TS転生メイドは、転生悪役令嬢に恋をしたので、全能力を使って断罪を回避することにしました。

阿月

第1話 お嬢様の告白と私の過去

「あなた、転生って信じる?」

「は?」

「私、生まれる前の記憶があるのよ。そして、私は自分自身がこの先どうなるか知っているの。私、悪役令嬢として、追放されることが決まっているの」


 自嘲気味に、そう告白してくれたのは、侯爵家令嬢のシルビア様。


「なぜ、生まれる前の記憶があると、未来のことがおわかりになるのでしょうか」

「私はこの世界がゲームだったことを知っているの。その中で、私は王太子様に断罪されて、追放されるか、刑場の露と消えるか。そんな運命なのよ」


「お嬢様。私が絶対にそんなことはさせません」

「エリス……。信じてくれるの?」

「もちろんです。お嬢様のおっしゃることなら、このエリス信じさせていただきます」

「ありがとう、エリス。私、もう、どうしていいのかわからなくて」


 そう言って、シルビア様は私に身体を預けてくれた。

 私はそれを抱きしめる。

 シルビア様の芳香が私をつつみこむ。


 ぐふ。


 いかん。テンションを下げなきゃ。

 この幸せを、もう少し味わっていたいが、いつまでもこのままではいられない。


「もう少し、詳しくお話いただいてもよろしいでしょうか。シルビア様のご存じのことをすべて」


 私はそう宣言した。

 救う。必ず救ってみせる。


 なぜなら、私はシルビア様に恋をしていたから。

 そして、シルビア様が「転生者」として、この先の人生がわかっているなら、それは必ず変えられる。


 そう。私は転生者が存在するという事実を知っていた。

 なぜなら、私自身がそうだったからだ。


 私は、今、自分がここにいることを運命に感謝した。




 私の名前はエリス・タカヤマ。

 東の辺境にあるタカヤマ子爵家の三女。

 男女合わせて八人兄弟の上から七番目。


 子だくさん貧乏のタカヤマ家は、早々に私を売った。

 奴隷として売り飛ばした、などというわけではない。

 王家を守る剣として、クロムウェル王国の影の支配者として知られるエルガー侯爵家の全寮制の「学校」に預けられたのだ。


 貴族だからと言って、働かなくていいわけではない。

 家督を継ぐ、跡取りとして見込まれた者以外は、複数の爵位を持つような家でもなければ、平民同様の生を生きるしかなくなる。

 役人であり、軍人であり、上級貴族の使用人であり。

 貴族の妻や養子として、他家に入るケースもあった。


 が、私の場合、その中でも割と最悪の人生のスタートとなった。


 エルガー侯爵は、王国の治安を司る刑部尚書の家系でもあった。

 そのため、食い詰め貴族の子弟を集めて、警察機関を設立していた。

 そのうちの情報部の工作員教育、それが私が通うことになった学校だった。


 こんなところは学校ではない、前世の記憶を持つ私としては、そんなことは重々承知していた。何せ学ぶのは読み書き算術だけでなく、地理、歴史や最新の上流階級の流行、毒物や暗器などの人を殺すための技術。そしてハニトラのための閨房術まで。

 まあ、真っ当な学校ではない。

 要はスパイの養成校だ。


 ちなみに、我が家の六番目と八番目は兵部尚書であるサファイア侯爵家が率いる、騎士団という名の常備軍向けの学校だったため、もう少し真っ当だったらしい。どうも、前世の社会で言えば、士官学校的な場所で、軍人教育を受けたらしい。


 解せぬ。


 とは言え、脱走して行くところがあるわけではなかった。

 親の庇護のない子どもなど、この世界では無力の象徴だった。


 私は、前世の記憶もフル活用して、それなりの成績で卒業、スパイの実務へと移行することとなった。

 他国へ潜入しての情報収集や暗殺などの職務をこなした後、王妃候補となる王太子の婚約者、サファイア侯爵家令嬢のシルビア様の侍女としてお仕えすることとなりました。


 当然のことながら、お嬢様を狙う暗殺者からお守りすることが、もっとも重要な任務でもありました。



 初めてお会いした時、その可憐な姿は私を虜にした。

 王妃教育を必死に受けるそのお姿。

 身分の低い者にも、優しいお声をかけていただきつつも、あくまで王妃候補として、身分をわきまえ、国法をわきまえ、国母たらんとするそのお姿。


 そう。私の性嗜好は女性だった。

 何せ、前世の性別は男。

 男として過ごした三十年近い記憶は、私の人生のいろいろな部分に影響を与えている。


 おかけで、男のいろいろを知っていたので、閨房術の成績は異常によかった。

 だが、メンタルはズタボロになり、何度か自殺を考えた。


 それを救ってくれたのは、幾人もの同級生たちだった。

 閨房術の試験をクリアするための個人教授と称して、何人もの貴族令嬢をベッドに招き入れることができたからだ。


 さて、自己紹介はここまでにしておきましょうか。

 本題に入っていかないとですね。

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