人は見かけによらない
「よぉ」
珍しく教室にクニがやって来た。
「どうしたの?」
「六時に駅集合な」
「はぁ?なんで?」
「いいから、腹減らして来いよ」
返事も聞かず行ってしまった。
駅に着くと、けいごとナベもいた。この二人、他中のタメだが黒い噂が絶えない。薬やアンパンの売人だとか、女を売ったとか…ヤバい噂を耳にする。だけど一緒にいると、それが単なる噂だと思える位、面白くて陽気な奴等だ。二人共さほど背は高くないが、ニグロで眉毛がキリッとして、いつも身綺麗にしている。
「行くぞ」
クニが歩き出した。
「どこ行くの?」
「ちゃんとしたもん食いに行くんだよ」
「まだ言ってんの?しつこいねあんたも」
着いたのはシェフが目の前の鉄板で焼いてくれるステーキハウスだった。何度か来た事がある。
「好きなもん食えよ」
海鮮やらステーキを頼んだ。
「焼き加減いかが致しますか?」
「レアで」
「よく焼いて」
「しょうが焼きで」
あたしの後に、けいごとナベがテンポ良く言ってアハハと笑った。
「お前ら‥恥ずかしいなバカだろ」
クニが呆れて首を横に振った。
「伝わりゃいいんだよ別に‥でも、しょうが焼きはないわ~」
「笑って許して~」
ナベがおどけてクシャッと笑った。
「適当に焼いて下さい。何でも食べるんで」
困った様に見ていたシェフに伝えた。
「あ~美味しかった。ごち~又よろしく」
「だろ。ちゃんとしたもんは旨いんだよ」
クニは満足気にお腹をさすった。それから流れで、けいごとナベ達がたむろする空き地に行くと、そこにいた二人の男を見て鳥肌がたった。とにかくなんだか…不気味なのだ‥見た目は本当に普通、短髪にパーカー。逆に、ここにいるのが浮く位ふつうだった。クニ達に隠れる様におずおずと歩いた。そんな様子に気づいたのか、クニがチラッと振り向いた。
「どうしたんだよ」
「なんかあの二人‥怖いんだけど…」
「あぁ、岡達か。あいつら婦女暴行と窃盗で捕まってたんだぞ。ガキにも手出すから、どうしようもねぇよ。何か欲しいもんあったら頼めよ。取って来てくれんぞ」
冗談めかして笑った。
全く笑えない…気味悪さ全開なのに、なんで皆、平気なんだ‥
それから、クニとけいご達と離れず飲みながら話した。気づいたら岡が近くにいて、目が合ってゾッとした。思わずクニの袖を掴むとクニはチラッとあたしを見て察した。
「おい。お前あっち行けよ」
岡は、ニヤニヤと離れて行った。
「そんなにビビんなよ。大丈夫だから」
皆、アハハと笑ってからかったけど、あたしは笑えず鳥肌が立ち、こんな戦慄が走ったのは初めてだった。それから暫くして、ふと見ると再び岡が目前に近づいて来ている…と思った瞬間、岡がうずくまった‥ほんの一瞬だった。クニが一撃食らわしたのだ。すると今度はうずくまる岡を、けいごが蹴り上げた。
「汚ねぇから、あっち行けよ」
血がポタポタと落ちている様だった。
「早くしろよ」
ナベが首根っこを掴むと、引きずってぶん投げた。
「大丈夫か?」
クニは、いつものクニの顔であたしを見た。
「バカだから気にしないで」
けいごも、いつものけいごだった。
別に何事もなかった様に皆、平然としている。こんな姿を初めて見た。
「痛ぇ」
クニの拳から血が出ていた。とりあえずハンカチを巻いて縛った。
「スーツ汚れてね?」
手よりも服を気にしだした。
「あの野郎…弁償させてやる」
皆、何事もなかった様に笑った。
噂は本当かも‥と始めて思った。
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