4-4、なぁ、静かにしてくれよ。俺泣くよ?
今年度の新入生には、9人の
従来、
これは、"乙女ゲーム世界"であることの、いわゆる"ご都合主義"的なモノか、あるいは、複数の転生者が存在することによる影響なのか……。
さしあたり、
「つまり、戦闘チュートリアルイベントって奴です」
リアによる、身もふたもない解説によって、小難しい理屈はバッサリと両断された。
しかし、そこは貴族向けの学園。ただのチュートリアルと侮るなかれ。学園はこの講義のために、なんと専用闘技場を建設したのだ。
闘技エリアは100mトラックが丸ごと入るほどの大きさで、さらに1000人以上を収容できる観客席まで存在する。
そんな闘技場に、9名の
9名の
まずはマテリ、ヴァレト、リアの3人。次に、乙女ゲーヒロインであるイグノーラを中心とした、攻略対象の3人。フィデス王太子、赤髪脳筋枠のルスフ、そして青髪ショタ枠のカルリディが集まったグループ。3人にちやほやされ、イグノーラは実に楽しげである。
そして、意外にも、もう1人の攻略対象で、陰のある黒髪キャラ枠のラクトゥスは、その輪から外れ1人で孤立していた。他にも、もう1人の騎士爵であるペラム・マギクエスも1人である。
そんな、思い思いのグループで集まっている
「あ~、俺の名はグラリス・カームス。お前たち"
中年男改めグラリスは気だるげな声で、新入生の
"グラリス・カームス"という名に、一同が小さく騒めいた。グラリス・カームスとは、王国近衛兵団の団長であり、"王国最強"と異名をとる人物だからだ。
グラリスに畏怖や畏敬の視線が向けられる中、ただ1人、異なる反応を示す者がいた。
「と、と、と、と、」
「ど、どうかしましたか?」
突然奇声を発し始めたリアに、マテリが心配げな声をかけるが、
「あー、たぶんいつものヤツですね」
ヴァレトはすでに慣れたものである。
「トマケンさぁぁぁぁぁん!! マジイケボすぎぃぃぃぃぃ!! 男の子の小生でもオナカに感じちゃう!! あ、今女子だった」
「お前キモイ。心底キモイ。真面目にキモイ」
リアのあまりに気色悪い発言に、ヴァレトは飾らない本音が駄々洩れになった。
「ひ、ひどい! まるで汚物を見るような目!!」
「はい、今、僕はまさに、その汚物を見ています」
リアとヴァレト、主にリアが騒ぎ出したため、グラリスは言葉を止めて彼らに視線を向ける。
「あ~、そこ、ちょっと静かにしろよ~」
柄じゃないんだけどなぁ、などと思いつつ、仕方なく"注意"をするグラリスだが、
「あ、ふぅん、注意されちゃったぁ~」
リアは恍惚とした表情で、膝から崩れ落ちた。注意したのに状況が悪化し、グラリスは頭を抱えた。
「……、そ、そいつ……」
脇からかけられた声にヴァレトが振り向くと、グループの輪から外れていた攻略対象、ラクトゥス・ビケグレオスが立っていた。
「あ、はい、なんでしょうか」
ヴァレトは従者仕様の表情でラクトゥスに相対する。
「その子、大丈夫……、か?」
ラクトゥスは、崩れ落ちたリアを指さし、怪訝な表情で問う。
ヴァレトはリアを見下ろす。"何"について"大丈夫"と問うているのだろうか? これを見て、なぜ「大丈夫か?」などと聞いてくるのか。どこからどう見ても、"大丈夫"な要素が微塵も無い。いや、存在そのものが"大丈夫ではない"。
「はい、全然大丈夫じゃないので、大丈夫です。お気になさらず」
「は、え……、え?」
笑顔でにこやかに答えたヴァレトの回答に、混乱の極みに陥るラクトゥス。そんな戸惑うラクトゥスの声に、当のリアが反応を見せた。
「じゅんくんキタァ!!」
「「「……」」」
ヴァレトは、もうかける言葉が見つからず、ただただ、無表情でリアを見下ろし、
ラクトゥスは、謎の反応を見せたリアに、どう反応してよいかわからず戸惑い、
マテリは、もはや相手にすべきでないと達観し、とりあえず一歩離れて無関係を装っている。
「まぁ? 演技はうまいよね、いろいろな声色も使い分けるし?」
そんな周囲の反応に動じることなく、リアは淡々と感想を告げる。
「本人? を目の前にしての批評……、度胸があるというかなんというか……。それにしても目に見えてテンション低い。分かりやすい反応ですね……」
「うん。まあ、小生、男性声優好きじゃないし?」
「こんなに説得力の無い言葉がこの世に存在したか……」
「なぁ、静かにしてくれよ。俺泣くよ?」
グラリスからはついに泣き言が漏れた。
****************
「えぇ~っと、皆、もうよく知っているかもしれないが、
気を取り直し、近衛兵団団長グラリスによる
すでに
1、
2、体内に
3、
4、
5、使用した
「
グラリスの説明に、ヴァレトは小さく「ほぅ」と感嘆の声を上げた。
ヴァレトとマテリは、
「と、言うわけで、模擬戦してもらいましょうかねぇ~」
近衛兵団団長グラリスは、楽しそうに告げる。
ややあって、
「さぁ! 全力で行くぜ!!」
「いや、これはおかしい」
ヴァレトの目の前では、脳筋担当の攻略対象であるルフスが、赤い髪が逆立つほど闘気を漲らせ、好戦的な笑みを彼に向けていた。
模擬戦の第1回戦は、ヴァレト対ルスフとなった。
「なんでこうなった!」
+++++++++++++++++
<次回予告>
根暗「な、なぁ……」
変態「ハァハァ、トマケンさんマジイケボ……」
ツッコミ「とてもではないですが、貴族に限らず、女子が見せてはいけない表情をしています。これで顔を隠してください」
変態「身の丈を超える大剣とか、どっから持ってきたの!? それは剣というにはあまりに大きすぎた! 正に鉄塊! っていうか、全身隠れるんだけど!?」
根暗「……、あ、あの……」
ツッコミ「汚物なので、全身隠しておいてください」
変態「さすがに女子に向かって汚物扱いは酷すぎだと思うんだよ!?」
根暗「……、ちょ、ちょっと……」
ツッコミ「"大丈夫"な場所以外を切り落としてしまいますか……、あー、すりつぶした方が速そうですね」
変態「"大丈夫"な場所ってどういうことよ!? 全身コレ安全! 品質保証の小生だよ!?」
根暗「……、ねぇ、じゅんくんって、誰?」
次回:ご使用前にはトリセツをお読みください
(これは嘘予告です)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます