第60話~希望の遺跡、1~5階層~

「『永続光』」


 ダンジョンに入るなりエリカが魔法を使って明かりをつける。

 ポッと、空中に明かりが灯り、周囲を照らす。


 『永続光』は洞窟内を照らすのに便利な魔法だ。

 同じく洞窟で明かりを得る魔法として『灯火』の魔法があるが、それと比較して消費魔力が少なく、慣れればほとんど魔力を消費することなくずっと使っていられる。

 ただ、使用には高度な魔法操作能力が必要なので初心者向きではなく、初心者はもっぱら簡単に使える『灯火』の魔法を使い、上級者は『永続光』を使うという図式が出来上がっている。


「それでは、行くか」

「「「はい」」」


 明かりを得たことで俺たちは先へ進む。

 とはいっても、まだ1階だ。


「あっ、ホルストさん、ゴブリンです」


 敵もこんなのしか出てこない。


「アタシが行こう」


 リネットさんが前へ出る。


「はあああ」


 斧を2,3回振り回す。


「うぎゃああ」


 それだけでゴブリンは全滅する。


「さあ、先を急ごう」


 ゴブリンを倒した俺たちは先へ進む。

 とはいっても、マップがあるのでマップ通りに行けば迷うことはない。

 その後、2,3回ゴブリンやゴーストと戦闘した後。


「やっと下への階段だな」


 小一時間程で下層への階段にたどり着いた。


「さて、降りようか」


 俺たちは2階層へと降りた。


★★★


 2階層は1階層とそう変わらなかった。

 マップが多少広くなり、出てくる敵の種類が少し増えた程度だった。


「キシャアアア」


 地図通りに2階層を進んでいるとコボルトが10匹くらい現れたので、今度は俺が前に出る。


「『神強化』を使うまでもない」


 俺は一気にコボルトとの距離を詰めると、剣を振るう。

 ズバッ、ズバッ。

 前衛にいたコボルトをまとめて5匹ほど叩き切る。


「ひいいいい」


 すると、残りのコボルトは恐れをなしたのか、すたこらサッサと逃げ出してしまった。


「他愛のない奴らだ」


 俺は剣を鞘に納める。


「あっ、ホルストさん、あいつら何か置いていきましたよ」


 すると、ヴィクトリアが何かを見つけた。


 俺がコボルトの死体を見ると、その中の一体が革製のポーチを身に着けているのが確認できた。

 多分、もともとどこかの冒険者の持ち物だったのだと思う。

 というのも、コボルトは殺した冒険者などの装備品を奪いどこかへ持って行くことで有名だからだ。


 俺は死体に近づいてポーチを死体から引きはがした。

 見ると、ポーチは皮が破れてボロボロの状態だった。


「でも中身は無事なようだ」


 俺は中身を取り出した。


「これはポーション、かな?」


 それは中の液体が赤色のポーションだった。


「旦那様、それはマジックポーションでは?以前、実家で見たことがあります」

「これが、マジックポーションか」


 マジックポーション。魔力を回復させるためのポーションだ。

 マジックポーションは普通のポーションよりもかなり高価で、おまけにほとんど流通していない。

 現に俺たちも1本も持っていない。


 それどころか、俺に至っては見るのさえ初めてだ。

 もっとも、俺たちは魔力を十分蓄えた聖石を持っているので、そこまで必要な品というわけでもない。

 だが、備えあれば憂いなしともいう。


「これは何かの時に使わせてもらうよ」


 俺たちはこれをコボルトたちに命を奪われたであろう冒険者の魂の安寧を祈りつつ、その場を離れるのだった。


★★★


 3階層に行くと、マップはさらに広くなった。その上。


「オークが30匹か」


 出てくる魔物の数が一気に増えた。


 オークは今の俺たちから見れば大した敵ではないが、30匹ともなると油断は禁物だ。

 ちゃんと作戦を立てて臨むことにする。


「ヴィクトリア、お前、最近、『聖光』の魔法を覚えたっていってたよな」

「はい、覚えましたけど、あれはアンデッド用の魔法なのでオークには効かないと思いますよ」


 『聖光』。アンデッドに浄化の光を浴びせ昇天させる魔法である。

 確かにまだ生きているオークにはあまり効果がない魔法ではあった。


「別にそれで構わないよ。あれって、使う時に強烈な光を放つだろ?それでオークの目を焼いてやれ」

「!……ああ、そういうことですか。わかりました。やってみます」


 ヴィクトリアが頷く。


「それで、リネットさんはヴィクトリアが魔法を放って敵の行動を縛ったら、俺と一気に突入しましょう」

「心得た」

「エリカは俺とリネットさんを援護だ。『風刃』か、『石槍』の魔法を使え。間違っても火の魔法を使うんじゃないぞ。酸欠になったら大変だからな」

「了解です。旦那様」

「では、行くぞ!」


 俺たちは行動を開始する。


 まず、俺がオークの集団に対して2,3個石を投げる。

 コン、コン。

 見事に石がオークたちに命中する。


「フゴッ!」


 オークたちが一斉にこちらを向く。オークたちほぼ全員の視線がこちらに向いたことを確認すると、俺はヴィクトリアに指示を出す。


「ヴィクトリア、やれ!」

「『聖光』」


 ヴィクトリアが魔法を唱える。たちまち周囲が光に包まれる。


「ブホ、ブホ」


 突然の強烈な光に視界を奪われたオークたちが苦悶の声を上げる。


「今だ!リネットさん」

「おう」


 目を潰されて身動きが取れなくなったオークたちに俺とリネットさんが突撃する。

 ズバ。ドス。

 次々にオークたちを片付けていく。


「『風刃』、『石槍』」


 『聖光』の光が落ち着くとエリカも俺たちを援護してくる。

 10分も経たないうちにオークの群れは壊滅した。


「よし、大体終わったな。後は獲物の回収だ」


 オークの肉はいい値段で売れる。

 すでに十分にお金は持っているが、この先何かあった時のためにお金はできるだけ持っておきたいし、何より狩った以上は最後まで有効活用してやるのが供養というものだろう。


 俺はヴィクトリアにオークの肉を回収させてから、周囲に危険のないことを確認し、先を急いだ。


 まだ、ダンジョンは長い。


★★★


 4階層も3階層とそう変わったものではなかった。

 マップの広さも大して変わらなかった。ちょっと敵の種類が増えた程度だ。


「キシャアア」


 目の前のシャインスパイダーを一刀両断にする。


「よし、ヴィクトリア、糸を回収だ」

「ラジャーです」


 始末したシャインスパイダーの背中を切り裂き、ヴィクトリアに回収させる。

 シャインスパイダーはオークと違って肉はまずくて食えないが、吐き出す糸は素材として高く売れるので回収しておく。


 このダンジョンに入ってからこれで何度目の戦闘だろうか?


 もう既に、いちいち数えていられないくらいの戦闘を行っている。

 途中小休止を挟みながら、もう半日以上はダンジョンの中を歩き回っている。


「まあ、いいや。とりあえずの目標である最奥の10階層まではまだだいぶある。先へ行くぞ」


 シャインスパイダーを片付けた俺たちは歩みを再開する。

 しばらく進むと、


「おや、あれは何だい?」


と、リネットさんが何かを発見する。

 近づいてみると、ヴィクトリアが喜びの声をあげる。


「わー、宝箱です」


 それは宝箱だった。


「ワタクシ、初めて見ます」


 早速小躍りしながらヴィクトリアが宝箱を開けようとするが、


「ヴィクトリアさん、少しお待ちなさい」


 エリカにたしなまれてしまう。


「開けるのは、罠の有無や、魔物が擬態していないか確認してからですよ」

「あっ、そうでした」

「そうでしたじゃないですよ。痛い目に遭ってからでは遅いんですよ」


 笑ってごまかそうとしたヴィクトリアをエリカがもう一度たしなめた。

 実際エリカの言う通りなのだ。

 ダンジョンには時折今回のように宝箱が置いてあることがあるが、中には罠が仕掛けられていたり、魔物が宝箱に擬態していて開けると同時に襲い掛かってくることもあるのだ。

 そのせいで命を落とした人も多い。


 だから、宝箱を開ける際には十分注意する必要があるのだ。


「『罠探査』」


 エリカが宝箱に魔法をかけて何か仕掛けがないか調べてみる。


「どうやら大丈夫なようですね」


 どうやら問題はなかったようだ。


「それでは、開けてみますね」


 エリカの許可が出たので、早速ヴィクトリアが宝箱を開ける。

 宝箱を開けようとするヴィクトリアの顔は期待に満ち溢れ、まるで今から友達にイタズラでも仕掛ける子供の様だった。

 てか、お前、そんなに宝箱を開けたかったのか。まあ、気持ちはわからんでもないが。


「わー、これは」


 ヴィクトリアが宝箱を開け中身を取り出す。


「これは、マジックダガーだね」


 お宝を見て、リネットさんがそれが何かを判定する。


 マジックダガーは魔力を少し流すことで攻撃力を増すことのできる武器で、それなりに高価なものだ。

 よく魔法使いや神官などが護身用に持っている装備だ。


 確かエリカも護身用に身に着けていたと思うが、ヴィクトリアは持っていなかったと思う。

 よし、ならこのお宝の活用方法は決まったな。


「ヴィクトリア、そのマジックダガーはお前が身に着けておけ」

「えっ、ワタクシがもらってもいいんですか」

「ああ、お前、近接戦闘用の武器を持っていないだろ?持っておいて、いざという時は使え」

「わかりました」


 俺に言われて早速ヴィクトリアがマジックダガーを装備する。

 腰に巻き付け、いざという時にいつでも使えるようにする。


 マジックダガーを装備したヴィクトリアは、見せつけるかのように俺にそれを見せてくる。


「どうですか」

「うん、中々に合っているぞ」

「ありがとうございます」


 褒めてやるとヴィクトリアがえへへと笑う。

 さて、お宝もいただいたしさっさと行くか。


 俺たちはまた先へ進み始める。


★★★


 5階層ではそれまでと様子が一変した。


「1本道だな」


 5階では道の分岐がなく、まっすぐな道が続いている。


「扉だ」


 その道を道なりにまっすぐ進むと、大きな扉があり、道を塞いでいた。


「この先にはボスがいるらしいね」

「ボスですか」


「ああ、毎回何が出るか違うらしいが、とにかく5階層にはボスがいて、倒さないと先に進めないと

いうことだね」


 リネットさんの説明を聞いた俺は、ポンと自分の頬をはたき、気合を入れ直す。


「よし、いよいよボス戦だ。皆、準備はいいか」

「「「はい」」」


 俺は扉に手をかける。

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