彼女の天使の微笑みを伝えたい

柊オレオン

愛菜の天使の微笑み

僕の名前は菊池京也(きくちきょうや)、高校2年生だ。


ごく普通の高校生で写真部に所属している。


通学路の川や鳥の羽ばたく姿、帰り道のみんなの姿などをよく撮っている。


「うん、いい景色だ」


今、僕は海にいる。


今日は海を撮りたい気分だった。


もうすぐ、夕日が訪れる時間帯になる、その時間帯こそ絶好のチャンスだ。


「よし、準備だ」


機材を整え、絶好の位置に撮れるように配置する。


今回の写真のテーマは『海と夕日』だ。


夕日が沈んでいく。


「………」


約3時間も海にいた。


「そろそろ、帰らないとな…」


撮影を終えて、電車で家に帰った。


片道1時間半、往復で3時間もかかる道。


気づけば、眠っていて、起きた頃には降りる駅の2駅前だった。


「ふぅ〜」


最寄駅に到着し、家に向かう途中、僕の家の前に一人の女性が立っていた。


「うん?」


夜暗く、顔もよく見えなかったので、近づいてみると、そこには……。


「あ、もう一体どこに行ってたの」


「海にだけど…」


「え〜〜いいな、どうして私も連れて行ってくれなかったの」


「今日は一人で海を撮りたい気分だったんだよ」


この子は名前は安土愛菜(あずちあいな)、俺の幼馴染だ。


小さい頃から一緒にいて、今でも家族付き合いがよく、学校以外ではよく仲良くしている。


「てか、俺の家の前でなんか用か?」


「実はさぁ!!めっちゃ、綺麗なお花が咲いている花壇を見つけたから、一緒に行こうかなって誘いに来たの、けどピンポン押したら、いなかったから、その〜〜1時間おきに…」


「マジか、馬鹿なのか?」


「なっ!?バカっていうな!!私より成績悪いくせに」


「それは関係ないだろう………じゃあ、今週の休日でいいな…」


「あ、うん!!ありがとう」


彼女の笑顔はとても素敵だ。


決して俺は口では言わないが、間違いなく映える美しさを彼女は持っている。


「じゃあ、また明日…」


「また明日ね」


お別れの挨拶をして、俺は家に帰った。


「ただいま…」


その一言とともに、僕の1日が終わった。


次の日の朝、俺はカメラを持ちがなら、通学路の風景を撮っていた。


いつもと変わらない通学路、小鳥の鳴き声がささやく。


「よ!京也!!おはよう」


「ああ、おはよう」


俺の肩に手を掛けるこの男の名前は伊秩健(いちぜまさる)、高校からの付き合いの男友達だ。


「今日も写真を撮っているのか?」


「まぁな…」


「京也は本当に写真一途だな」


「そんなことはないと思うが…」


そう言って俺は健にカメラを向ける。


「お、俺のかっこいい姿を撮る気だな…いいぜ、ガンガン撮りな」


と言って、いろいろなポーズをとる健。


「やっぱり、撮るが気失せたわ…」


「え…ちょっとそれはないぜ」


俺は基本、人より、自然や動物の動きをする瞬間などを撮っている。


写真はいいぞ、本来、目では捉えられない瞬間を捉え、それ観察することができる。


こうして学校に到着し、自分の教室に向かう。


「そういえば、もうすぐ、あれだな…」


「あれ?」


「京也、まさか忘れたのか?」


「……マジでわからん」


「はぁ〜〜もうすぐ、夏休みだろう?」


「あ〜〜そう言えば、全然、気にしてなかった」


「おいおい、高校生なんだから、気にしろよ」


「だって、夏休みになったところでやること変わらんし…」


「そうだったな、京也は四六時中写真を撮ることで頭がいっぱいだったな…」


そんな会話をしていると、教室に到着する。


教室の扉を開けると、クラスメイト達がグループで会話をしていた。


その中には幼馴染の安土愛菜も楽しげに会話をしていた。


ふと俺が愛菜がいる窓際に目線を向けると、それに気づいたのか、愛菜が笑顔で手を振った。


ーーかわいい


俺は自分の席に座り、カメラの手入れをする。


「またカメラの手入れか?」


「持ってないと落ち着かないんだ…」


するとチャイムの音が鳴る。


みんなが席につき、先生が教卓の前に立つ。


「みんなさん、おはようございます」


『おはようございます』


「今日もみんな元気そうで何よりです…今日の連絡事項ですが…」


先生が今日の連絡を確認し、出席をしっかりと確認をとり、朝礼が終わる。


「では、今日もまた一日頑張りましょう」


と言って、先生は教室から出た。


そしていつも通り授業が始まった。


授業は6限まであり、とても長い、その間ずっと俺は、どう撮れば、愛菜が美しく見えるかを考えていた。


きっと誰も気づいていないと思うが、愛菜はよく愛想笑いをする。


普通に見たら、よく笑ういい子なのだが、俺にはわかる。


よく彼女を撮っていたからわかる。


いつからだろうか、彼女が愛想笑いをするようになったのは…特に高校生に上がってからは、より一層愛想笑いをする頻度が増えた。


高校生活になり、環境が変わったことが影響である可能性がある。


だけど、俺の前では決して愛想笑いをしない。


ーーまぁ、俺の勘違いかもしれないがな


あくまで俺が思ったことであって、これに関しては彼女の本人に聞かないとわからない。


気づけば、お昼のチャイムがなり、俺は屋上に向かった。


「よし…」


俺はここでお弁当箱を開けて、お昼ご飯を食べる。


食堂は人が多いし、教室も多い、なので屋上、本当はダメなのだが、俺だけしかいないから、バレない。


ここで食べているのを知っているのは愛菜と健だけだ。


「……今日もきれな空だな〜〜カメラ、持ってこればよかった」


空を眺めながら食べるご飯は格別だ。


お昼ご飯を食べ終わり、俺は教室に戻った。


「お、京也じゃないか」


「…先生」


教室の戻り道、先生に話しかけられた。


「少し頼みがあるんだが、いいか?」


「別にいいですけど…」


頼まれたのはとある授業で使うプリントを理科室に運ぶというものだった。


「京也、よろしくね」


「愛菜…なんでお前がいるんだ」


「あれ?先生から聞いてないの?私一人じゃあ、時間がかかるからお手伝いで一人頼んだんだよ」


「なるほど、聞いてない」


「じゃあ、今聞いたね、と!いうわけでこれ持って…」


机の上にずらりと並ぶプリント。


ーーこれ全部か、確かにこれは一人じゃ無理だわ


俺はたくさん置かれたプリントを愛菜と一緒に理科室に運んだ。


「それにしても、多いな」


「だよねぇ〜〜私もそう思う」


お昼が終わる時間、ギリギリまでプリントを運び続け、なんと運び終えた。


「時間ギリギリだな」


「ねぇ、京也…」


「なんだよ…」


「迷惑だった?」


少し不安げな顔、それと同時に風が吹き、窓の隙間を通って、愛菜の髪が靡く。


「きゃっ…」


髪が目にかぶり、邪魔そうに髪を耳にかけるその姿は美しかった。


ーーカメラ、持ってこればよかった


「なわけないだろう…バカが、さっさと教室に戻るぞ」


「あ、うん!!」


満遍な笑顔を見て、俺も少し口元がニヤケそうになる。


ーー今の笑顔は反則だ


俺は不意打ちに弱いのだ。


教室に戻り、午後の授業を受けて、この日は終わった。


俺はただ何も考えず、カメラを磨く。


「よし、確認するか」


昨日と今日撮った写真を確認する。


ただ写真を撮っただけでなく、しっかりと日別に分けて管理している。


俺はこの写真を卒業式にまとめようと思っている。


タイトル『3年間の日常』、俺は常に毎日、通学時と帰宅時にカメラで写真を撮っている。


時には教室の風景なども撮り、みんな笑っている姿も撮っている。


「あと1年半…楽しみだ」


そしてもう一つまとめているのが愛菜を撮った写真集だ。


まぁ外から見たら気持ち悪いと思うかもしれないが、これは一個の俺の趣味。


俺はこの写真集を卒業式の時に愛菜に渡そうと思っている。


「気持ち悪いって思われるかもな…」


こうして想いを秘めながら、休日を迎える。


俺は最寄り駅まで待っていた。


「愛菜のやつ、遅いな」


休日の日、愛菜は最寄駅、午前10時に集合と言っておきながら、今、10時10分頃である。


「それにしても暑いな〜〜」


今日の最高気温は34℃、猛暑である。


「ご、ごめん〜〜〜」


走って、こっちに向かってきたのは11分遅れた愛菜だった。


「はぁはぁはぁはぁ」


「大丈夫か?」


「う、うん、だ、大丈夫…はぁはぁはぁ」


「とりあえず、水でも飲むか?」


俺はバックから水を取り出し、愛菜のほっぺに当てる。


「きゃっ、冷た!!」


「大袈裟だな」


「もう!!むぅ〜〜〜ありがたくもらっていくよ」


「おう」


こうして合流したので、俺たちは電車に乗り、愛菜が言うきれいなお花が咲いている花壇に向かう。


愛菜は走ったおかげで暑いの中、電車の中で大胆に涼む。


「愛菜、だらしないぞ」


「いいの、だって暑いんだから」


「はぁ〜〜」


「もう!!ため息を漏らす京也にはこうだ!!」


そう言って、俺に抱きつく愛菜。


胸が腕に直接当たり、しかも暑い。


「ちょっ、やめ…暑い」


「ほれほれ」


「お前な〜〜」


「ふぅ〜〜スッキリ」


「何がだよ…」


ーーよくもまぁ、異性相手にあんだけ突っかかれるよな


俺と愛菜が戯れあっているうちに目的の場所に到着する。


「ここから、3時間ランニング!!だよ!!」


「マジか」


「マジです!!」


「はぁ〜」


こんな暑い中、俺と愛菜は3時間歩くことになった。


歩く先々には小さな家や、川が流れていたり、田んぼが広がっていた。


「ねぇねぇ、川があるよ!!」


「そうだな」


「少しだけ遊ぼうよ!!」


「え〜〜」


「いいじゃん!!暑いし、きっと涼しくなるよ?」


「う〜ん、なら」


「やったぁぁ!!」


そう言うと愛菜は俺の手を握って川に向かって走りかける。


驚くことに愛菜は俺を道連れに川に飛び込んだ。


「ヤッホ〜〜」


「ちょっ…」


「気持ちいいね」


「ああ、そうだな」


ーーカメラは…壊れてないな、ふぅ〜よかった


まさか、川に飛び込むとは思っていなかった。


「おい、愛菜…」


「うん?なに?」


愛菜が俺の方向に向くと、パシャリとカメラで撮った。


「…うん」


ーー濡れた愛菜もかわいいな


「どれどれ、見せてぇぇ〜〜〜」


「ほら…」


「うわ〜〜だれ、こんなにかわいい美少女は」


「嘘くさいぞ…」


「え〜ひどいぃぃぃ〜〜〜」


俺は先に、川から上がり、服を乾かした。


少し経つと、愛菜も川から上がる。


「じゃあ、そろそろ行こうか」


「そうだな…」


こうして残りの道を進んだ。


そして大きな花壇に到着する。


「おお、すごいな」


「でしょう!!」


いろんな種類の花が奥へと続いている。


看板を見ると入場料もいらない、ベストスポットだ。


花壇に植えられている花を見るとしっかりと手入れされているのがわかる。


「うん、花も元気だな…」


「うん、やっぱりいい匂いがする」


目を閉じて、花の匂いを堪能している姿はよく映えていた。


気づけば、カメラを持ち、愛菜にカメラを合わせていた。


「うん、いい絵だ」


パシャリと一枚目の写真を撮った。


「どう?綺麗に撮れた?」


「ああ…」


「じゃあ、まだ奥に続いているから…行こう」


「うん」


やっぱり、今日の愛菜は愛想笑いをしていなかった。


花壇の奥へ進んでいくと一面お花だらけの景色が広がっていた。


「おお、すごいな」


「うん、すごくきれい…」


「よし、撮るか、愛菜」


「え〜〜」


「綺麗に撮ったやるからさ」


「ちゃんと綺麗の撮るんだよ」


「任せておけ、俺が愛菜を綺麗に撮ってやる」


「う……うん」


少し頬を染めながら、顔を隠すように前に走り出した。


「うん、花に向かっていく姿もいいな…」


いろんな角度からたくさん撮った。


角度によって、後ろの風景が変わったり、顔の見せ方も変わるから見え方も変わってくる。


角度や風景で写真の見え方は無数にあるのだ。


「ねぇ、京也…」


「なんだ?」


「今日は楽しかった?」


「ああ、楽しかった」


「思い出に残るぐらい?」


「…ああ」


「そうか、なら連れてきてよかった…」


「急にどうした?」


「実はね、私…京也に伝えたいことがあるんだ」


「伝えたいこと?」


「うん、ずっと伝えたかったこと…」


ーーなんだろう、伝えたいことって…俺何かしたかな?


「私ね、ずっと……京也のこと、好きなんだ」


「へぇ〜〜〜」


ーーうん?


俺は愛菜を顔を見る。


すると愛菜は顔を隠していた。


「はぁ〜〜最後の一枚撮るぞ」


「え?」


「ほら、はやく…」


「う、うん」


その時、大きく風が吹いた、花びらが散っていき、その花びらは愛菜の周りに綺麗に集まった。


そして愛菜が微笑んだその瞬間、俺はそのベストショットを見逃さない。


愛菜の天使の微笑みと散っていく花、そして綺麗な空、愛菜を綺麗に美しく、その写真一枚におさめ……


「俺も、愛菜のことが大好きだ…」


そう言って俺はシャッターボタンを押した。


俺はこの笑顔を皆に伝えたい。


愛想笑いじゃなく、君の天使の微笑みを……。



ーー完ーー







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