第13話~ドラゴン売れた~

「すみません。買取をお願いしたいのですが」


 ドラゴンを倒して街に帰った俺たちは、商業ギルドに駆け込んだ。


「買取ですか?では、こちらに商品を並べていただけますか」

「いや、あの、ちょっと商品が大きいんでここだとスペースが足りないんですが」

「スペースが足りない?一体何をお売りになるのですか」

「えーと。ドラゴン3匹です」

「なーんだ、そうだったんですね。それでは無理ですね。……えっ、ドラゴン?!しかも3匹?!」


 買取係のお姉さんが目をパチクリさせながら驚く。


「ちょっとお待ちいただけますか。支配人~」


 お姉さんは支配人を呼びに奥へ行ってしまった。

 なんか大事になってきた。


★★★


「初めまして、支配人のマットです」


 俺たちは商業ギルドの応接室に通された。

 なぜか横にはリネットさんもいる。


「今、ギルドマスターは王都出張中なんでアタシが来ているんだ」


 俺の視線に気づいたリネットさんがそう説明してくれる。

 ちなみに商品のドラゴンは先に倉庫へ運び込んで査定を始めてもらっている。


「ドラゴンを倒すとはすごいじゃないの」


 最初に会話の口火を切ってきたのはリネットさんだ。


「いや、なんというか、たまたまです。運が良かっただけです」

「いや、いや」


 リネットさんが首を横に振る。


「ドラゴンは運が良いぐらいで狩れるモンスターじゃないよ。Aランクの超一流パーティーが死力を尽くして狩るものだよ」

「Aランクですか」


 そう言われても俺はあまりピンとこなかった。ランクのことは当然知っていたが、ランクが上がれば金を稼ぎやすくなるという程度の認識しかなく、ランクの持つ意味というものについてはさっぱりだった。


「おや、ランクについてよくわかっていないみたいだね。ではお姉さんが説明してあげよう」


 首をかしげる俺を見て、リネットさんがランクについて説明してくれた。


 それによると、Eランクが初心者、Dランクが一般、Cランクが中堅、Bランクが一流、Aランクが超一流、Sランクが英雄という位置づけらしかった。

 そしてこの町で一番多いがDランクで、その半分ぐらいのCランクがいて、さらにBランクが50人くらい。Aランクになると一気に減って10人。Sランクは皆無ということだ。というか、Sランクなんて王都に数名いる程度だ。


「そんな貴重なAランクがパーティーを組んで苦労して仕留めるのがドラゴンだ。だからドラゴンなんかめったに入ってこないんだよ。だろう?支配人」

「そうですね。ここ最近では、幼生体を脱したばかりでまだ若いドラゴンが半年前に1体だけですね。今日入荷したドラゴンよりだいぶ小型でしたが、それでも客が殺到し、骨1本残らず売れてしまいましたね」


 マットさんが身振り手振りを交えて力説してくれる。久しぶりに訪れた大商いの機会なので興奮しているのだろう。

 いささか顔が赤くなり汗をかいている。


「それなのにアンタたちはそのドラゴンをいとも簡単に倒したそうじゃないか。ちょっと前まではそこまででもなかったようなのに不思議だね。君たちは一体何者なんだい?」


 リネットさんはこちらをじろっと見てきた。が、別に敵意は感じなかった。どちらかというと興味津々で仕方がないという感じだ。


「いや、別に簡単には」

「隠さなくていいよ。『漆黒の戦士』の奴らから事情は聞いている。大活躍だったそうじゃないか。こう一撃でドラゴンの首を切り落とすとか、一瞬でドラゴンの腕を灰にするとか。本当すごいね。話を聞いているだけでこっちまで興奮したよ」


 全部ばれている。そもそもあいつらに全然口止めさせてなかったのだから当然の結果だ。

 一応ギルド員には凶悪なモンスターの報告義務がある。あいつらはそれをこなしただけなのだろう。

非はない。

 完全に俺たちのミスである。


「もしかして、そちらの初めて見るお嬢さんの力なのかな」


 リネットさんが鎌をかけてくる。


 やばい。いきなり核心を突かれた。

 焦ってヴィクトリアを見た俺は愕然とした。


「えっ、なに、なに?」


 なんとこのアホは、あろうことか角砂糖を積み木にして遊んでいた。


「ちょっとヴィクトリアさん」


 エリカに注意されてもピンと来ていない様子でボケっとしている。

 どうやら自分がアホなことをしているという自覚もないようだ。


 大の大人が情けない。というか、食べ物を粗末にするんじゃない!


 うん。ちゃんとエリカに後で叱ってもらっておこう。


「……どうやら勘違いのようだね」


 ヴィクトリアの惨状を見て、リネットさんもさすがに違うと思ったらしく、自分の意見をひっこめた。

 結果オーライだった。ラッキー。


「なんかバカにされたような気がするんですけど」

「お前もいい大人なんだから、ちっとは考えて行動しろ」


 ヴィクトリアがブーたれたが、俺がしかると黙った。


「それはそうとして、本当のところはどうなのかな」


 ヴィクトリアに対する疑念は晴れたものの、リネットさんはなおも追及してくる。


「うーん」


 俺はどうしようか悩む。嘘をついてもごまかしてもいいが、彼女にはお世話になっている。あまりしこりの残りそうなことはしたくなかった。

 そこで、嘘ではないが真相でもない本当のことに多少のごまかしを混ぜてはぐらかすことにした。


「今から話すことは内密にしてもらえますか」

「当然だ。約束する」

「実は俺とエリカは魔術師のヒッグス一族の出身なんです」

「ほう。ヒッグス一族というとあの……」

「ええ、そのヒッグス一族です。俺たちは交際を反対されて駆け落ちして出てきました」

「ほうほう」

「それで目立つわけにもいかず、実力を隠してやっていたのですが、ドラゴン相手にはそうもいかず」

「なるほど、事情は大体わかったよ」


 リネットさんは立ち上がった。


 どうやら今の説明で納得してくれたようだ。まあ、大体本当のことだしな。


「アンタたちは超一流の冒険者だ。だから必ずギルドが力を貸そう。商業ギルドも協力してくれるな。支配人」

「ええ、力を貸しますとも。あなたたちとなら大きな商いができそうですし」


 どうやら、冒険者ギルドも商業ギルドも俺たちに協力してくれるようだ。

 多少の打算めいたものは感じるが、世の中の関係はウィン・ウィンの関係である方がうまくいく場合が多いので問題ない。


「よろしくお願いします」


 俺は頭を下げた。


★★★


「報酬が出たそうですね」


 会談の翌日、ドラゴン討伐の報酬が出た。

 全部で金貨20枚あった。金貨1枚は銀貨100枚分だから銀貨2000枚に匹敵する大金だ。

 その報酬をを持って家に帰ると、早速ヴィクトリアが絡んできた。


「報酬がほしいのか?」


 コクコクとヴィクトリアは頷く。


「ほらよ」


 俺は銀貨20枚をテーブルの上に置いた。


「わーい」


 ヴィクトリアは銀貨に飛びつくと、大事そうに握りしめ、1枚2枚とと数を数えていく。

 しばらくはおとなしく数を数えていたが、ふと何かに気づいたのか俺を見る。


「ドラゴンってお高いんですよね。報酬かなりあったんじゃないですか」

「ああ、金貨20枚あったよ」

「金貨20枚!そんなに……。それだけあるならもうちょっとワタクシにも分けてくれませんか」

「ダメだ」


 ヴィクトリアが猫なで声で追加の報酬を要求してきたが、俺はにべもなく拒否する。


「どうしてですか」

「だっておまえドラゴン退治の時働いてないよね」

「うっ」


 事実を指摘されてヴィクトリアが押し黙るが、すぐに立ち直り、食いついてくる。


「何もしてないことないです。ちゃんと応援してました」

「ふーん。それだけ?」

「えーと。あっ、そうだ。ワタクシドラゴンを運びましたよ。あれは大きな仕事だと思いませんか」

「確かに助かったけど、それだけで報酬山分けしてもらえると思う?」

「うわあああん」


 とうとうヴィクトリアが泣き出した。本当よく泣くやつだ。まあ、このまま泣かれても困るので真実を告げてやることにする。


「冗談だよ。お前の分の報酬は金貨5枚ほど用意している。荷物運びの報酬としては十分だろ?ちゃんと分けてやるから安心しろ」

「本当ですか」


 ヴィクトリアの顔がパッと明るくなる。本当にわかりやすい奴だ。


「ただし、その銀貨20枚以外は強制貯金だ。お前に金を持たせておくと絶対に無駄遣いするからな。今頃エリカがギルドに口座を作ってくれているはずだ」

「えっ、そんなあ。まるで子供みたいな扱いじゃないですか」

「やかましい。昨日も子供みたいに角砂糖で遊んでいたくせに偉そうに言うんじゃない」


 昨日の角砂糖の件ではエリカに大分絞られたようだ。それを思い出したヴィクトリアは肩を落とししょぼんとする。

そんなヴィクトリアを慰めるためというわけではないが、俺はある提案をする。


「それよりも、出かけるぞ」

「出かける?どこへですか」

「お前、着た切り雀だろ。だから、報酬とは別に装備とか、服とか、必要な物とか、エリカが買ってやれって言うから買ってやるよ」

「いいんですか」

「ああ、エリカと武器屋の前で待ち合わせしているから、行くぞ」

「はい」


★★★


 俺は今女性二人の買い物を服屋の片隅で待っている。


「退屈だ」


 本当、他人の買い物を待つというのは疲れる。


 あれから武器屋の前で合流した俺たちは、まずヴィクトリアの装備を買った。


「これがいいわ」


 エリカがヴィクトリアのために選んでやったのは、練習用ではあるが実戦での使用にも耐えるグレードの杖だった。

 ローブは買わなかった。というのも今ヴィクトリアが着ている服は神が作った神器なので、戦闘にも十分以上に耐えうる品物だからだ。


 それで、後は普段着やら小物類である。ギルド経営の武器屋の近くには服屋をはじめファッション関係の店が集まっている通りがあるのでそこで買うことにした。


「エリカさん、この色は少し派手じゃないですか」

「そうかしら?結構似合っていると思いますよ」


 そんなやり取りをすでに2時間以上続けている。


「いかん。腹が減ってきた」


 もう昼を大分過ぎている。もうそろそろ限界だ。

 だが女性二人は全然そうは見えない。

 女性という生き物は買い物中は腹が減らないのだろうか。

 そんな妄想を抱きながらも俺はひたすら待った。そうこうするうちに、エリカがヴィクトリアを連れてこちらに来た。


「ホルストさんどうですか」


 ヴィクトリアはフリルが多めについた黒い服を着ていた。服のせいで普段の彼女とは雰囲気がだいぶ違っていて、何だか小悪魔的な感じがしてかわいらしい。


「いいんじゃないか。かわいいよ」

「ありがとうございます」


 ヴィクトリアがにっこりとほほ笑んだ。


「買い物は大体終わりかい?」

「はい」


 よかった。本当によかった。


「じゃあ、飯でも食って帰るか」

「いいですよ。あっ、でも荷物をまとめるからちょっとだけ待ってください」」


 そう言う彼女たちの横を見ると大量の荷物が置かれていた。これは時間がかかるはずだ。


「これ全部買ったの?」

「当然です。旦那様は男性でいらっしゃいますのでわからないかもしれませんが、女の子にはいろいろ必要なのです」


 エリカに力説された俺は頷くしかなかった。


 なんにせよ、今は飯だ。


 エリカたちが荷物を収納するのを待って店を出た。店を出たとたん、意外な人に会った。


「やあ」


 リネットさんだった。


「ちょっと用事があるんだけどいいかな」

「俺たちこれからご飯行くところだったんですが」

「じゃあ、ご飯食べながら話そうか。もちろん奢らせてもらうよ。ギルドの食堂で構わないかな?」

「いいですよ」


 俺たちはギルドの食堂に移動した。席に着くなり、リネットさんが話を切り出す。


「君たちの昇進が決定した。ホルスト君はAランク、エリカさんはBランクに昇進だ」

「Aランク?いきなり3階級特進ですか」

「当然だ。あんたたちはそれにふさわしい実力を示したんだから。授与式もやる予定だから、そのつもりでいてほしい」


 やれやれ。いきなりAランクにされてしまった。出世するのはいいが急すぎる気もする。


「それと、もう一つ」

「なんですか」

「君らに指名依頼が入った。ぜひ受けてほしい」


 リネットさんは依頼について話し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る