ブルークラスターアマリリス IN トリガー Blue cluster amaryllis.IN Trigger.
さかき原枝都は(さかきはらえつは)
第一章 ファーストトリガー。その華は存在しない。
第1話 あなた。もしかして悪い人なの? FILE1
呼称『
「うむ。そのまま監査せよ」
「了解」
総司令室の巨大なセンターパネルに、二人の人物の位置情報が表示されている。
「ふん、相変わらずだねぇ。ワンフロア貸し切りかい」
パネルを凝視しながら彼女は呟く。
「それにしてもさすがだねぇ。たかが女遊びにこんなにも警護をつけるなんて用心深いにもほどがあるんじゃないのか?」
「あら、総司令。女遊びじゃなくて幼女遊びですわよ。16歳以上の子とは今まで接触はないんですもの」
「外道めが」
「でも今回はどうしたのかしら? 梨々香もう16歳になっているのに、初めてのケースじゃないんですか?」
「……そうだな」
「うーーーーーん。どうしてでしょうねぇ。あっ、なるほどそう言うことか」
「そう言うこととは?」
「いやいや初のオーバー16だから何かあるのかなって不思議に思っていたんですけど、そうかそう言うことなんですね。総司令も”それ”で梨々香を選んだんじゃないんですか?」
「ま、そう言うことかもな」
「ほんと男って……大きいのが好きですねぇ」
「そう言う生き物なんだろ……男と言うのは」
「さて、そろそろいいかな?」
その人は私の顔を見つめながら呟いた。
にやりと笑う顔がどことなくいやらしい。
「わかるよね」
「そりゃね。もう高校生ですから」
「そうか」
その一言を口から漏らし、その人は席を立った。
「お料理、ほとんど食べていないじゃないですか」
「ああ、最近あんまり食が進まないんだよ」
「それはよくありませんね。食事はすべての源ですよ。しっかりと取らないと体がもちませんわよ」
「お説教かい?」
「そんなんじゃないですよ。当たり前のことじゃないですか」
彼のテーブルの上に置かれた白い皿の上にある料理はほとんどいや、まったく手を付けていない。
その割にワインだけはよく飲んでいた。
「あははは。君は変わっているね」
「そうですか?」
「ああ、今までの子とは違うよ」
「ふぅーん、そうなんだ。おじさん今まで沢山の女の子とこういうことしてきているんだ」
「いけないかい? そう言う君だってこうして来ているじゃないか。それは合意ということなんだから、こっちを問う必要はないんじゃないかな」
「そうですか。そうですね。合意の上ですからね」
「ああ、16歳はもう成人なんだ。これは大人同士の合意ということだ。それに謝礼も普通よりも多く支払うという条件付きだったはずなんだけどな」
「……確かに」
「それじゃ……」
私の手を引き、そのまま、別室のドアを開けた。
そこには大きなベットが目に飛び込んでくる。まさしくこれから私はこのおじさんとエッチなことをしてしまう。はず? この人はもうその気満々なんだけど。
私16歳。確かに今の法律じゃ16歳は成人なんだけど。
あのね。こういうことまだ経験ないんだよね。
初めての人が自分の父親くらいの……いや少し、もっといっているかな。そんな人に捧げちゃう。
お金のためにするの?
いやいや、別にお金なんか欲しい訳じゃ――――まぁ、あって困りはしないけど、今の生活で別にお金に困っていることはないんだけどさ。
「どうしたんだい? おじけづいたじゃないんだろうね今更。初めてじゃないんだろこういうこと」
うううううううううっ!! 初めてじゃん。
その人は私の手をグイっとまた引っ張り、私の体をベットに押し付けた。
「あっ!」
ネクタイを緩め、そのまま覆いかぶさるようにその人の体が重なり合う。
お、重い。て、そう言うことじゃなくてさ。
思わず声が出た。
「嫌!」
「ん、なんだよ」
「ブ、ブラウスが
「大丈夫だ。ブラウスは今すぐに脱げばいい。それに女子高生の汗の臭いは媚薬だ。私には最高の香りだ」
ゲッ、変態。でも身動き取れないや。
ブラウスのボタンが、襟元から一つまた一つ外されていく。
ぐわぁぁぁ。おじさん臭い!
私にとってこの親父臭は毒ガスだ。
毒。
そうだ、こんなことしている場合じゃない。私は任務中だったんだ。
今回の任務は。
――――はい今回のターゲット。
送られてきたデータを開く。
住民登録はセントラル新東京。住民ランクA。
「うわぁ―、見るからにやな感じ」
人物の肖像。写真を見るからにいかにもスケベそうなオーラが漂っている。
「で、ササっとぽっくり逝ってもらってと、いう感じじゃない!」
「そうなんだけど」
「そうなんだけどって?」
「ちょっと厄介な奴なんだよね」
「厄介って? 住民ランクがAだから?」
「う――ん。そう言うことじゃないんだよねぇ」
「今までもいたじゃん、Aランクのって」
「だからそう言うことじゃないんだよ」
「何もったいぶってんの?」
「だって此奴、いっちょ前にセキュリティーモードS級なんだよ。Sなんてさ、要人とか総理とかさ、そんな人達しか与えられていないのに、なぜか此奴はSなんだよ。でさぁ―、趣味がさぁ―特殊と言うかなんと言うかそのぉ」
「趣味?」
「そっ、趣味と言うか性癖だね」
「性癖って、エッチ……スケベなこと?」
「うんうん、そうなんだよ。その時が唯一、此奴のセキュリティーモードが緩むんだ。とはいっても今までの経歴アーカイブを見ても、外張りはがっちりと固められているけどね」
「あのぉ……そのエッチなことって”あれ?” だったりする? もしかして今回の任務にそのことも含まれているなんて言わないよね」
「ああ、当然ありきだけど、それはさぁ君の采配にかかっていると思うけど。そこまで行く前に仕留めればいいだけの話じゃん」
「はぁ、て!! そんなの絶対いや」
「あれぇ―。任務放棄――――するの?」
「いや、……それは……その」
「別にいいんんだよ。君が放棄すればこの任務は別のエージェントに移行するだけだからね。……ただねぇ。今回のこの任務は総司令自らの依頼なんだけど。まぁ僕もそれ以上のことは知らされていないから分かんないんだけど」
「はぁ、それって総司令のご指名ていうことなの?」
「まぁね」
「それで報酬3倍増って言うことなんだ」
スマホの画面に映し出されている、継ぎはぎパンダのアバターがにやりと笑う。
「さぁどうする?」
という訳で、今私の貞操。処女はこの親父臭漂う男に奪われようとしている。
ブラウスのボタンが胸元まではだけて来ていた。
「おやおやもったいないねぇ。君ほどの大きさのおっぱいを持っているのにスポーツブラかい? もっと可愛いブラでもしているのかと思っていたんだけど。だけど、その大きさの割にこの引き締まった弾力のあるおっぱいは最高だね。うん、いいよ触り心地もいいし揉みごたえもある。今回は上物だ」
「そ、それはどうも。も、もしかしておじさんおっぱいフェチ?」
「ああ、おっぱいはやっぱり若い子に限る。個人的には未発達のおっぱいも魅力的だが、こんなに成長した女子高生のおっぱいもいい。それにまだ発育途上で敏感だ。ほら、もう体は。おっぱいは正直だね。もう突起しているところが固くなっているよ」
うううううううううっ!! キモイ。
「ほい上がったよ。『地雷焼き』特盛。ニンニクマシマシのプラス増し」
「おお、それじゃひとっ走り行ってくるか」
出来上がった『地雷焼き』を保温ボックスに入れ、今では見ることすらない……多分? ここでしか見れない昭和の遺産『出前機』を後部に取り付けたバイク。
当時(昭和の時代)はカブ。スーパーカブなどの商業バイクの後部に装着された出前機をよく見かけたのだが、今はその姿すら見ることもない。
「よしよしモーターもあったまってきている。バッテリーもフル充電」
今や自動車やトラックなど、昔は石化燃料をたいて走っていた乗り物は姿を消し。駆動部分はすべて電動モータ駆動に入れ替わっている。
すでにガソリンなどと言う存在は、もう見る影もなくなっていた。
ガソリンスタンドと言うものは今は、チャージスタンドと名を替えている。
「さぁて出前おかもち君(このバイクの愛称。勝手につけているメーカ車種の名称でもない)頑張っておくれよ。いざ出陣!」
ぐぉん! というエンジン音はしない。その代わりキュインと、モーター軸が高速で回転している音が耳に入る。
操作はノーマルバイク。オートマが主流である今、シフト式のバイクは珍しい。
クラッチレバーを握り、ギアを入れる。
Ninja ZX-10R。
出前おかもち君のベース車体。すでにこの車体自体2世代前のレガシーな車体だと今は言っても過言ではない。
当時はガソリンエンジンを載せ、総排気量998cm³いわば1000CCと言う大型のバイクであった。
そのバイク車体の駆動部をゼネレーターモーター(発電循環型モーター)に載せ替え、最大出力250PS(馬力)まで引き上げたバイク。
車両重量207kg。現行の重量とは変わらないが身長166cm、体重は秘密。16歳の女子高校生が乗るには少々重荷の車体であることは言うまでもない。しかも車高835mm、またがれば当然地面に着く足は、つま先がよやっと? という状態。まぁつかんだろ!
これだけでもその少女の体には合わない。この車体におかもちまでつけているから、操作性は一層難しいものとなる。
しかし、その少女は難なくこのバイクを発進させる。
まるで自分の体の一部のごとく。
後輪を路面にこすりつけ、高速恩に切り替わるモーター音を鳴らし、さっそうと湾岸ロードにたなびく海風を切り、走りゆく。
「ぅんん――――ん。きっもちいい!」
フルフェイスメットの中の顔がニヤリとする。
「あっ、そう言えば届け先聞いていなかったよ」
「ねぇねぇ、お母さん。届け先ってどこよ?」
メットに仕込まれた通信用のインカムが、自動的に音声を拾い送信する。
「まったくもう、かっ飛んでばっかりで、肝心なとこ抜けてんだから」
「ごめん」
「場所送ったよ」
メーターパネルが地図表示に変わり、行き先を表示している。
「ふぅーん、セントラル内か。ゲート通過かぁ。あっ! でも渋滞してんじゃん。出来立て速攻出前がもっとう民宿喫茶アマリリス。ここは裏ルートからと」
「呼称『
「あらまぁ、千古吏ちゃんまで特攻しているの?」
「まぁな、保険だよ」
「ふぅーん、保険ねぇ。もしかしてはじめっから梨々香ちゃんは捨て駒?」
「さぁて、それはなんとも。この私の口からそんなことは言えないだろう」
「でもさぁ、言わなくてもやっているんだから、そのまんまじゃないの?」
「そうかもな」
「警告! まもなくセントラル・コントロールから離脱します。この先の侵入は保護対象外となります」
「はいはいそんなの承知の介。コントロールがない方が、こちっちに取っちゃ好都合なんだよねぇ。
「旧市街の通信はスマホちゃん。電波はちゃんと生きているから大丈夫」
「警告、あなたは管理区域から離脱しました。これから先は保護対象外となります」
「警告、警告……」
「んっもう、うるさいなぁ」
メットのスピーカーから警告音がずっと鳴り響いて、耳の中がつんざくようだ。
「呼称、千古吏。ロスト」
「そのままでいい。どうせ行先はターゲットのいるところだ。あの子がどんなルートを取ろうがそんなのは関与しない」
「しかしまぁいつ来てもここはほんと寂しいところだねぇ。人の気配が何にも感じられないや。まっ、そうだよね、こんなところ人の住めるようなところじゃないんだし、いつ海に飲み込まれるか分かんないんだからねぇ」
一切光を発することのない、この闇の旧市街の中を走り抜く。
「あーあー、お母さん。聞こえる?」
「はいはい聞こえてるよ。こっちの回線で来るって言うことは、あんたまた旧市街入ってるんだ」
「だってぇ―、ゲート渋滞してんだもん。それよりいつものお願い」
「わかったよ、もう時期だね境界線超えると同時に信号送るよ」
「よろしく!!」
「呼称、千古吏リアクト(反応)。ゲート許可認証クリア」
「総司令これって?」一人のオペレーターが不思議そうに問う。
「いいんだよ。あの子は特別なんだ」
「でもこれは明らかに規約衣ステイタス違反になります。いくらエージェントであってもセントラルへの侵入にはゲートを通り、生体IDをauthentication/オーセンティケーション(認証)させる義務が生じるはずですが」
「あら、あなた新人さん? 私達のこの業務の事はもう熟知しているはずよね。特務であることは」
「はい、その通りです。私は今日からここに配属になった
「おかしいわねぇ、今日から配属になるオペレーターなんて連絡きていなかったんだけど。それに、もうあなたこのOS使いこなしているからてっきり……」
「てっきりどうしたんですか?」
彼女はその言葉を発すると同時に真壁をにらみつけ、銃口を総司令へと向け。
「死んでいただきます。真壁総司令」
銃弾が放たれた。
バキュン。「うっ!」
銃弾はとっさに真壁総司令を正面から抱きかかえて盾となった、
「ちっ。失敗したか」
小宮千春は、なんのためらいもなく銃口を自分の頭部に向け、トリガーを引こうとした。
「死なすんじゃない!」
真壁のその怒号が室内に響くと同時に小宮千春は、側近にいた男性局員の蹴りを腹部に受けその場に倒れた。彼女の手から離れた銃はすぐさま抑えられ、彼女の体も拘束された。
「雨宮! 雨宮」
真壁の体にもたれかかるように雨宮の体からは、どくどくと大量の血液があふれ出ている。
「雨宮……玲子! しっかりするんだ玲子」
かすかに瞼を開け。
「良かった。真壁、怪我はない?」
「ああ、お前のおかげで無傷だ」
「うん、守れたね」その一言を発し雨宮は気を失った。
「救護班! 急げ」
駆けつけた救護隊員に雨宮のその体はゆだねられた。
赤血で染まる白衣を着たまま。
真壁は指令室全員に通達する。
「Strategy End(ストラテジーエンド・作戦終了)」
「総司令、エージェント梨々香はまだターゲットと接触中ですが」
真壁はその問いに何も答えなかった。
それは彼女、梨々香を切り捨てるという、暗黙の指示でもある。
全てが出し抜かれた。
この作戦は失敗だ。何もかもが裏目に出ている。
裏目?
この私がうまく利用されたのか?
初めから仕組まれていたものだとすれば……奴らの本当の目的は。
「総司令、外部通信です」
「繋げ」
センターモニターに文面が表示される。
「我は『タルタロス』。我々は日本政府に対し宣戦布告を宣言する。以後お見知りおきを」
タルタロス。
……冥界の反逆者。
一瞬自分の脳裏によみがえる男の影。
「まさか……な」
「…………
メットのインカムからお母さんの声がそう告げた。
「そっかぁ――」
「戻っておいで」
夜空に
そのビルを見上げ千古吏はつぶやいた。
「綺麗だね」
「なんだって?」
「だからさ、綺麗だねって」
そのままバイクから降り、出前機の中に入っている保温ボックスを取り出してメインゲートをフルフェイスメットをつけたままライダースーツを着た姿で侵入する。
すかさず警備モペット(車輪自立稼働型AI検知警備小型ロボット)が彼女を取り囲んだ。
「警告です。フルフェイスヘルメットでのご入場は禁止されております。ヘルメットの装着を解除してください」
「はいはい、分かってるって。そんな固いこと言わないでよ」
警備モペットを押しのけ、千古吏はエレベーターホールへと進む。
「ええっと確か十二階だったかな」ポチっと。
エレベーターは筒状のグラスボード(硬質ガラスボード)の中を浮き上がるように上昇する。
千古吏の目にセントラル新東京の夜景が飛び込んでくる。
「まるで宝石箱のようだね」
区画された管理居住区だけが光り輝く。
太陽塔を中心に光の濃度は次第に薄くなっていく。
「さすがにうちのあたりはちょっと寂しいかな」
そして千古吏は遠くの暗闇に目を投げかける。
何も光を発しない暗闇。
かつてはこの暗闇の空間もまばゆい光が放たれていた。しかし、今はその光は一切放たれない。この新東京の光さえも飲み込んでしまいそうな暗闇が広がっている。
軽やかなチャイム音と共にエレベーターは停止した。
ス―ッと半月状のドアが開く。
ドアの外には三機の警備モペットが待機していた。
「このフロアーは貸し切りです。関係者以外立ち入り禁止となっています。速やかにご退去願います」
千古吏はくるりと向きを変え。
「関係者? どうだろうね。でもね、私この階に用事があるんだよ。行かせてもらうよ」
「侵入は出来ません。ご退去ください」
「はいはいわかったから。用事があるんだよ。だ・か・ら・通らせてね」
バリケードのように侵入を阻止しようとする警備モペットを押しのけ、千古吏はフロアーの中へと進む。
「侵入者! 侵入者」警備モペットは赤色ライトを点灯させ、けたたましい音量の警報を鳴らし始めた。
その音を聞きつけ、数名の黒服を来た男たちが駆け寄ってくる。
「止まれ! さもなければ発砲する」
黒服の男達はすかさず銃を構え、その銃口を千古吏へと向けた。
しかし千古吏の足は止まることはなかった。
「ばきゅん」一発の弾丸が彼女を目掛け放たれた。
その弾丸は千古吏の右肩を貫通して、壁の中にめり込んだ。
「物騒なもん持ってんじゃん。それにいたいけな女の子にいきなり撃ち込んじゃうの? もっとさぁ――――。前振りっていうもんがあってもいいんじゃないの!!」
「ば、馬鹿な。命中してるんだぞ」
確かに弾丸は命中した。しかし、千古吏にダメージを感じさせる気配はない。
そのまままっすぐ歩き続ける。
「ばきゅん」
二発目が放たれた。今度は彼女の左太ももを撃ち抜いた。
「無駄だよ」
そう言いながら左手に持つ保温ボックスから銃を取り出し、すかさず黒服の男達へ弾丸を放した。
ものの数秒で黒服の男たちは、グレーの絨毯が敷き詰められたフロアーへと倒れ込んだ。
「そっちが悪いんだからね。先に撃ってきたのはそっちの方だから。うんうん。私は悪くない」
一人納得?
「まっ、いいかぁ」
そう言いながら、正面の部屋の扉を開こうとするが、ロックがかかっていて開かない。
「あちゃぁ――。私としたことが一人くらい生かしておけばよかったかなぁ。このドアどうやったら開くんだよ!
その時ぼっそりと? 呟くような声で
「あいたよ」とスピーカーから聞こえてきた。
「おや、その声は……蜜柑ちゃん。何時も助かります」
「一応、このタワーのセキュリティーにもダミー走らせているから千古吏ちゃんの姿は映っていないはずだよ。でも、持ってもあと十分がいいところかなぁ」
「余裕だよ十分もあれば。後はご注文の品を届けて代金をいただくだけだからね」
「代金? もう決済されてんじゃないの? それに仕事の方は成功報酬なんじゃない?」
「……そうなんだけど」
「それにさぁ千古吏ぃ。キャンセルされてんでしょ。だったら今のこれって無報酬じゃない?」
「無報酬!! なの?」
「だよ!」
「お母さん本当?」
「ああ、キャンセルになってるからねぇ。WSO-J(world security organization-Japan 世界保安機構―日本)からは正式なキャンセル通知が来ている」
「マジかぁ。なんだただ働きって言うのこういうの」
「仕方ないじゃん。だから戻っておいでって言ったんだよ」
「でもさぁなんか後味わるいんだよね。それになんか今日はこのお胸が、ドクンドクン言っているんだよ。私をさ、なんか呼んでいるみたいに」
「なんだいそれって? 欲情してんの?」
「あ、蜜柑ちゃんのエッチ。すぐそっちに結びつけるんだから」
「何言ってんの日頃の行いが連想させてんだよ千古吏」
「全くもう!」
で、ドアをそっと開く。
いかにも高そうな。その高そうなと言う意味はこの私には正直理解は出来ないけど、家の民宿のお部屋とは格段に違うことは一目でわかる。……まっ、家は余っている部屋をそのまま寝泊まりさせているに過ぎないんだからね。それに築うん十年の年期のメチャ入ったお家だから、比べること自体違う気がして来た。
「あのぉ――。喫茶アマリリスですけどぉ。ご注文の地雷焼き、ニンニクマシマシのプラス増し。お届けにあがりましたぁ」
千古吏の声に反応する人の姿は、この部屋には見当たらなかった。
「いやぁ――――!!」
その時もう一つの扉の奥から叫び声が聞こえてきた。
千古吏はその扉を開け。
「ヘイ、おまちぃ。喫茶アマリリス特製地雷焼き、お届けにあがりましたぁ――。あっ!」
その目に飛び込んできたのは、中年の男性に見るからに豊満なおっぱいの……突起部分を舌でなめまわされている情景。
「おっと! お取込み中でしたか。これは失礼。えへへへへ」
「なんだ、お前?」
「ご注文の出前ですけど」
「出前? そんなの頼んだ覚えはないぞ。――――警護はどうしたんだ」
千古吏はきょとんとしながら。
「ああ、あの黒服の人たちね。みんなおねむかなぁ。永遠のね」
「おねむ? あはははは。お前ひとりでやったのか?」
「まぁね、だって出前の邪魔するんだもん」
「そうか」パンと軽く弾かれたような音の銃声がした。
弾丸はまっすぐ千古吏の胸を貫き貫通した。
「ふぅーん、そうか。やっぱり本当だったんだ」
「ん? 何が?」
「撃たれても痛みすら感じない」
「嘘!」
スポーツブラをたくし上げられ、その豊満なおっぱいをさらしながら梨々香は目を丸くした。
「ああ、無駄無駄。どこ撃ってもいいけどこのメットだけは勘弁してね。だっておニューなんだもん。傷つけたくなんかないんだよね。どうぉ? かっこいいでしょ。オーダーメイドなんだから」
ファイヤーバードの絵柄に『Chikori ♡』と描かれたメットを指さし言う。
外には見えないが、相当ニタ着いた顔していた。
「パン!」とまた乾いた軽そうな音を放ち、その男の持つ銃から弾丸が放たれた。
バシュッ! と弾丸は千古吏が指さすメットを真正面から貫く。
ぐらっと、よろめく千古吏。
「ああああああああ! 今、頭に撃ったでしょ!! メット貫通したよね。マジ!! ほんとマジ! 信じられない!!!!」
かぶっていたメットを脱ぎ、貫通した弾丸の後をまじまじと見つめ。
「ゆっるさな――――い!!」と叫んだ。
さらさらとした藍色に近い色彩の髪の毛。キリっと見開いた瞳。見た目少し日本人、アジアン系から外れた感じを受ける輪郭を持つ。その少女がその顔面をあらわにした。
「あ、可愛いい」梨々香が思わず口からその言葉を漏らした。今、自分がどんな状況にあるかということを一瞬忘れたかのように。
だが、その目にする少女は今、怒りの頂点に達していた。「うわ―――――――!!!!!」
叫び声とともに、千古吏は手に持っていたヘルメットを投げつけた。
その勢いのまま、両手を振り回し、手当たり次第にそこら中にあるものを投げ始めた。
投げられた椅子や机は部屋の中を飛び交い。壁に当たり粉々になりながら、床に落ちていく。
「死ね――! 糞野郎どもめぇ――!!」そして最後に、一番近くにあった花瓶を手に取り、それを思いっきり男の頭に向かって叩き付けた。
がシャン! 花瓶は男の後頭部に当たり男は、ぐったりとして動かなくなった。
その様子を見て梨々香は「ああ」と言いながら千古吏の方に視線を投げかけた。
千古吏も肩で息をしながら梨々香の方を見つめた。
「大丈夫?」
「ええ……。やちゃったね。死んだのかな?」
さっきまで自分に覆いかぶさり、その親父臭を自分の体にこすりつけるように密着していたその男の体を一発蹴り上げた。
「ほほぉ、いいねぇ。その蹴り。あなたもしかして……」
その時、メットからかすかに蜜柑ちゃんの声が聞こえてきた。
「千古吏、千古吏」
床に転がるそのメットを手に取り、しげしげと悲しそうな顔をしながら聞こえてくる蜜柑ちゃんの声に答えた。
「ねぇ蜜柑ちゃん。オニューのこのメット撃たれちゃったよ」
「はぁ? そんなことより、もうもう時間ないよ。ダミー映像も限界なんだけど」
「マジですかぁ――。そりゃやばいじゃないですか」
「んっもう、何のんきなこと言ってるんだよ。それにしてもノイズひどいね。もう破棄しなよそのメット。もともとウェアラブルリングで事足りるんだからさ。無理やりメットにデータ送ってるにしかすぎないんだから」
「えええええ! そう言う問題じゃないんだよ。オニューなんだよ! オーダーメイドなんだよ! まだ今日一回しかかぶっていないんだよ」
「ああ、もうウザイ! はい証拠隠滅」
このヘルメットはあと3秒で自爆します。
「あわわ!」
慌てながら千古吏はヘルメットを宙に投げた。
ボムッ!
「あううううううううう!! 私のヘルメットがぁぁぁ――!!」
炎を上げて燃え上がるヘルメット。
「しゃぁない――――。諦めるかぁ」と、千古吏は梨々香を見つめ。
「ねぇ一緒に来る?」
その問いに梨々香は……「うん」と答えた。
「でもどうやってここから出るの? もう次期セキュリティーポリスで埋め尽くされちゃうんじゃない?」
「そうだね。まっとりあえずエレベーターまで行こうか」
ピンポン。
十二階のエレベーターホール。そこに行くと静かにエレベーターの扉は開いた。
そこに乗っていたのは。
千古吏の愛車。Ninja ZX-10R。基、『おかもち君』。
「はい?」きょとんとしながら、梨々香は声を漏らした。
「最近のバイクってお行儀がいいのね」そのおかもち君の姿を見つめ彼女は言う。
「そうだよ何せ私の相棒なんだもん」
「あら、でもあなたにお行儀を求めるのは難しいような気がするんだけど……気のせいかしら」
しれっと、ジャブを交わせる梨々香に。
「まっ、そんなことを言ってられるのも今のうちだけだよ。さ、私の後ろに乗って」
「乗ってって。何これ、この箱みたいのは? もうこんなのつけてたら運転しずらいんじゃないの? それに私ハマるかしら?」
「ハマらなくても無理にはめちゃって……得意でしょ?」
「あのぉ―、私まだ処女なんですけど」梨々香は自分の体を後部のおかもちと、千古吏の体の隙間に強引に押し込んだ」
「入ったじゃん。じゃぁ私の体にしっかりと抱きついて。じゃないと振り落とされちゃうよ」
「そう……じゃぁ」梨々香は思いっきり千古吏の体に抱き着き、自分のその豊満なおっぱいを千古吏の背中に押し込み。千古吏のおっぱいを”ぐにゅ”とつかんだ。
「あうっ! そ、そこじゃないよ。腰、腰にしがみ付いて。私おっぱい触られると力抜けちゃう」
「あら、感じやすいのね。あなた相当エッチじゃないの?」
「そうかもね」にっこりと笑い「さぁ行くよ!」
「えっ! ちょっと。エレベーターで降りるんじゃないの?」
「まっさかぁ―」そう言いながら、モーターの回転数をマックスまで上げた。
ギュイーン。モーターがうなりを上げる。
千古吏は正面の大型ウインドーに焦点を定め。
「嘘! 嘘嘘嘘嘘――――マジ! ちょっとどこ見てんのよ! ここ十二階だよ、もしかして。もしかして」
「そう、そのもしかして『いけぇ!』」千古吏は声を上げ、おかもち君の蓄えたパワーを解放した。
ガシャン!
ガラスを打ち破り、おかもち君は宙に舞う。
「嫌ぁぁ――――!!!!!! 落ちちゃう。落ちてる。落ちてる――――落ちやう。私死んじゃう死んじゃうよぉぉ!!!!」
大声で叫ぶ梨々香に千古吏はそれ以上の大声で。
「あのねぇ! いくら叫んでもいいんだけど、気だけは失わないでよ。落ちちゃうからね。でもさぁ遊園地の絶叫マシンより安全だよぉ――――。きっと?」
「嘘嘘嘘嘘。絶対嘘! こっちの方が危険。危険すぎるぅぅぅ」
「大丈夫だって」
ああ、でもさぁ気持ちいい。こうして耳に直節風を切る音が入り込んでくる。
走っている時もいいんだけど、こうして落ちるのもまた違う気持ちよさがあるなぁ。あっ! 私もしかして新たな快感を見つけちゃった?
目に映るセントラル・新東京の夜景を眺めながら。
「そろそろだね」
「ねぇ気、失ってない? 衝撃来るから歯食いしばって。でないと舌かみ切っちゃうよ」
おかもちパージ。
メインフレームの特設スイッチをポチっと。
自由落下するおかもち君基バイク。後部のおかもちがパージされアームフレームに変形する。フレームは前頭部まで伸び、固定されバイク全体上部にパラシュートが展開された。
ガクン! ものすごい衝撃が体に伝わる。だがそのあとはゆっくりと重力と加速度に対し反比例しながら地上に着地した。
「はい、着地成功! どうだった? 気持ちよかったでしょ」
「うっ、うううううううううっ!!」声にならないうめき声が背中から聞こえてくる。
「何よぉほら、ちゃんと生きてるじゃん」
「うううううううううっ!!」
「ほんとは気持ちよかったんじゃない。私なんか新たな快感、感じちゃった。おかげで、蒸れ蒸れなんだけど。て、でもなんかすごい……こんなに
ポタリ、ポタリとシートからこぼれ落ちる水滴。
「あちゃぁ、そう言うことかぁ。昇天しちゃったんだ」
梨々香はまた「うううううううううっ!!」と声にならないうめき声をあげる。
「しょうがない。とりあえず
元のカタチに復元された出前機と、シートを濡らした梨々香を乗せ、千古吏はバイクを発進させた。
少しして落ち着いてきたんだろう梨々香が。
「あのぉ、私のうちの近くまで送っていただけるとありがたいんですけど」と、ぼっそりと言う。
梨々香のその願いに「だめだよ。あなたも私の家に来てもらわないと……放さないからね」
「へっ? 放さないって……どういうこと?」
「そう言うことだよ」
「そう言うことって。嫌嫌、こんな姿でこんな恥ずかしいことまでして。知らないうちなんかに行きたくなぁい!」
「でも行くんだよ」
一路二人は民宿喫茶アマリリスへと向かう。
スリムツインタワービル十二階の一室。
荒れ果てたこの部屋の中で、一人取り残された男。
仮称、
今更だが本名ではない。
「いつつっ。あぁ、本当に痛てぇ」
べりべりと仮面のマスクをはがし、本来のその素顔に戻り。千古吏に投げつけられた花瓶が当たったところを手でさすり。「なんだでけぇこぶ出来るんじゃんかよ」と声をあげる。
「まっいいか。時期に治るだろ」そう言い、手をかざし、指にはめた ウェアラブルリングから投影された文面を目にして。
「ああ、なんだよ。
そしてにやりとして。
まっ、でもよぉ。本当に実在していたんだ。『不死の少女』
しかしまぁ最悪の出会いだったな。ブルー・クラスターアマリリス。
青い彼岸花に魅入られた『不死の少女』
でもよぉ。青い彼岸花に魅入られたのはお前だけじゃねぇんだよ。
左腕にある痣に手を添えて彼はつぶやいた。
その痣は。
クラスターアマリリス(彼岸花)のように見える。
「あっ! 俺も早くずらかろ。しかしマジこの香水、親父くさ。加齢臭くさくさだな。シャワー浴びねぇと」
「呼称、梨々香。呼称、千古吏。帰路へ。二名の生存確認。ターゲット呼称、岡本。ロスト」
「ああ、分かった」
真壁は、雨宮玲子の血を浴びた白衣を着たまま、その白衣のポケットから煙草を取り出し、カートリッジにフィルターを付け吸う。
「総司令、一応ここは禁煙ですけど」
「フン、知ってるさ。ここは閉鎖する。だからいいんじゃないか?」
「閉鎖ですか?」
「ああ、そうだ」
数回カートリッジから煙を吸い、その場にフィルターを投げ捨て。指令室からその姿を消した。
そして一言。
「出直しだ」と、呟く。
同時刻。
「まもなく当機はセントラル・新東京国際空港へ到着いたします。セントラル・新東京の天候は晴れ。気温は25度。お客様へお願いです。セントラル・新東京ではテロ抑制のため入国管理局とWSO-J(world security organization-Japan 世界保安機構―日本)局との双方での入国審査を行っております。お客様には……」
グランドスーパークラス機内。
「そうか分かった。それでは次の報告を待つとしよう」
「了解しました」
「
「おお、これは済まない。もうじき到着か」
「はいまもなく最終のランディングチェックに入ります」
アテンダントはにこやかに「いつもグランドスーパークラスをご利用いただきましてありがとうございます」とその男に告げる。
「仕事だからな。此方こそ、いつもお世話になっていますね」
「そうですね」
さて、日本に戻ってきたか。
それじゃぁ、まずは珈琲を飲みに行かないとな。
アマリリスに。
ブルークラスターアマリリス IN トリガー Blue cluster amaryllis.IN Trigger. さかき原枝都は(さかきはらえつは) @etukonyan
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