半信半疑

夏子と単車ではぐれてから数日たった夜、電話がかかってきた。

「夏子~心配してたよ~大丈夫だったの?」

「あっ、心配してくれたの?ごめ~ん。全然大丈夫だったよ~」

「良かった~」

何か電話の後ろが騒がしい‥ガヤガヤと話し声が聞こえる。

「ちょっと待って」

夏子がそう言うと、受話器からゴソゴソと音がした。

「あっ…この間、帰れた?」

男の人の声に変わった。

「えっと~この間ですか?」

突然の事に、何の事だか解らず戸惑った‥

「水仙公園から帰れた?」

「あっ、はい」

「そうか‥良かった」

受話器からゴソゴソ、ゴソゴソと音がして、何やら声も聞こえる。

「あっ、ごめんね。ちゅう君が電話してみてって言って、今までそんな事ないから盛り上がっちゃって」

ちゅう君って誰?聞きたかったけど、受話器の向こうが騒がしくて、置き去りにされたみたいだった。

「ゆうちゃん、ちゅうが後で電話するって」

さっきとは違う男の声だ‥ゴソゴソ

「後で電話するな。大丈夫?」

「はい」

ゴソゴソ、ゴソゴソ

「ゆう、ごめんね。又ゆっくり電話する~皆、うるさいから~ちゅう君が電話するなんて凄い大騒ぎだよ」

ゴソゴソ、ゴソゴソ

「ちゅう君て

電話がきれた‥

何だったんだ‥夏子の無事が知れて良かったけど‥

それから、間もなくして電話が鳴った。

「もしもし」

「あっ、ゆうちゃん?」

「はい」

「良かった~親が出たらどうしようか緊張したわ~」

「フフッ、この時間は仕事でいませんよ」

なんか‥正直な人だな。水仙公園の話してたから、あの時いた先輩の誰かかな?

「さっき、うるさかっただろ」

「ハハッ、なんか盛り上がってましたね」

「皆、電話出ようとするから切ったわ」

「そうだったんですね」

「単車降りた後、うずくまってたから‥気になってた‥大丈夫だった?」

単車降りた後って‥まさか‥ニグロさんか王子?

「少し足がガクガクしたけど、大丈夫でしたよ」

「フフッ、ガクガクしたのか‥」

「はい。乗り物ちょっと苦手で‥単車はよく乗るんですか?」

「そうだな。いじったり」

「いじるんですか?」

「フフッ、改造とかね」

「ああ‥ハハッ」

「何だと思ったの?」

「単車の事よく知らなくて、いじるとこあるんですね」

「フフッ、女の子は知らなくてもいいよ」

あの二人のどっちなんだろう‥

「あの‥髪の毛、何かつけます?」

「えっ?髪?フフッ」

「あたしはスプレーしたりするんで、男の人はどうなのかな~って」

「ほとんど何もしないかな~」

ニグロとサラサラ‥髪で何か解ると思ったんだけど‥失敗。突然、変なこと聞く痛い女になっただけだった。

「すいません。変なこと聞いて」

「いいよ。何でも聞いて。面白いし」

「アパートの前でも会いましたよね、覚えてます?」

「ああ、会ったな。覚えてるよ」

「単車はよく女の人と乗るんですか?」

「ほとんどないよ。何かあっても困るから‥ゆうちゃんはよく乗るの?」

「いや、乗らないです。足がガクガクするんで」

「フフッ、そうだよな。しゅうの所に乗って良かったよ。運転上手いから」

あ~このセリフ‥何で忘れてたんだ。ニグロさんはしゅう君じゃん‥って事は‥王子だ。ちゅう君は王子だ。にわかに信じられずにいた。

それから、何時間も飽きる事なく話した。ちゅう君は顔に似合わず男っぽくサバサバしていた。気が合うのか、会話が弾み途切れなかった。いい意味でイメージと違った。

まこと君とちゅう君は、あの有名な堂島くんと同じ学校で、しゅう君は夏子と同じ学校だという事が解った。あたし達の地元と同じで、幾つかの学校が混合している事が解った。ちゅう君は今、おばあちゃんと二人で暮らしているという事も知った。

「そのうち俺の単車くるから見に来なよ」

「えっ?ちゅう君も運転するの?」

「フフッするよ」

「イメージにないな」

「ハハッなんでよ」

「‥なんとなく」

危ない‥危うく王子と言うとこだった。

勝手にイメージ付けられたら嫌だろうな‥きっと、ウンザリする程そう思われているだろうから‥それ程、ちゅう君は異色だった。

それから、毎晩ちゅう君と語り明かした。受話器を握りしめたまま寝落ちした。いつ電話しても話し中だからと、親にキャッチをつけられた。通話中、外線が入ると音で解るシステムだ。顔が見えないから、あのちゅう君と話してる実感が湧かなかった。ただ気の合う先輩と話している感覚だった。

そして‥その日は訪れた。

「今度の休み、何してる?」

「まだ特に決めてない」

「単車くるから来なよ。近くまで行くよ、どの辺?」

「家の近く停めるとこないから、水仙公園は?」

「水仙公園でいいの?」

自然に会う約束をしていた。

あの、ちゅう君だという事も忘れて‥

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