救世主
全学年集会があり一斉に校庭に並んだ。
いる。いる。校門の前にたむろしていたマンガよりリアルな面々。先輩達は誰もが大きく大人に見えた。ドッチボールをしていた校庭から、壁一つ乗り越えただけなのに、こちらはまるで別世界だ。ジロジロと品定めするかの様な視線‥新入生は、蛇に睨まれた蛙だ。ガヤガヤと騒がしい話し声、進まない集会。なすすべなく立ち尽くした。いっそう辺りがざわつき始めた。二階の教室の窓から、何かが下の溜め池に落下したらしい。誰かが椅子を投げたみたいだ。こんな状況でも二、三年生は平然と雑談している。まるでこれが日常だという様に…
訳が分からぬまま集会が終わった。
校庭から教室に移動する為ゾロゾロと歩き出す。先に行かされたはずの先輩達が、まだチラホラと残っていた。
『挨拶しろ』『髪染めてんのか?』
次々と浴びせられる罵声。
「お前に言ってんじゃね?」
近くにいた男子が話かけて来た。
やっぱりそう思う?心で呟き、男子に目線で訴えた。話すより、とにかく今はこの場から離れたい。
『シカトしてんじゃねぇよ』
俯いたまま聞こえないフリをした。
「あれ?妹じゃない?」
女の声を裂く様に男の声が聞こえ、ハッとして顔を上げると…不良マンガよりリアルな集団が、うんこ座りでこちらを見ていた。その中の一人がスッと立ち上がった。
金髪にリーゼント、太いズボンをヒラヒラさせながら近づいて来た。
「覚えてる?」
優しい笑顔に少し緊張の糸が溶けた。
誰だろう?どこかで見た様な…
「小学生の時、家に遊び行ったじゃん。習字の塾まだ行ってんの?」
習字の塾でピンときた。よく見ると笑顔に面影が残っていた。
「柴田くん?」
「そうだよ。元気だった?」
柴田くんは二個上の兄の友達だ。仕事で親がほとんど不在の家には、兄の友達がよく遊びに来ていた。その中でも柴田くんは、よく声をかけてくれた。
『塾行くの?行ってらっしゃい』
実の兄が決して言わない言葉をかけてくれた。
兄には何故だか疎ましがられ、いない者とされていた。道で会ってもシカト、家でもシカトか文句、とにかく目障りの様だった。こんな兄の友達が救世主となってくれた。
後に知ったが、この中学校で有名な不良と呼ばれる人達は、小学生の時ほとんど家に遊びに来ていた人達だった。兄は特別身なりが変わる事なく友達だけが、ものの見事に変身していた。
家に帰ると珍しく兄が話かけてきた。
「お前、目立ちすぎ」
一言だけ吐き捨てると何処かに行ってしまった。
柴田くん、助けてくれたよ。
行き場のない言葉を飲み込んだ。
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