第12話~ドラゴンと戯れる~

 俺たちが丘の上に上がると、3匹の地竜に冒険者たちが追いかけられているのが確認できた。


「あわわわ。ホルストさん、あの人たちドラゴンに追いかけられちゃってます」

「ドラゴンか」


 さてどうするか。俺は迷った。


 ドラゴンはモンスターの中でも最上位の種族だ。

 あれはその中でも最弱の地竜だが、それでも並みの冒険者では返り討ちにされる。しかも3匹もいる。


 俺はエリカとヴィクトリアを見る。俺はこの二人の命に責任がある。二人を危険に晒すわけにはいかない。


 ただ、目の前で実際に命の危機にある冒険者たちを見捨てるのも胸糞が悪いのも事実だ。


 それに、神属性魔法を得た俺ならドラゴンを相手にするのも難しくないだろう。何せ、俺はかつて勇者ユキヒトとやらが、神属性魔法を使って強大な魔物たちを屠る光景を見たのだ。ドラゴンなどそれほどでないのは間違いない。


「なあ、お前らはどうしたらいいと思う?」

「ワタクシは絶対に助けるべきだと思います!困っている人を見捨てるのはダメです!」


 ヴィクトリアが力強く主張する。


「私も助けるべきだと思います。私たちにはその力があります」


 エリカも賛成のようだ。


「そっか」

「それに旦那様。ドラゴンの素材は高く売れると聞きます。冒険者ならチャンスを逃すべきではないと思います。それに」

「それに?」

「エリカは旦那様のカッコいい所が見たいです」


 なおも踏み切れないでいた俺にエリカが発破をかけてくる。


 二人とも賛成のようだし、ここまで言われて男として黙っているわけにはいかない。

 俺は決めた。

 二人の肩を抱き寄せる。


「お前ら覚悟はいいか!ドラゴン退治の時間だ。準備しろ」


★★★


 俺の名はフォックス。Bランク冒険者パーティー『漆黒の戦士』のリーダーをしている。


 今、俺たちはドラゴンに追いかけられている。


 昨日昼食の時にやつらは突然襲ってきた。

 それ以来一昼夜俺たちは逃げ続けている。本当にしつこい奴らだ。俺たちなんか食ってもおいしくないっていうのに。


 しかし、その逃避行もここまでのようだ。


 この辺は岩石地帯だ。うまくいけば岩を利用してドラゴンを巻くこともできたのだろうが、俺たちは運命の女神に見捨てられてしまった。

 俺たちは逆にドラゴンたちに追い込まれてしまったのだった。


「ゴオオオ」


 ドラゴンがブレスを吐こうとする。

 これで最期か。俺たちがそう思った時。


「そりゃ」


 ドゴオオオオ。


 突然ドラゴンの頭が炎に包まれる。


 誰かがブレスを吐こうとしたドラゴンの口を無理矢理閉じ、その結果ドラゴンの口の中で炎が渦巻き、大火災ということのようだ。


「助かった」


 俺たちは突然現れたヒーローに感謝した。


★★★


 ドラゴンがブレスを吐こうとしていたので蹴っ飛ばして口を無理矢理閉じさせてやった。


 おかげで奴は大火事だ。


「グオオオオ」


 自分の炎に焼かれたドラゴンは苦し気にのたうち回っている。


 俺はリュックから予備の武器として持っていた鉄の槍を取り出すと、『神強化』の魔法をかける。


「楽にしてやろう」


 優しい俺はその槍をドラゴンの脳天から突き刺した。

 鋼鉄以上の強度を誇るドラゴンの皮膚といえども『神強化』で強化された武器の前ではひとたまりもない。

 グサッ。

 ドラゴンの脳髄に槍がぶっ刺さり、ドゴオンという地響きを残してドラゴンは絶命する。


「残り2匹か」


 不敵な笑みを浮かべながらドラゴンとの距離を詰める。


「グオオオオオ」


 残りのドラゴンは仲間を殺された恨みなのだろうか、怒り狂って咆哮をあげながらまっすぐ俺の方へ向かってくる。


「ふむ。いい的だな。エリカ!」

「『火鞭』」


 すぐ近くの岩陰に隠れていたエリカが魔法を発動させる。火の鞭が出現し、ドラゴンの四肢、そして口を拘束する。


「なるべく魔力を込めてくれ」


 そうエリカに頼んでおいたので、火の鞭はものすごく太かった。拘束されたドラゴンが暴れまわっているが、これならしばらく持つだろう。

 俺はまだ無事な一体の相手をした。


「とりゃりゃりゃ」


 接近して連続攻撃を仕掛ける。

連続攻撃なので一見軽い攻撃に見えるが、そこは『神強化』の魔法がかかった攻撃だ。

 ドラゴンの固い皮膚を次々と切り裂き、鮮血が噴き出る。


「グオッ」


 堪らなくなったドラゴンがその凶悪に鋭い爪で俺を切り裂こうとする。


 ドゴーン。

 固い物同士がぶつかった鈍い音が辺りに響く。

 俺はドラゴンの爪を鉄の盾で受け止めた。


 鉄の盾は最近新調したものである。もちろんこれにも『神強化』の魔法をかけてあるので、今現在普通の鉄の盾の何倍もの強度を誇っている。


 俺に攻撃をいなされたドラゴンは体勢を崩してのけぞる。


「『天火』」


 俺は追撃の一手を放つ。


 たちまちドラゴンの前脚が炎に包まれる。

 ドラゴンは炎攻撃に耐性を有しているという話だが、神属性魔法の前ではそんなものは空手形に過ぎない。

 たちまちドラゴンの前脚は消し炭と化す。

 前脚を失ったドラゴンはうまく姿勢を保てなくなり、地面に倒れ伏す。


「とどめだ」


 俺はドラゴンの横に回り込むと、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。


 ズバッ。

 ドラゴンの頭が胴体から離れる。

  ドラゴンの頭は地面に落ち、2,3回転コロコロと転がった後、ピクリとも動かなくなる。

 一方胴体の方はけいれんを起こしてぴくぴく震えている。


「残りは1匹」


 俺はそれらをしり目に、エリカが拘束したドラゴンの方を向く。


 魔法自体はまだ大丈夫なようだが、ドラゴンが全力で暴れまわるのでドラゴンを縛り付けていた岩の方が持ちそうになかった。


 俺は剣を握り直す。


「そんなに自由になりたいのならしてやるよ」


 俺は再び全力で剣を振り下ろす。


 ドラゴンの足が飛ぶ。

 足は首よりも大分柔らかく、まるでゼリーを切っている感じだった。

 ドスッ。

 ザスッ。

 ドビュッ。

 残りの四肢も切り落とす。


「ホルストさん、危ないです」

「旦那様、一旦お逃げください」


 その時、二人が俺に警告を発してくる。

 どうやら四肢を切り飛ばした時の衝撃でドラゴンの口を拘束していた魔法が解けたらしい。

 ドラゴンが口を大きく開けて俺に向けて炎のブレスを吐こうとする。

 だが、俺は慌てない。


「『神強化』」


 鉄の盾に魔法をかけ直すと、正面に構える。


 ゴオオオ。

 ドラゴンがブレスを放つ。


「ふん」


 だがそれは俺に届かない。盾に炎ブレス耐性の効果を付与したからだ。


 俺は盾を構えたままゆっくりとドラゴンに近づいていく。

 ドラゴンの顔が恐怖でゆがむ。当然だろう。強大な力を持つはずのドラゴンがまるで子供のように扱われているのだ。怖くないはずがない。


 そのうち魔力が尽きたのだろう。ドラゴンのブレスが途切れる。

 ドラゴンのブレスは魔力を使って吐いているらしいのでこれは当然の結末である。


「今だ」


 俺は一気にドラゴンに近づくと、蹴り上げてドラゴンを仰向けにする。


「地獄に落ちろ」


 俺はドラゴンの心臓を一突きにし、とどめを刺した。


★★★


「じゃあ、ドラゴンは全部もらっていっていいんだな」

「ああ、ドラゴンを倒したのはあんたたちだしな。俺たちは命を助けてもらっただけで十分だ」


 手持ちのポーションを渡してやって治療してやりながら、『漆黒の戦士』のリーダーのフォックスとやらと交渉すると、俺たちがドラゴンを全部もらってもいいということになった。


「でもどうやって運ぼうか」


 俺は3匹のでかいドラゴンの成れの果てを見て途方に暮れる。

 明らかに手持ちのマジックバックの容量を超過していたからだ。


「ふふふ、今度こそワタクシの出番ですね」


 またヴィクトリアがしゃしゃり出てくる。前回のことがあるので、いまいち信用できなかったが、一応聞いてみる。


「お前、今度は大丈夫なんだろうな」

「当然です。じゃじゃーん」


 ヴィクトリアが左手の中指にはめている緑の宝玉が嵌められている指輪を見せてくる。


「『収納リング』です。これならこの程度のもの余裕で入ります。中では時間が経過しないので、腐る心配とかもないです」

「おおっ。マジか」

「ええ、マジです」


 こいつ意外と使える物を持っているな。さすが女神というところか。

 初めてこいつが役に立った気がする。

 うん、やっぱりこいつの天職は雑用係か。そういえば雑用係の女神だって自分で言っていたし。


「ホルストさん、何か失礼なことを考えてませんか」

「考えてない。気のせいだ。さあ、帰るぞ」


 俺たちは今度こそ帰路についた。

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