閑話休題4~女神のつぶやき~

 モンスター討伐が終わってすぐの頃。


 ワタクシ、ヴィクトリアはリビングのソファーで本を読みながら寝そべっていました。

 王子様がお姫様を魔王から救い出し、結婚しちゃうという内容です。


 そのラスト、王子様がお姫様に指輪を渡してプロポーズするという場面を読んでいるとき、エリカさんがやってきました。


「ヴィクトリアさん、またゴロゴロして」

「ええ、だって」

「だってじゃないですよ。ほら、服にしわがついてるじゃないですか。もっとちゃんとしなさい」

「はい」


 ワタクシは起きてソファーに座りました。


「あら」


 その時、エリカさんが何かに気づいたようで、ワタクシのことをジロジロ見てきます。


「ヴィクトリアさん、髪の毛がずいぶん傷んでいるようですが」

「えっ」


 ワタクシは目を丸くしました。


「やだなあ、エリカさん。女神であるワタクシの髪が痛むなんてあるわけないじゃないですか」

「でも、今は力を失って人間と変わらないんでしょう。だから傷んだんじゃないですか。あなた、私が教えた髪の手入れとかさぼっているようですし」


 ワタクシは慌てて自分の髪を触った。確かにパサついている感じがする。ワタクシは泣きそうになった。


「ねえ、どうしたらいいですか」

「傷んだところを切るしかないですね」

「切るって、どのくらい」

「そうですね」


 エリカさんはワタクシの耳の上の位置で髪を掴み、手で切る真似をして見せた。


「ベリーショートくらい?」

「ベリーショートお!?」


 ワタクシは腰が抜けそうになった。そんなに切りたくはなかった。何とかならないか聞いてみる。


「そんな男の子みたいな髪型は嫌です。何とかしてください」


 ふふふ、とエリカさんは笑う。


「冗談です。痛みがひどいのは毛先だけですので、今回はそこを切れば大丈夫です」

「よかった」


 ワタクシはほっと胸をなでおろしました。


「ただし、他の所にも痛みの兆候は出ていますからね。これ以上放っておいたら、次はベリーショートコースですよ。それがいやだったら、ちゃんとお手入れなさい」

「はい」

「よろしい。それでは今から髪を切ってあげますからこっちへ来なさい」


 そう言うと、エリカさんはお風呂に椅子を置き、ワタクシをその上に座らせた。

 そして、ワタクシの体に布を巻くと、髪に霧吹きでシュッシュと水をかける。


「では切りますよ」


 エリカさんが髪にはさみを入れる。

 チョキ。チョキ。

 傷んだ髪の毛、毛先から5センチくらいが落ちていく。


「エリカさんって何だかおばあさんみたいですね」

「おばあさん?……ヴィクトリアさん、今、一思いにベリーショートにしてくれって言いましたか」


 バカにされたと勘違いしたのだろう。エリカさんはそう言うと、本当にワタクシの髪を掴んで根元から切ろうとしたので、ワタクシは慌てて弁解する。


「違います。おばあさんというのは、”ワタクシのおばあ様”のことです。おばあ様には昔よく髪をとかしてもらっていたので」

「ああ、そういうことですか」


 エリカさんは、髪を掴むのをやめた。危なかった。もうちょっと弁解が遅かったら本当にベリーショートにされるところでした。


「エリカさん、おばあ様みたいに優しいんですもの。きっと、おばあ様みたいにワタクシを大事に思って下さっているのでしょう」

「そうでもないかもしれませんよ。現にあなたが最初家に来た時、この旦那様を狙うクソ女め、と思っていましたけど」

「えっ、そうだったんですか」

「安心なさい。今はちゃんと家族だと思っていますよ」


 そう言うとエリカさんは髪を切るのを中断して、ワタクシの頭を撫でてくれました。とても暖かい手でした。


「そういえば、何の本を読んでいたのですか」


 言っていて照れくさくなったのでしょう。エリカさんが話題を変えました。


「えっと、、魔王から救い出されたお姫様が王子様と結婚する話です。お姫様が王子様から指輪をプレゼントされるところまで読んでました」

「指輪ですか」


 エリカさんが何かを思い出したような顔つきになる。


「そういえば、前に男の人から指輪をプレゼントされたいって言ってましたね。誰か相手の候補はいるのですか」

「いえ、そんな人はいませんけど」

「だったら、旦那様にもらったらどうですか。今度私の指輪を買いに行きますから、その時にでも」

「え、でもワタクシは、そのホルストさんとは」


 フッと、エリカさんは笑う。


「あなたも旦那様もお子ちゃまですね」


 なんか意味深なことを言う。


「まあ、いいです。とにかく買ってもらいなさい」

「でも、今回はエリカさんの」

「私がいいと言っているのですから、いいのですよ。ほら、ここでもらわないと後悔しますよ」

「そこまで言うのなら」

「では、作戦を練りましょうか」


 ワタクシたちのガールズトークは、散髪が終わった後、夕刻まで続いた。


ーーーーーーー


 これにて第2章終了です。

 ここまで読んでいただいて、気にっていただけた方、続きが気になる方は、フォロー、レビュー(★)、応援コメント(♥)など入れていただくと、作者のモチベーションが上がるので、よろしくお願いします。。


 それでは、これからも頑張って執筆してまいりますので、応援よろしくお願いします。

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