第61話~希望の遺跡、中ボス戦・休憩ポイント~

ギギー。

 重々しい音を立てながら、鉄扉が開かれる。


「広い場所だな」


 扉を開けるとそこは開けたちょっとした広場のような場所だった。

 上を見上げると今までとは違って天井もかなり高く、洞窟の中なのに解放感を感じられる。そんな場所だった。


「ホルスト君、あれを見ろ」


 リネットさんが広場の中央付近を指さすと、1匹の魔物がそこにいた。


「ゴブリンキングか」


 それは以前にも倒したことがあるゴブリンキングだった。

 今更かよと思ったが、よく見るとあれ?と思った。


 よく見ると今度のゴブリンキングは前のよりも強そうだ。

 マヌケにも派手な王冠を被っているのは同じだが、前のよりは筋骨隆々としていてそれなりにたくましく見える。

 確実に前のより強そうだった。


 いわばゴブリンキング(強)とでも呼ぶべき奴だった。


「でも、所詮は1匹だ」


 そう、いくら強くても相手はたった1匹しかいない。そう思った俺たちはじわりじわりと取り囲むように動く。

 その時だった。


「キシャアアアア」


 奴が突然吠えた。

 すると八の周囲が突然光だし、魔方陣が展開する。


「旦那様、これは転移魔方陣です」


 魔方陣を見てエリカが叫ぶ。

 エリカの言葉通り、転移魔法からたくさんのゴブリンたちが召喚される。


「4対1だと思っていたのに一気に数で逆転されてしまったな」


 魔方陣が消えると、ゴブリンの数は一気に増え、50体ほどになっていた。

 しかも現れたゴブリンは、ゴブリンウォーリア、ゴブリンメイジ、ゴブリンプリースト、ゴブリンアーチャーと上位種のゴブリンばかりであった。


 さらにギギーと俺たちの後ろから扉が動く音がする。

 振り返って後ろを見ると、いつの間にか入り口の扉が閉まっていた。

 これで俺たちは敵と扉に挟まれた形になった。圧倒的不利だ。


 だが、俺たちはこのくらいで絶望したりはしない。


「上等だ!こら」


 逆に大勢のゴブリンたちを見て闘志を駆り立てられた俺たちは、ゴブリンとの戦闘を開始するのだった。


★★★


 ゴブリンキングを総大将とするゴブリン軍団との戦いが始まった。


「『防御結界』」

「『魔法障壁』」


 とりあえず、エリカとヴィクトリアが防御魔法をかける。

 今回は挟み撃ちされた格好なので防御重視で行くつもりなので、俺がそう指示した。


「『火球』」


 ピュッ。

 そこへゴブリンメイジが魔法を、ゴブリンアーチャーが矢を放ってくる。


 だが、奴らの攻撃はレベルが低い。

 ボン。カン。

 こちらの魔法防御壁を突破できず、すべての攻撃が阻止される。


「シャー」


 それを見て業を煮やしたのだろう。ゴブリンキングが雄たけびを上げると、配下のゴブリンウォーリアたちが突撃してくる。

 すごい勢いで突っ込んで来る。


「だが、勢いがいいだけだ。ここは勢いを削いでやるとするか。……『天凍』」


 ゴブリンウォーリアの少し手前の地面に向かって『天凍』の魔法をかける。たちまち地面が凍り付く。


 ズテン。

 突然凍り付いた地面に対応できず、ゴブリンウォーリアが派手に転ぶ。


「今だ!」


 隙だらけになったゴブリンウォーリアたちに対し、『天火』の魔法を放つ。

 +1になり、威力と制御力の向上した『天火』の魔法は空中で20以上に分割され、ゴブリンウォーリアたちに襲い掛かる。


「グギャアアアア」


 業火の火柱がゴブリンウォーリアたちの大半を焼き尽くす。


「今です。リネットさん」

「心得た」


 俺はリネットさんの手を取ると、『重力操作』の魔法を使い、一気にゴブリンウォーリアたちを飛び越え、ゴブリンキングたちに迫る。


 途中、ゴブリンメイジとゴブリンアーチャーが邪魔をしてくる。

 前の時と比べて今回のゴブリンキング軍団はきちんと統制が取れて連携して攻撃してくるので手ごわい。


 そういえば、ゴブリンキングでも上位の存在は存在するだけで配下のゴブリンたちの能力を引き上げることができると、聞いたことがある。

 このゴブリンキングもそういうことができるのだろうか。


 まあ、どちらでもいい。


 俺たちはやることをやるだけだ。


「はああああ」


 エリカに強化魔法をかけてもらったリネットさんが、自慢のアダマンタイト製の盾を前面に押し出し、魔法や矢を防ぎながら一気に接近する。


「行くぞ」


 ゴブリンキングたちの目の前に降り立った俺たちは、蹂躙を開始する。

 距離さえ詰めてやればゴブリンアーチャーやゴブリンメイジなど大したものではない。


「ぎゃあ」


 俺とリネットさんの二人で次々に叩き切っていく。

 1分もしないうちにゴブリンメイジとゴブリンアーチャーの部隊は全滅する。


 残りはゴブリンキングだけだ。


 見ると、ゴブリンキングは剣と盾を構えこちらの様子をうかがっている。

 ゴブリンキングの構えは堂々としてどこか王者の風格を感じさせる。


 ああ、これが本物のゴブリンキングなんだと思う。


 こう堂々と向かって来られたら俺も正面から向かい合ってやらねばなるまい。


「リネットさん、後は俺に任せてください」


 リネットさんにそうお願いするとリネットさんも俺の気持ちを分かってくれたのだろう。


「わかった。でも、気を付けなよ」


 そう言うと一歩下がってくれた。

 これで俺とゴブリンキングの1対1ということだ。


「『神強化』」


 俺は自分の件に炎と雷の2属性の属性を付与する。


 勝負は一瞬で決まる。


 だから、俺も本気を出す。

 その覚悟を示すための2属性付与だ。


 ポワァ。

 その時、ゴブリンキングの体がほのかに光るのが見えた。


「強化魔法か」


 どうやら相手も強化魔法をかけたようだ。

 少しばかり動きがよくなったように見える。


 互いに準備を終えた俺とゴブリンキングは、相手の出方をうかがいながら対峙する。

 じりじりと少しずつ動きながら、その時を待つ。


 ピチャン。


 天井から水が1滴、滴る音がする。


 瞬間。


 俺とゴブリンキングが一斉に動く。


「やあ」

「シャアアア」


 剣と剣が交錯する。


 カチャリ。

 俺は剣を鞘に納める。


 ドスン。

 同時にゴブリンキングの首が落ちる音がする。


「終わったな」


 こうして俺たちは『希望の遺跡』5階層のボスを倒すことに成功した。


★★★


 6階層は5階層までと異なり、廃墟エリアとなっていた。


 かつては誰かが住んでいたのだろうか。


 崩れた壁から建物の残骸を覗き込むと、かつてはテーブルやタンスであったと思われる物の残骸が散乱しており、かつては人がいたことをうかがわせる。


 ここでまず俺たちが行ったことは。


「ここの壁も普通みたいですね」

「こっちも何も変わったことはないよ」


 廃墟の探索だった。

 リネットさんが言うには。


「こういうダンジョン内の遺跡には隠し部屋が残っていたりしてね。お宝が見つかることがあるんだよ」


 とのことだったので、建物の中に入って探索しているわけだ。


 最も、そう都合よく隠し部屋など見つかるはずもなく、休憩がてらぶらぶらしているという感じだ。

 まあ、ダンジョンに来た時のお約束というか、余興みたいなものなので、見つからなくても問題ない。


「何だか、某RPGで町の中で勝手によそ様のタンスや壺を漁る勇者御一行様のような気分ですね」


 ヴィクトリアがまた訳の分からないことを言っている。


 というか、RPGって何の話だ。

 そもそも、町で勝手に他人のタンスや壺を漁るって、それ、本当に勇者なのか?

 ドロボーの間違いじゃないのか?


 正直、意味が分からなかったが、いつものことなので放っておく。


 いくら探しても隠し部屋など見つかりそうになかったので、ここで本格的に休憩することにする。

 このダンジョンに入ってからこれで何度目の休憩になるのだろうか。

 すでにこれまでの階層でも小さな小部屋を見つけてはそこで休憩をとってきている。


 ダンジョンの中ではどれだけ時間が経過したかよくわからなくなるので、外ではもう2.3日経っていると思う。

 まあ、考えても仕方がない。今は休もう。


「ここで、いいかな」


 安全そうでかつ休息に適した建物を見繕い、そこを休憩ポイントに定める。

 周囲に警戒用の警鈴を設置し、結界石を使い安全対策を取った後、本格的な休憩に入る。

 寝る場所を用意し、食事を出す。


「それでは飯にするか」


 さて食事を始めようかとなった時、俺はあることに気が付いた。


「エリカ、顔が蒼いようだが、大丈夫か」


 俺の正面にいるエリカの顔が真っ青になっており、見るからに気分が悪そうだった。


「本当です。エリカさん、大丈夫ですか」

「エリカちゃん、気分が悪いのかい?」


 心配して、ヴィクトリアとリネットさんも声をかけるが。


「ええ……、大丈夫……ですよ」


 そうエリカから帰ってきたのは明らかに大丈夫そうにない返事だった。


「明らかに大丈夫そうではないじゃないですか!」


 俺たちは慌ててエリカを寝かせると、その日は交代でエリカを看病しながら休憩した。

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