因なのです」

「というと?」

「この魔力が生き物の感覚を狂わせ、誘導し、この森から外に出さないようにしているのです。ここから、抜け出すには特別な力が必要となります」

「特別な力?」


 長がニコッと笑う。


「私共のことでございます。ホルスト様、あなたは正しい判断を成されました。この森に住む我々ならばこの魔力に影響されず転移魔方陣まで正しい道をご案内することができます。では、ご案内させていただきます」


 こうして俺たちは長の案内で目的の転移魔方陣を目指すことになった。


★★★


 転移魔方陣へ行く道中。とある木の前で休憩することになった。

 大きな木の前に開けた場所があり、休憩するにはちょうど良い場所だった。


 一応、結界石を張ってから腰を下ろす。


「は~い、今出しますね」


 ヴィクトリアが収納リングから、お菓子を取り出す。

 今日のおやつはホールケーキだ。

 これを切り分けみんなで分ける。


「ゴンさんにはこちらを」

「これはどうも」


 長のゴンには稲荷ずしを渡してやる。

 手を後頭部に当てながら嬉しそうに受け取ると、長はがっつくように食べ始めた。

 礼儀正しい奴だが、こういう野性味あふれた食べ方を見るとやはり狐なんだなと思う。


「「「「「ごちそうさまでした」」」」」


 おやつを食べた後はのんびりする。


「うーん」


 各自思い思いに体を伸ばしたりして疲れをほぐす。


「おや、あれは?」


 ふと、ヴィクトリアが何かに気が付く。


「リンゴですか」


 ヴィクトリアがすぐ側の大木にリンゴがなっているのを発見したのだった。


「ほう、お目が高い。これは黄金のリンゴの木ですぞ」


 それを見て長が説明してくれる。


「黄金のリンゴ?」

「そうです。黄金のリンゴです。黄金のリンゴはどんな病気でも直す霊薬の材料となります。この木は毎年何百ものリンゴの実をつけるのですが、そのうちの1個だけが黄金のリンゴになるのです」

「そうなんだ」

「折角だから、探してみてはどうですか」

「それは、いいですね。ぜひ探しましょう」

「ワタクシも見てみたいです」

「冒険者なら、ここは探してみるべきだな」


 長の提案に女性3人が乗ってきたので黄金のリンゴとやらを探してみることにする。


「『重力操作』」


 魔法で体を浮かせ、木の周囲をぐるりと回る。

 目を細めて観察しながら2,3週回ると、それはあった。


「黄金のリンゴだ」


 黄金は木のてっぺんの辺りにあった。

 俺はそれをナイフで切り取り、手に抱えて、ゆっくりと地上に降りる。


「「「きれいですねえ」」」


 女性3人が黄金のリンゴを見て顔をうっとりさせる。

 うん、こうやって3人の喜ぶ顔が見られただけでも頑張って取ったかいがあるというものだ。


「さて、それじゃあ、行くか」


 こうして黄金のリンゴを手に入れた俺たちは先を急ぐのであった。


★★★


 それから1時間ほどで転移魔方陣に到着した。

 転移魔方陣は枯れた大木の幹の中の空洞部分にあった。


「ここにはボスっぽいのはいないんですね」

「まあ、このエリアはここに来ること自体が難しくて試練と言えるからな」


 実際、狐たちがいなければここへ来れていないわけだし。

 とにかく、このエリアはこれでクリアだ。


「助かったよ。本当にありがとう」

「「「ありがとう」」」


 俺たちは長にお礼を言う。


「いえ、いえ。この程度のこと、白狐様が受けた恩義に比べれば些細なことです」

「いや、本当に助かった。大した物はあげられないけど、これをやるよ」


 そう言うとヴィクトリアにある物を出させた。

 それは大きな寿司折だった。


「稲荷ずしだ。みんなで、食べてくれ」

「これは、どうも。一族の者でありがたく食べさしてもらいます」


 長はぺこりと頭を下げながら、寿司折を受け取った。


「「「「それでは、また」」」」

「お元気で」


 こうして俺たちは長と別れ、次の階層に向かうのだった。

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