怪盗レディの華麗なる日常

結城芙由奈

怪盗レディの華麗なる日常

 私は怪盗レディ。


 この世に私が盗めないものなど、何一つ存在しないわ。


 

私が朝目覚めて一番最初にすることは目覚めのミルクを飲むこと。

やっぱり怪盗ともなれば健康維持には気をつけなくちゃね。


そして口にするのはミルクだけと決めているの。余計なものは一切いらない。


この間この屋敷で働くメイドが私に奇妙な食べ物を出してきたけれども、どうにも受け付けなくて、皿を叩き落としてやったわ。

けれど、メイドは私の言いなりだから何にも文句なんか言いやしないけど。


さて。

本日もミルクを飲んだから、仕事を始めなくちゃ。


大体、ここの者達は私が主だというのに屋敷の中を自由に歩かせないのが気に入らないわ。でも理由はちゃんと私には分かっているの。

彼等はこの屋敷に代々眠る家宝をこっそり盗んで隠しているのよ。


なので私はこの屋敷の主として彼らの目をかいくぐり、何としても家宝を取り戻さなければならないの。

それが当主としての役割だから。



ではそろそろ出かけようかしら?


自分の定位置を離れると、メイドの動きを観察する。


彼女はこの時間は相当忙しく、今は洗濯をしに行ってるのよ。

よし、今の内ね。


自分の部屋をこっそり抜け出すとばれないように通路を進む。


すると…何ということかしら!


昨日までは無かったのに、目の前に大きな扉がそびえ立っているじゃない。

そんな…!ひょっとして彼らに私の動きが読まれているのかしら?

3日前まではこんな壁など無かったのに…。


試しに押してみても引いてみても全く開く気配が無いわ。


何てことなの?

まさか、こんなしょっぱなから出鼻をくじかれるなんて……。


その時、私に素晴らしいアイデアが浮かんだ。


そうだわっ!わざと防犯ベルを鳴らしておびき寄せればいいのよ。

幸い、私がいるすぐ傍には防犯ベルがある。

おまけにおあつらえ向きに隠れる場所も多数ある。

あのメイドの気を引き、この扉が開かれた時に素早くここを通り抜ければいいのよ。


我ながら何て頭が良いのかしら。

よし、早速鳴らすわよ…。

防犯ベルに近付くと、私はすかさずボタンを押した。


すると…。


ジリジリジリジリ…ッ!!


部屋中に激しい防犯ベルの音が鳴り響く。


すると…。


「一体何事っ?!」


洗濯をしていたメイドが音を聞きつけ、駆け付けて来るじゃないの。

フフフ…私の読みが当たったみたいね。

それじゃ見つからないように隠れていなくちゃ。


ガチャッ!


メイドが大きな大きな木の扉を開けて中へ侵入してきたわ!

幸い、メイドは防犯ベルに気を取られて私に気付いていないみたい。


よしっ!今の内よ!


急いで木の扉をすり抜けると、目的の場所へ急ぐ私。


その時―。


ヒッ!


目の前に大きな虎が寝そべっているじゃないの!


ど、どうしてこんなところに…?いつもならオリの中で眠っているのに…。


んん?よく見たら…あの虎…眠っているみたいね。


それなら抜き足差し足で通り抜けられそうね…。


全身に汗をかきながら、私はばれないように一歩ずつ、ゆっくり足を踏み出していく。


大丈夫…もし目が覚めたとしても、あの虎はこの屋敷で飼いならされているから大丈夫よ…。


自分に言い聞かせながら、何とか危険ゾーンを切り抜けることが出来たわ。


それよりも…急がなくちゃ!

早いとこ、昨夜見かけた例の物をあのメイドに見つかる前に手に入れなければ…!


私は急いで宝物室へ向かった―。




「あ、あったわ!」


この屋敷の宝物室には大きな4つ足の見上げる程に高い台が設置されているの。その台の上には様々なお宝が置かれているわ。

彼等はまず最初に手に入れたお宝はこの台の上に置いているの。でも早めに手に入れないと、宝はそれぞれの所定の場所に収められてしまう。

そうなるともう、私には手も足も出せないわ。


だから、この台の上に置かれている段階でお宝をゲットしなくてはならないの。


「さて…行くわよ」


大丈夫、この為に今朝も新鮮なミルクを飲んだのだから、きっと行けるはずよ。


ごくりと息を呑むと、まず足場になる台を探さないと。


あ、あったわ。

試しに押してみると意外と軽く、私の力でも動かせるじゃないの。


足場の台を次の足掛かりとなる台にくっつけた。


どれどれ…早速よじ登ってみなくちゃ。

あ、あら…意外と難しいわね…。


でも私は怪盗レディ。やってやれないことは無いわ。

うん…。よ、よし!登れたわ。やれば出来るじゃないの。


あともう少しで、目的のお宝をゲット出来るわ。


でもここから先は楽勝よ。何故な段差が低いから台が無くても登れるのよ。


そして私は慎重に台に上り…。


「やったわ!ついに手に入れたわっ!!」


台の上に乗った黒水晶を手に入れた途端…。



「キャアアアアッ!!」


メイドの叫びが背後で聞こえてくるじゃないの。

そ、そんな…ここまで来て見つかるなんて…。




****



「リコちゃん!あなた、またリビングのお菓子を取ろうとしていたの?折角通り抜け出来ないようにベビーゲートをつけたのに…それに…ミィちゃん?リコちゃんが動き回らないように見張ってとお願いしたでしょう?まぁいいわ。後でキャットフードをあげなくちゃね」


「ミャァ~…」


「バブーッ!(いやっ!離してよっ!)」


何て力の強いメイドかしら!ふりほどけないじゃないのっ!


「ほらほら、暴れないの?いい?リコちゃんははまだ赤ちゃんなのよ?チョコレートはもっと大きくなったら食べられるからまだミルクで我慢するのよ?でも離乳食も食べるようにしてね?この間みたいにお皿落としたりしないで。ね?」


言いながら、メイドは私を胸に抱きかかえて背中を軽くトントンしてくるじゃない。


いや…やめてよ…。


それをされると…私…どうにも眠く…なってしまうのだから…。



そして今日も私はママの手によって、気持ちよく眠らされてしまう――。







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