第51話~必殺剣~

 キングエイプとの戦いは佳境を迎えようとしていた。


「たああ」


 エリカやオロチの支援を受けてキングエイプに接近した俺は、二属性を付与した剣でキングエイプに斬りつける。


 グサ。


 キングエイプの肩が裂け、鮮血が噴き出て、周囲の岩や木を血で濡らしていく。


「ぎゃあああ」


 痛みに耐え兼ねキングエイプが絶叫する。


 さっきまでは何度攻撃しても大してダメージを与えられなかったのだが、エリカたちの支援のおかげで、防御よりも攻撃により力を配分できるようになり、一撃の威力を高めることができるようになっていた。

 キングエイプの肩を切り裂くことに成功した俺は、一気にキングエイプの耳の横まで移動すると、


「行け!」


キングエイプの耳の穴の中に剣をぶっ刺した。


 ジュワ。


 肉の焼ける音がし、おいしそうな匂いが辺りに漂う。

 俺の剣が纏っている魔力が耳の中でスパークし、キングエイプの肉を焼いたのだ。

 もちろん、痛みに弱いキングエイプがこんなことをされて平気でいられるわけがない。


「ぐぎゃあああ」


 さらなる絶叫を上げながら、小賢しい俺を叩き潰そうと平手打ちをくらわしてくる。


 キングエイプからすればうざい蚊でも叩き潰そうとしている感覚でやったのだろうか、現実問題、蚊って中々倒せないよね?

 ほら、よく自分の腕にとまっている蚊を見つけて、叩き落としてやろうと一撃かましたのはいいけど、上手いこと逃げられて、結局自分の腕が痛かっただけ。ってことがよくあるよね?


 今回もそれと同じことが起こった。

 キングエイプの攻撃を察知した俺は、さっと攻撃を避けた。


 バチイイン。


 次の瞬間物凄くでかい音が周囲にこだまする。

 キングエイプが俺を叩き潰そうとしてはなった全力の平手打ちが、キングエイプ自身の頭に直撃する。


「ぐへ?」


 頭にダメージを受けたキングエイプは、脳震盪でも起こしたのか、頭をくらくらさせ、立っていられるかも怪しいくらい足元がふらふらになる。


 その様を見て、俺は嘲笑してやる。


「さすがでかいだけの猿。人間様に知恵では敵わないようだな」


 まあ、知恵もくそもお前が自滅しただけだがな。

 こっちの方がこいつが悔しがりそうなのでそう言っておくことにする。


 キングエイプをバカにして留飲を下げた俺は、さらなる追撃の一手を打つ。


「これでもくらえ!」


 隙だらけのキングエイプの顔面を斬りつける。

 ピュッ。

 キングエイプの瞳の上を斬撃が通過する。


「ちっ。目は斬れなかったか」


 眼球のような柔らかいものを斬った感覚がない。

 キングエイプがとっさに瞼を閉じたためだ。


 だが、これでも十分だ。


 瞼を切ったことがある人はあまりいないと思うが、あれは痛い。

 目など開けていられない。


「ぐぎいい」


 キングエイプが斬られた瞼を抑えながらのたうち回る。


「勝負あったかな?」


 俺はキングエイプとの戦いに決着をつけようと、剣を構え直す。


 その時だった。


★★★


「バク転、だと?」


 キングエイプが突然バク転を始めた。


「きき、き」


 大きく宙返りして俺たちと距離を取る。


 そして、手を大きく広げ万歳のような姿勢を取ると、歯が丸見えになるくらい口を開く。

 途端にキングエイプの全身を黒い煙のようなものが覆い、さらにそれらがキングエイプの体の中心へと集まっていく。


「まずいですね」


 そんなキングエイプのただならぬ様子を見て、ヴィクトリアが呟く。


「あれはキングエイプの奥の手、『極大超振動波』ですね。別の世界での話ですが、あいつはあれを使って、大陸一つを吹き飛ばしたことがあるようですよ」

「大陸一つ、だと?」


 俺はそのあまりの威力に絶句せざるを得なかった。


「ご安心ください。今のあいつの力は全盛期には到底及びません。そんなことはできませんよ」

「そうなのか」


 それを聞いて俺はほっと胸をなでおろした。だが、次の瞬間。


「まあ、できるのはせいぜいこの国を吹き飛ばすぐらいですかね」


 全然安心できないじゃないか!


「なにか、手はないのか」

「今、考えてます」


 つまり打つ手なしということか。

 俺は頭を抱えた。


 しばらく考えたがいい手が浮かばず、こうなったらイチかバチかで攻撃を仕掛けてやろうかと考え始めた時、ヤマタノオロチが俺に声をかけてきた。


「ホルスト殿、こうなれば必殺剣を使いましょう」


★★★


「必殺剣?」


 ヤマタノオロチの言葉に俺は首をかしげる。


 必殺剣。


 なんだか心揺さぶられるようなキーワードだ。

 だが、そんなものが存在するとは初耳だ。


 俺はヤマタノオロチに詳しい話を聞いてみることにした。


「必殺剣?だっけ。それってなんだ?」

「我はかつて見たのです。『神属性魔法』の使い手が必殺剣を使い、キングエイプの『極大超振動波』を打ち破り、キングエイプを撃退するのを」


 オロチが過去に見たことを思い出しながら言う。


「当時、我は神獣になりたてであった。その時も何者かがキングエイプの封印を解いた。封印から解放されたキングエイプはこの国を滅ぼそうと行動を開始した。そこに現れたのが『神属性魔法』の使い手であった。キングエイプはその者に対して『極大超振動波』を使用した。だが、使い手は必殺剣を使って、『極大超振動波』ごと、キングエイプをぶった切り、キングエイプを再び封印したのだ」


 成程、過去にそういうことがあったのか。参考になる。


「大体話は分かった。で、その必殺剣ってどうやって使うんだ」

「我も詳しくは知らないが、なんでも『自分の頭の中を深くのぞき込んでみればわかる』と、その時の使い手は言っていましたが」


 自分の頭の中を深くのぞき込んでみるか。

 うん。まったく意味が分からないな。


 俺は心がくじけそうになったが、一応ヴィクトリアにも聞いてみることにする。


「お前、必殺剣とやらん付いて何か知らないか」

「ワタクシも必殺剣というものについてはよく知りません。ただ」

「ただ?」

「ただ『神属性魔法』にはいろいろと秘密があるようです。『神強化』一つとっても、『無属性体制付与』とか、『神眼』とかあったじゃないですか。他にもあるみたいですよ」

「ホルスト君、そろそろやばそうだぞ」


 その時リネットさんが声をかけてきた。


 見ると、キングエイプの中心に黒い光が集まりつつあり、今にも『極限超振動波』が発射されそうな感じになっていた。


 さて、どうしたものか。


 俺はない頭で必死に考える。

 まだ『無属性体制付与』みたいな隠された能力があるのか、それとも『神眼』みたいに力の使い方をちょっと変えてみるだけでどうにかなるのか、

 色々と考えてみる。


 そして、一つの答えにたどり着く。

 『神眼』?そうか、その手があったか。


★★★


「皆、聞いてくれ。今から、最後の手段に打って出ることにした」

「最後の手段?ですか、旦那様」

「そうだ、エリカ」


 心配そうな顔で俺をの顔を覗き込んで来るエリカに、俺はなるべく優しい声で答える。


「これでダメだったら、もう打つ手はない。ダメだった時は、悪いが覚悟を決めてくれ。俺に命を預けてくれ」

「何をおっしゃいますか、旦那様。私は死ぬときは旦那様と一緒と決めています。遠慮なさらずに思うようにやってください」

「ワタクシも最期までホルストさんについて行きます。だから、頑張ってください」

「アタシもホルスト君と一緒に死ねるのなら本望だと思っている。やってみてくれ」

「うむ。我もホルスト殿にすべて任せるぞ」

「僕もあなたにお任せします。どうせこのままでは国が滅んでしまいます。ならば、あなたにイチかバチかかけてみようと思います」


 女性陣をはじめ、ヤマタノオロチとアキラ皇子も俺の意見に賛同してくれた。

 これで俺の意思は決まった。

 後はやってみるだけだ。


「それで、具体的にどうするんですか」

「『神強化』を頭に使ってみる」

「頭?ですか?」

「そうだ。俺考えたんだ。オロチが言っていた『頭の中を深くのぞき込んでみる』ということの意味を。で、思いついたんだ。『神強化』を頭に使ってみればそれができるんじゃないかってね。実際、『神眼』の時は目に使うことで特殊な効果を引き出せたわけだし。同じことができるんじゃないかと思っている」

「そううまくいくのでしょうか」

「わからない。だが、試してみる価値は十分にあると思う。何より他に手がない。だから俺に任せてみてくれ」


 そこまで言うと、俺はみなの側を離れ、キングエイプに相対すべく、キングエイプの正面に立った。

 そして、魔法を行使する。


「『神強化』」

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