今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
暇潰し請負人
プロローグ
プロローグ
「ホルスト、この町を出てどこか遠い所へ行って一緒に暮らしましょう」
俺ホルスト・エレクトロンは目の前の少女エリカ・ヒッグスに駆け落ちして一緒に暮らすことを提案された。俺は背が高いところを除けば平凡な容姿だが、エリカは違う。
彼女は俺の元許嫁で長くて艶やかな黒髪の似合う美少女である。このえらく普通の容姿をした俺のハトコだと誰も信じてくれないくらいだ。
「えっ、それって」
「このままだと二度とホルストに会えなくなってしまいます。私それだけは絶対に死んでもごめんです」
そう言うと、エリカはその小さい体からは想像もできない力で俺の胸にしがみついてきた。
「エリカ」
俺はそっとエリカを抱きしめた。
正直俺はめっちゃうれしかった。だってそうだろう?こんなかわいい子に抱きつかれてうれしくない男なんていないだろう。
まさに男冥利に尽きるというものだ。
それに幼い頃から俺はエリカのことが好きだった。許嫁であるとかないとか、そんなことは関係なしにだ。
エリカだって俺のことが好きに違いない。そうでなければ普段おとなしい彼女がこんな思い切ったことを言い出すはずがないからだ。
つまり俺たちは相思相愛というわけだ。それは俺、いや俺たちにとって幸せなことなのだろう。
だが、だからこそ。
俺は心を奮い立たせ決意する。そしてエリカから体を離し思いを告げる。
「俺について来ちゃダメだ。俺一人で行くよ」
心が痛かった。でもこれは言わなければならないことだ。
自分の好きな子を、こんないい子を、魔術師の一族なのに魔法が使えず、一族はおろか親にさえ疎まれ、あげく実家を追い出されて人生が詰んでしまった俺になんかにつき合わさせるわけにはいかなかった。
「ホルスト、どうしてですか」
「どうしてもだ」
「『どうしてもだ』なんてあやふやな理由では納得できません。はっきりとおっしゃってください」
正直なことを言えるはずがなかった。エリカは確かにおとなしい子だが、ここぞという時には引かない芯の強い部分もある。本当のことを話せば意固地になって、自分の提案を取り下げなくなるに違いなかった。
仕方なく俺は適当な言い訳をする羽目になった。
「それは……ほら、エリカが帰ってこなければエリカの家族だって心配するし、学校だってあるし、生活費だってどうするんだ」
自分で言っていても弱い理由な気がした。そんな俺の隙を突くかのように、エリカはキッパリと言う。
「私、家族とは距離を置くつもりです」
「距離を置くって」
「おじい様のホルストに対する仕打ちはあんまりです。両親やお兄様はホルストのことを悪く思っていないようですが、おじい様に意見できないようでは同罪です。だから少し距離を置いて冷静になってもらわないといけません」
「確かにそうかも」
心なしかエリカの目はキラキラと輝いて見えた。
「学校だって行かなくても死にはしません。それにこんなこともあろうかと、お金だって自分の貯金を全部持ってきましたし、お金になりそうな私物も持ってきました。これだけあれば半年は暮らせます。その間に仕事を探して、生計を立てられるようにすればよいのです。私たちは成人だから支障はないはずです」
「えっ……と。そんなにお金持ってるの?」
「ほら、見てください」
こんなこんなこともあろうかとってどういうことだよ。という俺の心のツッコミをよそに、そう言うとエリカはそれらの物を俺に見せてくる。エリカのカバンはマジックバッグになっており見た目よりもかなり多くの物が入るので、結構な量のお金や物が出てきた。これだけあればエリカの言う通り半年やそこらは暮らせるはずだった。
仕事だって問題なく見つかるはずだ。この国、いや世界中で人間がモンスターに殺されるケースが多発しており、どこも常に人手不足だからだ。
俺とエリカはともに18歳で上級学校の学生の身だが、この国の成人は義務教育終了と同時つまり15歳だ。国民の大半が上級学校へ行かず働いているので、確かに俺たちが働くのに何の問題もなかった。
「確かに、これならどうにかなるかも」
「何なら私の髪の毛も売ってしまいましょうか?追手の追及をかわすのに外見を変えるのは悪い手ではないですし、最近世間ではショートヘアなるものが流行っていると聞きます。それにしてみるのもいいかもしれません」
腰まである自慢の黒髪をいとおしく撫でながら、更にエリカがとんでもないことを言い出した。
「そんなきれいな髪なのにもったいないよ」
「いえ、髪の毛なんてほっとけば伸びます。ホルストのためなら髪の毛なんて惜しくないです」
俺は知っている。エリカがその黒髪を命よりも大切に思い、手入れを欠かさないことを。
それを売り払うなんて言われて俺が耐えられるはずもなく、俺はエリカに心から謝り、懇願した。
「謝るから勘弁してください。ごめんなさい」
だが、俺はまだ説得をあきらめたわけではない。
「それでは、今の話はなかったことにしますので、ついて行ってもいいですね」
「それだけはダメだ」
勝ち誇ったように言うエリカに俺はきっぱりと言う。このラインだけは死守しなければと思った。
だが、ここまで防戦一方でろくに言い返せないでいる俺に対して、エリカは追撃を加えてきた。
「そんな……ひどい。私にここまで言わせておいて……ホルストはそんなに私のことが嫌いですか?」
エリカは涙を流しながらも、目線だけは鋭く、訴えかけてきた。
そんなわけはなかったが、ここで押し切られるわけにはいかない。
俺は歯を食いしばり、心を鬼にする。
「そんな……ああ、嫌いだよ」
ボロが出そうになったが、俺は何とか嘘をついた。
「本当ですか?嘘だったら許しませんよ!責任を取ってもらいます!」
エリカは俺の頬をギュッと掴むと、俺の顔を覗き込んできた。そのまま俺の目を凝視し離さなかった。
「じー……やっぱり嘘ですね」
「なんでそんなことがわかるんだ」
「簡単ですよ。ホルストは嘘をつくと、眉間にしわができるんですから」
「えっ。……あ」
俺は思わず自分の眉間を触り、すぐにそれが罠であると気付く。
「こんな……古典的な」
「やはり、嘘でしたね」
「ごめんなさい」
「素直でよろしいです。では、言った通り責任を取ってもらいます」
「責任って?」
「私に言うべきことを言うだけです。内容はわかるでしょう?」
この子には勝てないな……。そういえば昔からエリカが俺の一番の弱点だった。……もう一生弱点のままでいいや。
俺は覚悟を決めた。
「あなたも男ならバシッとおっしゃってください」
「わかった」
俺は改めてエリカの正面に立ち、その顔を見る。エリカも見つめ返してくる。俺はエリカの手を取る。
「エリカ。俺はお前のことが好きだ」
「うれしい。私もホルストのことが好きです」
「俺もだ。だから俺についてこい、エリカ」
「はい」
「そして、俺と結婚してくれないか。必ず幸せにして見せるから」
「よろこんで」
儀式が終わると、「ホルスト」と言いつつ俺の胸に飛び込んできた。そんなエリカの頭をなでてやると、「えへへ」と、満面の笑みを浮かべた。
さらに俺はエリカの顔を引き寄せると目を閉じ、唇にキスをする。エリカも目を閉じ応える。
永遠に続くかと思われる二人だけの時間の中、俺は決意する。
この子を一生守っていくのだと。必ず二人で幸せになるのだと。
★★★
「では、追手が来る前に行きましょう」
当然、エリカにはおつき兼監視の人がいたが、彼女には俺がエリカに会いに来るという確信があったので。
「ちょっと眠くなるお薬を朝ごはんに混ぜさせていただきました」
彼女にしては思い切ったことをしたなと思ったが、別に命まで取ったわけではないし、おかげで時間は稼げそうだ。
そんなに余裕はないけど。
「ところでホルストにはどこか行くあてがありますか」
「そんなものはないけど……もしエリカに会えなかったら大きい町へ行って働こうかと思っていた」
「いいですね。で、どこへ行きます?」
俺はちょっとだけ考え、結論を出す。
「ノースフォートレスへ行こう。あそこなら人も多くて追手を巻くのにちょうどいい」
ノースフォートレスは王国北方の要衝で100万人くらいの人々が住む大都市で、ここヒッグスタウンとの間に幹線道路があった。
「いいですね」
「ではそうしようか」
俺たちは駆け出した。
駆けながらエリカが手を出して催促してきたので俺は彼女の手を握った。
エリカもギュッと握り返してくる。とても心地よかった。
エリカと一緒に居られてしあわせだけど、なんかとんでもないことになったな。
俺は一連の経緯を振り返ってみる。
それは昨日の昼食の時、エリカの発言から始まった。
「ホルスト、大変です。私たちのことが、おじい様にばれてしまいました」
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