第40話~魔法実験その2~
海竜を倒した後、魔法リストを確認してみた。
現在の俺の魔法リストはこんな感じである。
『神属性魔法』
『神強化+1』
『天火+1』
『天凍』
『天雷』
『天爆』
『重力操作』
『重力操作』が増えたことは想像通りだったが、『神強化』と『天火』が+1になっている。
ヴィクトリアに聞いてみると、
「あっ、それは熟練度が上がったんですね」
と、言われた。
熟練度か。まあ、この辺りの魔法は結構使用頻度が高いからな。
ただ、そうなると試してみる必要がある。
何をかというと、魔法の威力と適正な力の配分をである。
『神強化+1』の力は知っているが、どの程度の力加減でやれば武器を消耗せずうまく使えるのかという点については、はなはだ心もとない。
『天火+1』に関しても同様だ。使い方を誤れば町の一つくらい焼き払うくらいのことがいとも簡単にできる可能性だってあるのだ。
『重力操作』も、もっといろいろ試してみたい。
そこで一つ手ごろな依頼を受けるついでに魔法の使い勝手を試してみることにした。
早速ナニワの街のギルドに行ってみることにする。
ギルドに行ってみると、中は冒険者でごった返していた。
朝一に新しい依頼を張り出す。どこのギルドでも同じルールでやっているので、みんなより良い依頼を求めて朝早くから集まるのは変わらないらしい。
「おい、あれを見ろ。あれが噂の『竜を越える者』だぜ」
「あれがか。ヴァレンシュタイン王国で10万の魔物の軍勢を滅ぼしたとかいうSランク冒険者か」
「ここに来る途中も、海の主様を助けてきたとか」
「まじかよ」
「まさに英雄だな」
「ああ、英雄だ」
どこで聞いたのか。俺たちのことを噂している連中もいる。
白い海竜と戦ってから数日しか経っていないのに、そのことを知っている者がいることには驚かざるを得ない。
まあ、冒険者の世界で耳聡いのは悪いことではない。
稼ぐのにも自分の身を守るのにもいろいろと情報を仕入れることは不可欠だからだ。
むしろ、俺たちのことを話している連中は冒険者としては優秀な部類なのだ。
ただ、言われるこちらとしては多少こそばゆい感じはする。
それに噂をした連中のせいで俺たちへ注目が集まってしまった。
「Sランク?」
「俺、Sランクなんて初めて見た」
こうなってしまうと、当初の予定通りに手ごろな依頼でお茶を濁すわけにはいかなくなってしまった。
これだけ注目の集まっている中で、手ごろな依頼など引き受けていたら信用問題になるからだ。
俺はエリカにそっと耳打ちする。
「なるべく難しそうな依頼を探してくれ」
「畏まりました。旦那様」
俺に言われたエリカが依頼ボードを物色する。
そこはエリカ。今がどういう状況か正確に理解しているようで、目の色を変え、普段よりも真剣な面持ちで選んでいる。
そして、エリカが選んだ依頼は……。
「『Aランク依頼 魔物集落討伐要請』か」
その日張り出されている依頼の中で一番難しい依頼だった。
★★★
3日後。
俺たちはカブト山という山の中の見晴らしのいい丘にいた。
カブト山はヤマト山脈とかいうフソウ皇国の中心に連なる山脈の中の山の一つだ。
ここが今回の依頼の目的地だ。
「あれがそうか」
俺はテレスコープ越しに目的の場所を覗き込んでみる。
そこにはいわゆる砦と呼ばれる建築物があった。
木と土の壁で囲われていて一見石造りのものに比べて簡素なものに見えるが、作りはしっかりとしている。
「石造りでないのはこの辺に石切り場がなく、石を入手しづらいからみたいですよ」
エリカがギルドで聞いてきた話をしてくれる。
エリカが聞いてきた話によると、この辺にはあまり上質の石がないらしい。
その代わりに、この国の温暖湿潤な気候を反映して大量の木が生えているのでそれを使って家や城塞を建てることが多いのだそうだ。
「さて、どうしたものか」
レンズ越しに砦を見ながら俺は考える。
ここの砦には数百体の魔物がいるという。
それらが周辺の町や村で略奪を繰り返しているとのことだ。
数百体もの魔物討伐となると、こちらも最低でも数十名でチームを組んでやるのが普通だ。
実際、ギルドでも何回かチームを組んで挑んだらしい。だが、それらはことごとく撃退されたとのことだった。
ちなみに、皇国軍は当てにならないとのことだ。
半年以上も前にお伺いを立てたそうだが、未だに音沙汰がないそうだ。
「お役所仕事なんてそんなものです」
そうギルドの職員さんは言っていた。
一応、準備中だとは言っているらしいがいつになるのか不明なのだそうだ。
失敗したとはいえ、まだ魔物退治のため軍を出す王国の方がましである。
まあ、皇国軍の件不甲斐なさはさておくとして、問題は砦の堅固さである。
「優秀な指揮官がいてきちんと統制が取れているね。まるで、北部砦の時みたいだ」
とは、リネットさんの意見である。
俺もこの意見に賛成だ。
となると、まず指揮系統をつぶさなければならない。
『天爆』の魔法で砦ごと吹き飛ばせばいいだろうって?
アホか!そんなことをして山火事になったらどうするんだ。手が付けられなくなるに決まっている。
そんなわけで、砦の様子をうかがうべくこうしてテレスコープで偵察しているわけだが。
「全くわからないな」
砦を覆っている壁のせいで中は全然見えなかった。
さて、どうすべきか。
そう言えば俺にはあれがあった。
「空から偵察する」
『重力操作』を使って空から砦の様子をうかがうことにした。
「エリカ、そんなわけで『姿隠し』の魔法をかけてくれ」
「それはいいのですが、旦那様。私からも一つ提案があります」
「提案?なんだ?」
「私も一緒に連れて行ってくれませんか」
「えっ」
エリカの意外なことを言い出したので俺は驚いた。
「私が探知魔法を使えるのはご存じですよね?だったら、私が一緒に偵察に行く方が効率が上がると思うのです」
「まあ、確かにそうだが」
「それに」
「それに?」
「私も空を飛んでみたいなと思うのです」
エリカが顔を赤らめながら恥ずかしそうに話す。
それを見て俺は思う。
こちらの理由の方が本命だなと。
とはいえ、エリカの探知魔法があると偵察がはかどるのも事実だ。
俺は了承することにする。
「ああ、頼むよ」
「はい。では早速」
そう言うとエリカは俺に魔法をかけようとした。
と、ここでヴィクトリアとリネットさんが割り込んできた。
「ワタクシたちも、一緒に連れて行ってください」
「一緒にって……あまり人数が増えると音とかで相手に気づかれるんじゃないか」
「それは問題ないと思いますよ。確かエリカさんは『陰話』と『消音』の魔法が使えますよね?それを使えば音なんか気にする必要ないですよね」
「それにだホルスト君。いくらエリカちゃんが探知魔法を使えるとはいえ、二人だけの偵察には限界があると思う。ここは少しでも人数を増やして、なるべく隙間なく偵察して、万全を期すべきじゃないかと思う」
二人はいつになく力強くそう主張してくる。
ヴィクトリアはともかく冒険者として先輩であるリネットさんにそちらの方がよいと言われた俺は妙に納得してしまった。
二人の意見に同意することにする。
「それでは、行くとするか」
エリカに魔法をかけてもらった後、皆で空へ飛び立つことになる。
★★★
空から見た魔物の砦は結構広かった。
「旦那様と私が通っていた上級学校くらいの広さはありそうです」
俺もそう思う。数百の魔物が生活しているのだからそのくらいの広さは必要であった。
「えーと、あそこが食糧庫で、こっちが武器庫でいいんですね」
「違うよ。逆だよ。ヴィクトリアちゃん」
俺のエリカの傍らではヴィクトリアとリネットさんが協力して地図を作成していた。
俺とエリカとリネットさんで頑張って配置を探って、リネットさんとヴィクトリアで地図を作る。
それが今回の役割分担だ。
リネットさんを作業の中心においているのは、彼女が一番この手のことに慣れていたからだ。
ちなみにこれらの作業は俺の体の上で行われている。
もうちょっと詳しく言うと、みんな必死に俺の体にしがみつきながらやっている。
俺の周囲数メートルならば浮かんでいられるように魔法を展開しているはずなのだが。
「そうは言っても、旦那様。怖いものは怖いです」
「ワタクシもです」
「同じく」
3人ともそう言って、決して俺にしがみつくのを止めなかった。
少々身動きが取りづらい気がするが、女の子に抱きつかれる感触は悪くないのでこのままでいくことにした。
3人を抱えて砦の上空を5周ほど回ると、ようやく一通りの地図が完成する。
「ふむ、思っていたのより出来が良い物に仕上がったな」
俺は出来上がった地図を見て感嘆する。
このくらいの地図ならば軍隊でも上官が褒めてくれるだろうというくらいの出来である。
一旦、丘へと帰り、地図を見ながら作戦を練ることにする。
「とりあえず、この司令部らしい建物を狙うのがよろしいのではないですか」
「それもいいけれど、先に武器庫を狙って反撃能力を奪うほうっが良いのでは」
「俺は最初の一撃で要所をすべて潰すべきだと思う」
「そんなことができるんですか」
「こういうこともあろうかと町でいい物を買ってきた」
侃々諤々の議論を交わして作戦を立てると、エリカにもう一度『姿隠し』の魔法をかけてもらい、
今度は俺一人で砦に侵入し、仕掛けを施してくる。
その間、女性陣には馬車の中で休んでもらい英気を養ってもらうことにする。
魔物の砦を襲撃するのは、予定では夜明け前、生物の眠りが一番深いとされている時間にすることにする。
俺も準備が終わったらその時刻まで休む予定だ。
★★★
それから約半日後、ついにその時間が来た。
俺たちは準備を整え、馬車の前に集合する。
「では、今から魔物砦襲撃作戦を決行する」
俺の言葉に全員が頷き、作戦が開始される。
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