二人だけの輝き
「ピアス開けた?」
田所くんから電話で聞かれた。
「まだ‥ピアス買ってから開けようと思って」
「片方だけ開けるの?」
「うん。とりあえず」
「九時頃、ぶどう公園来れる?」
「今日?」
「すぐ帰るから‥少しだけ来れないかな…」
電話は慣れてきたけど‥会うのはやっぱり緊張する。
約束の時間より早くぶどう公園に行くと、公園前にこの間と同じように人影が見え、あたしが気づくと同時に田所くんもあたしに気づいた様で走って来てくれた。
「大丈夫だった?ごめんね急に」
優しい笑顔‥一瞬で神経が波打つ。
「手‥出して」
えっ?手?どうやって?戸惑っていると田所くんがあたしの手を掴んで、手のひらに自分の握った手を乗せた。途端に全神経が手のひらに注がれた。田所くんが握った手をパッと開いた。
あたしの手のひらにキラキラと輝く何か‥綺麗
「俺も‥ほら見て。片方開けたから」
田所くんの耳に輝くピアスと同じピアスが、あたしの手のひらの上でキラキラと輝いていた。
「ゆうも片方だって聞いて、すぐに渡したくなって‥貰ってくれる?」
照れくさそうに笑った。
「ありがとう」
一言、言うのが精一杯だった。
やっぱり田所くんはあたしを驚かす唯一の天才だ。
「暗いから‥送るよ」
「大丈夫だよ。近いから」
胸がドクンドクンと波打った。
「じゃあ‥ここから見送るね」
少し寂しそうに笑った‥
一度、振り返ると、手を振ってくれた。
曲がり門を曲がるとダッシュで家に帰り、早速氷で耳たぶを冷やした。一秒でも速くこの輝きを身につけたかったから…痛い?耳が腐る?そんなの関係ねぇ。今なら何でも耐えられそうだ。安全ピンを炙り耳たぶに躊躇なく刺した…
痛みなど感じなかったが、やっぱりピアスがなかなか入らない。とにかく、あっちこっちピアスを動かしグリグリと入れた。
やがて…ブスッと貫通した。
位置がちょっと下だったかな…
鏡に写る自分の顔は満足気に微笑んでいた。
飽きる事なく鏡で輝くピアスを眺めた。
さっき見た、田所くんの耳のピアスを思い重ね合わせながら…
プルルル…
ビクッ‥電話の音で我に返った。
「大丈夫だった?ちゃんと帰れたか気になって」
舌足らずの優しい声‥いつでも一瞬であたしの心を鷲掴みする。気の利いた言葉一つ言えないあたしを、いつも優しく包んでくれる。
今、田所くんの耳に輝くピアスと同じピアスがあたしの耳にも輝いた事さえ伝えられずにいる
つながっているよ…心で囁く。
ずっと、つながっていられると思っていた‥
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