閑話休題3~その頃のヒッグス家その2~

「それでは、君たちはホルスト君が見捨てたから軍が壊滅したと主張するのだね」


 ある日、エリカの父親であるトーマス・ヒッグスは、モンスター討伐の件でデリックとルッツの二名を尋問していた。


「はい、その通りです」

「ふむ」


 トーマスは疑わし気なまなざしで二人を見つめた。


「ところで、君たちは僕の娘をさらってくれたそうだね」

「えっ、それは」

「隠しても無駄だよ。証言は得ている」


 二人は目を泳がせて、何やら言い訳をしようとするが、トーマスはそれを無視して続ける。


「人さらいは重罪だ。犯罪奴隷の刑に値する。知っているか?犯罪奴隷として鉱山で働くことになった者の末路を。一生鉱山で働くことになって、最後は惨めに死ぬ者が大半だ」


 その話を聞いて、デリックとルッツがブルブル震え出した。


「どうする?正直に話してくれれば、犯罪奴隷にする件は考えてやらんでもないぞ」

「は、話します」


 二人は正直に話し始めた。


★★★


「それは、まことか。オットー」

「はい。そのような噂が広がっているとか」


 オットーの情報を聞いたセオドアは驚愕した。


 本日、オットーからエリカの消息に関する情報が入った。

 なんでも北のノースフォートレスの町に、ドラゴンをいとも簡単に倒す凄腕の冒険者夫婦がいて、名をホルストとエリカというらしい。

 夫婦ともに強力な魔法を使い、特に夫の魔法はドラゴンを一瞬で消し炭にし、剣の腕も優れているということだ。


「何かの間違いではないのか。お前の息子は魔法を使えないんじゃなかったか。それに二人が逃げたのは南の方だろう?一体どうなっておるのだ」

「それが手前にもよくわかりません。調査を続行中です」

「この役立たずめ」


 セオドアは机の上に置いてあった本を投げつけた。オットーに当たった本はパラパラとめくれながら床に落ちた。


 その時、バタンとセオドアの執務室の扉が開いた。

 入ってきたのは妻のメアリーと、娘夫婦だった。


「義父上、エリカたちの居場所がわかりました」


 婿のトーマスは入ってくるなりそう報告してきた。


「それはオットーから聞いた。なんでもノースフォートレスの町にいるとか」

「その通りです。では、ホルスト君が魔法1発で10万の魔物の軍団を滅ぼし、さらにはそのボスであった凶悪なリッチをも一人で滅ぼしたという話も聞きましたか」


 10万の魔物?リッチ?なにそれ?聞いてない。


 セオドアは開いた口が塞がらなかった。

 それが本当ならばドラゴンどころの騒ぎではない。

 話を聞いたオットーも息子の人外の活躍に目を見張らせている。


「何かの間違いではないのか」

「いえ、間違いないです。従軍させていた者の中にホルスト君の同級生がいましてね。彼らが確かに見たと証言しております。まあ、エリカをさらうようなバカな連中ですが、証言は本当です」

「なに。エリカを」


 エリカと聞いてセオドアが激高しそうになるが、トーマスが手で押さえる。


「ご安心ください。きっちり鉱山送りにしておきました。まあ、犯罪奴隷にはしないという約束でしたので、エリカをさらったことへの賠償金の支払いのためという名目で、借金奴隷としてですが。それでも年季は30年あります。犯罪奴隷と結果は変わらないでしょう」

「そ、そうか」

「それで、話の続きですが、ホルスト君は今回の功績でSランク冒険者に任ぜられました。これはギルドの最短記録だそうです。さらに王宮の使者にお褒めの言葉もいただいたそうです。本当、すばらしいですな」

「う、うむ。そうだな」


 セオドアは渋々認めた。認めるしかなかった。


「そういうわけですので、ホルスト君たちへちょっかい出そうとするのは今後はおやめください」

「ど、どうしてだ」

「当たり前ではないですか!」


 娘のレベッカが口をはさんで来る。


「ホルスト君は王宮が認めた人間です。そんな方に手を出したらどうなるか。サルでもわかることです。これ以上恥の上塗りはおやめください。第一、今町で父上がどう言われているかご存じですか」

「い、いや、知らん」

「”偉大な始祖ヒッグス様にも匹敵する魔術師を追い出した大バカ者”ですよ」

「えっ、そんなことになってるの」


 セオドアは全身から汗が噴き出るのを止めることができなかった。


「なってます!それにこれ以上何かしたら、エリカ、本当に帰ってこなくなっちゃいます」


 レベッカはすさまじい眼光で父親をにらみつけた。娘が発する威圧感にビビったセオドアは押し黙るのみだった。


「あの子は優しい子ですからね。子供でもできれば、私たちに子供の顔を見せに来るくらいはするはずです。しかし、これ以上父上がいらぬことをすれば、あの子本当に怒ってしまってそれもなくなるでしょう。だから、もう二度と余計なことはしないでください。わかりましたか!」

「はい」


 すっかり娘の剣幕に押し負けたセオドアは、ただ黙って返事をするしかなかった。


「それでは、父上。私たちはこれで失礼します。くれぐれも余計なことはしないでください」


 話が終わるとレベッカたちは部屋を出た。

 部屋を出るときに、レベッカはこんなことを言い残した。


「それから、今回のことは親族会議にかけさせてもらいます。なので、覚悟しておいてくださいね、二人とも。」


 レベッカたちがいなくなった後には、抜け殻となったセオドアとオットーだけが残った。


 さて、二人の未来に希望はあるのか。

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