11-3、世界を救う……

「あ、ぁ……」

「……、無理だ……」

 フィデスは呻き、カルリディが絶望からの言葉を零した。



「あ、諦めるのかよ……!」

 ルスフはボロボロになりながらも立ち上がり、まだまだ闘志を漲らせてフィデスに問う。


「では、どうするというのだ、こちらの攻撃は効かず、敵の攻撃は防げず、問答無用で約定体アバタルは破壊される……」

 両手と膝を地面に付け、立ち上がる気力も残っていないフィデスが呟くように零す。

「……」

 自身も満身創痍であるルスフは、それ以上フィデスに詰め寄ることはできず、自分の拳を握り、悔しさをにじませる。



「いや、壊れていない……」

 いつもとは違い、はっきりとした口調でラクティスが言う。

「なにをバカな──」

 フィデスはラクティスを叱責しようと振り返り、そして、その横にある鎧が健在であることに気が付いた。



「そ、それは、まさか……」

 フィデスはふらふらと立ち上がり、その鎧へと近づき、

「しょ……」


「しょ?」


「しょ、小生は無理だから!! 壊れないだけだから!!」

 鎧の中から、いつも通りの泣き言が発せられた。

「まだ、方法はあります……」

 マテリも無敵鎧アルムスの横に近づき、フィデスへ告げる。


「き、期待!? これは期待!? こういうときどんな顔すればいいかわからないのぉぉぉ!!」

 無敵鎧アルムスの中からは、相変わらず酷い泣き言が漏れ続けている。


「確かに、無双というべき防御力だが、それは敵も同じ……」

属性無効レシステとて、護りは完全ではありません。ですよね? ヴァレト」

 マテリが水を向けると、ヴァレトは小さく頷く。

「可能性はあります。が、そもそも攻撃の"威力"が圧倒的に足りません……」

 その時、マテリの体から白と黒の入り混じったオーラがあふれ出すと、その内の白いオーラのみが集まり天使アマレを形作った。


「え?」

 その出現には、マテリ自身も驚いていた。彼女が呼び出したわけではないのだ。

 さらに、天使アマレに黒いオーラが吸い込まれ、右片翼と頭髪の右半分が黒く染まる。右目も眼球の白黒が反転している。


「こ、これは……」

 マテリの脳裏に、魔王と共に息絶えたオヴィエンティアの姿が浮かぶ。彼女は今わの際にマテリの手を取り、何かを託したのだ。

「これは、巫女の力……、わかる……、わかります……」

 マテリの感覚が、大きく広がっていく。オヴィエンティアの記憶と共に……。




 巫女は"刻印"を刻んだの大地から瑪那マナを得ることができる。そのため、彼女、オヴィエンティアはこの大陸のあちこちに出向き、刻印を施した。


 地道な作業である。来る日も来る日も、瑪那マナの溜まる地形をしらべ、刻印を刻む。なぜ? それは魔王のため。


 魔族と人族の対立を無くすために、全ての種族を"眷属化"する計画。そのためには、膨大な瑪那マナが必要だった。


 彼女は刻印を刻み続けた。魔王がそれを求めたから。しかし、刻印は、彼女が約定体アバタルを消してしまえば消滅してしまう。だから、彼女はほとんど不眠状態で、それを続けた。何度も倒れそうになった。


 そんな時、預言者デルスィが現れた。預言者デルスィは"疑似巫女"を作り、彼女が休んでいても、刻印が消えないようにしてくれた。"疑似巫女"は、十字架に据えられ、神殿に安置された。


 これで、もっと刻印を増やせる。魔王の願いを叶えられる……。叶えられるはずだった。

 でも、魔王は変わってしまった。彼の願いは、世界を滅ぼすことではなかったはずなのに……。





「世界を、救う……」

 オヴィエンティアの想いが伝わり、マテリの瞳から一筋の涙がこぼれる。

「ヴァレト、手を……」

 差し出されたマテリの手を、ヴァレトがとる。柔らかな光と共に、恐ろしく大量の瑪那マナがヴァレトの体に流れ込んでくる。

「うっ……」

 あまりの瑪那マナの量に、ヴァレトは小さく呻く。マテリが彼に不安気な表情を向けるが、ヴァレトは小さく頷き、大丈夫であることを示す。


「リア……」

 そして、マテリは反対の手をリアに差し出した。

「えぇぇぇ……」

 渋るリア、が、マテリは無言で彼女に視線を向ける。


「……、あーもう、わかりましたよ! 小生もやるときゃやるんだからね!!」

 リアがマテリの手を勢いよくとり、

「おぼぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 突然大量の瑪那マナが突然流れ込んだために、盛大にえずいた。嘔吐しなかったのは、せめてものプライドか……。



 ヴァレトと、リアの体から無色のオーラが立ち上る。そして、2人は詠唱する。



「……、顕現せよレベラータ・アバタル無能の化生ロレム・V・イプスム

「レ、顕現せよレベラータ・アバタル破壊不能アルムス=で絶対無敵イメクシティウム


 ヴァレトから間欠泉のように吹き上がった大量の無色オーラが収束し、"無能の化生ロレム・V・イプスム"が形作られる。

 その周囲にリアから噴き出したオーラが旋回し、拳闘士ロレムが装着する形で"破壊不能アルムス=で絶対無敵イメクシティウム"が出現した。


 約定体アバタルの顕現は成った。が、2人から吹き出るオーラは止まらない。


 無敵鎧アルムス拳闘士ロレムに、どんどんとオーラ化した瑪那マナが注ぎ込まれていく。



 ──ズォォォォォォォォォォォ



 異常な瑪那マナの励起を感知したのか、突然、"約束されたエリフィスフ・ルイーナ終末・ルイーナ"が、ヴァレト達へと意識を向けた。無造作に振るわれた巨大な触手が、ヴァレト達の上へと振り下ろされ──


 響く凄まじい衝突音。


 "約束されたエリフィスフ・ルイーナ終末・ルイーナ"の触手は、マテリ達3人を覆うように出現した巨大な右腕によって受け止められていた。

 そう、右腕だけが異常に巨大化した拳闘士ロレムが受け止めたのだ。



 ──!?



 "約束されたエリフィスフ・ルイーナ終末・ルイーナ"から戸惑いの気配が伝わる。


 それにかまうことなく、バキバキと異常な音を立てながら、拳闘士ロレムの全身がどんどん巨大化していく。それに応えるように装着された無敵鎧アルムスも巨大化していく。

「ぐっ」

 大量の瑪那マナが体を通る不快感と、無敵鎧アルムスを押し広げられる違和感に、リアが呻きを漏らす。



 ──ズォォォォォォォ……



 3人を庇うように、片膝を付いた状態のままで巨大化していく拳闘士ロレム、もとい強拳闘士ロレムは、ついに"約束されたエリフィスフ・ルイーナ終末・ルイーナ"と並ぶほどの巨体へと変貌する。



 ──ズォォォォ



 暴力的なまでの瑪那マナによって強化された強拳闘士ロレムは、超硬、超重量の無敵鎧アルムスを以てしても、その身は縛られない。


 右手で受け止めた触手、それをそのまま掴み、力任せに"約束されたエリフィスフ・ルイーナ終末・ルイーナ"を引き寄せながら左拳を叩き込む。

 咄嗟に複数の触手で強拳闘士ロレムの拳を防御した"約束されたエリフィスフ・ルイーナ終末・ルイーナ"。しかし、拳を叩き込まれた触手は、立方体ブロック状に分割され、跡形もなく虚空へと消え去った。



 ──オロォォォォォォォ……



 巫女の能力を通じ、世界の想い、終末に抗う意思が3人に流れ込む。

「ヴォェェ……」

「……」

「世界は、終わらせません……」

 相変わらずえづくリアに、無言のヴァレト。呟くマテリの背後では、大量の瑪那マナが全身を渦巻く天使アマレが、白黒の翼を広げていた。


 天使アマレが飛翔し、3人は空へと舞い上がる。

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ……──」


 巨大化した無敵鎧アルムスの胸部、鎧の飾り部分が展開し、そこへ3人は着地した。

「うそっ!? こんな機能あったの!? 今の今まで知らなかったんだけど!!」



「ヴァレト……、頼みます」

「ええ……、終末を終わらせます」

 飾りが閉じ、3人は無敵鎧アルムス内部へと収納される。

 フルフェイスから覗く、強拳闘士ロレムの両眼が、蒼く力強く輝く。



「GOAAAAAAAAAA!!」

 無敵鎧アルムスを纏い、体高100m超まで巨大化した強拳闘士ロレム、改め、終末を滅す者フィネム・スペリアが、約束されたエリフィスフ・ルイーナ終末・ルイーナと相対した。




=================

<情報開示>


無能の化生ロレム・V・イプスム

・3等級(顕現に必要な煌気オドは3ポイント)

・属性<無色>

・攻撃力:高 防御力:高 耐久性:高

・能力(アクティブ):[煌気オドを2ポイント消費]:変異する


 ↓


終末を滅す者フィネム・スペリア

無能の化生ロレム・V・イプスム<無色変異>)

・1048576等級(変異に投入した瑪那マナは1048576ポイント)

・属性<無色>

・攻撃力:救世主級 防御力:神話級 耐久性:伝説の勇者級

・能力(アクティブ)[煌気オドを0ポイント消費]:変異を解除する

・装備:破壊不能アルムス=で絶対無敵イメクシティウム



+++++++++++++++++

<次回予告>


「小生、気になることがあるんだけど」

「そのまま気にしといてください」

「聞いて! せめて内容だけでも聞いて!!」

「僕も気になってしまうといけないので、聞きたくないです」

「まぁまぁ、ヴァレト。聞くだけ聞いてあげましょう」

「御意に。さぁ、早く話してください」

「態度! 変わり方酷すぎ!!」

「話す気が無いなら、もう終わりますよ?」

「言うから!! 言うからちょっと待って!! 今回出てきた巨大ロボ──」

終末を滅す者フィネム・スペリアです」

「……、スペリアさんですけど、耐久性が"伝説の勇者級"じゃないですか~」

「……、はい」

「あのクラゲって、たしか耐久性が"破壊神級"だったと思うんだけど、明らかに負けてない?」

「油断ならない相手ですね……」

「それはあれです。"竜を探し求める伝説"で語られる勇者さんに、"破壊神を破壊した男"が居ますから、そういったアレです」

「あぁ~……、なら、"攻撃力:伝説の勇者級"のがいいのでは?」

「……」


次回:週末を滅する仕事


 (これは嘘予告です)


「それただの休日出勤だ!」

「はっはっは、在宅勤務だから出勤ではないのだ!」

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