キカイダーと呼ばれた男
柴田くんと話したおかげなのか‥わりと平和に過ごした。ただすれ違いざま
『あいさつ~』などと言われる程度。
どこの誰だか知らない。
『おはようございます』『さようなら』
心なく挨拶し顔も見ずやり過ごした。
ある日、急いでいて上履きをつっかけて走っていたら『上履きふんずけてんじゃねぇよ』どこからともなく声がして驚いた。先生より鋭い観察力だ。下校時、校門にたむろするのは柴田くん達ではなかった。あの門をくぐらなければ帰れない。
「不良バイバ~イ」
いつの日からか、その集団からそう言われる様になっていた。まるでライオンにもて遊ばれる小動物だ。ペコリと頭を下げ小走りで逃げる様に帰る。誰なのか名前も知らない。
そんな日常にも慣れてきた。
斜め前に座る鈴本は相も変わらず、あたしが席に着くと振り向き言葉を交わすこともなく、ただ黙って見ている。配られるプリントも、あたしの席から交差するのが当たり前になっていた。何度注意しても笑うだけだから諦めた。
「キカイダーいつも、ゆうちゃん見てるよね」
同じ班で話すようになった友達に言われた。
「キカイダー?」
「鈴本の事だよ。小学校一緒だったんだよね~あんまり学校来てなくて、来たらキカイダー来たよ~みたいなね。夜うろついてるみたいよ」
「不登校だったんだ。いつも来てるよね?」
「来てるよね~中学からやる気になったのかな」
気になってる事が何故か聞けなかった‥顔のアザみたいなのは昔からなのか‥聞いた所で何がどうする訳でもないんだけど‥あの顔を見ると何かされても何故だかキツく言えなくなってしまう。プリントの事もそうだ。なぜか傷つけてはいけないという気持ちにさせられる。最近はすれ違いざま肩をぶつけて来たり、机をコンコンと叩いて来たりする。何か言っても笑うだけ‥その笑顔に悪意はなく、とにかくあたしは口をつぐんでしまうのだ。
コンコン…机を叩く横に誰かが立っている。見なくても誰だか分かる。いつもの事だと顔を上げずやり過ごそうとした。いつもはすぐに立ち去るのに、この日は違った‥机を叩いた握られた手の中からアメ玉がコロンと転がった‥
とっさに顔を上げると予想通り鈴本が立っていた。目が合うと、いつもの様にニヤッと笑い立ち去った。しばらく机の上のアメ玉を眺めた。
どうする?これ…
チャイムが鳴り、とりあえずポケットにしまった。次の日にはチョコが…黙ってポケットにしまった。そんな事が続いたある日、机の中に見覚えのない紙袋が入っていた。恐る恐る袋を開けた…中には色とりどりのチョコらしきものが、ぎっしりと詰まっていた。どうしていいのか分からず慌てて袋を閉じて机の中に戻した。
気づかなかったフリをする?
色んな思いが頭をよぎった。
けれどその日、鈴本は学校に来なかった…
あれ?鈴本じゃないの?
机の中にソッと手を入れ確かめてみた…
やっぱりある…
次の日も次の日も、鈴本は来なかった…
何日か過ぎたある日、担任が事務的に告げた。
「鈴本は、家庭の事情で転校した」
後に、噂で聞いた。
鈴本は、幼い頃から虐待され、あの顔のアザもその傷痕なのだと…そして遂に暴れた。
施設にいる。年少に入ったなど様々な憶測が流れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます