第55話 世界の危機

 神が多くの次元から大地を集め、繋ぎ合わせる事で形成されたこの世界は多種多様の生物で賑わっていた。多くの文明が生まれ、または転移してきては互いに協力し合い、そしてぶつかり合ってきた。やがて、ノルド族を頂点とした巨大国家が生まれ、世界秩序が構築される。

 永きに渡る戦乱の時代を乗り越え、誰もが平和を享受できる世界となり、文明が大きな飛躍を見せるころ、世界を崩壊させうる力を持った異質の文明が出現しようとしていた・・・



王国歴478年

 遠方の大陸国家「ジアゾ合衆国」にて、セラフィム国王は大統領との会談で両国に跨る諸問題を話し合い、解決までの道筋に一定の合意を取り付る事に成功していた。


その帰り道・・・

 1人の男が血相を変えて走っていく。周囲の者達が何の騒ぎか確認するために出てくるが、その男を見るなり「またか・・・」といった感じで持ち場に戻っていった。


「陛下! 一大事でございます。」


 アダムスはそのまま王の部屋へ入ろうとして近衛兵に止められる。


「え~い、お主等もワシの事は知って居よう。たまには素直に入れんか。」

「いくらアダムス様でも規則ですので。」


 近衛兵は帯剣しているが、剣は抜かずにアダムスを片手で持ち上げて注意する。だが、彼が止まる気配はない。


「陛下はお休みになられております。不要不急の・・・」

「だから、一 大 事 だと言っておろうが! 」


 王が直に雇ったお抱え預言者「予知夢のノスフェラトゥ・アダムス」が非常事態を告げに来たとなれば、彼をこれ以上止める権限はない。近衛兵は渋々彼を部屋へ入れることとした。


「今回の一大事はなんだろうな? 」

「さぁ? 前回は魔石の枯渇で、前々回はジアゾとの全面戦争だったか? 」


 近衛兵は過去にアダムスが「一大事」といって王の元へ駈け込んでいった時の状況を思い浮かべる。


「陛下は何故あのような者を雇ったのだろうか・・・」


 「当たらない預言」ばかりしているアダムスは、周囲の人間にとって道化もいいところだった。


「でも、悪い人間ではない。普段、アダムス様と話す陛下は政治家や貴族連中と話すより遥かにストレスがなさそうだったからな。」


 近衛兵達は気を取り直して扉の警備に戻る。




「世界崩壊だと! それは、真に預言なのだな。」


 国王であるセラフィム・ガルマンは、アダムスの預言に体を震わせた。


「間違いございません。この予言は近い将来必ず起きます。」

「想定される被害はどれほどのものになる? 」


 セラフィムはアダムスに問うが、預言者は青ざめた顔で応える。


「見当もつきませぬ。パンガイア全土が赤く焼け、焦土となるなど、人類有史以来経験のないことです。」

「何ということだ。この様な災厄が起きては、神竜を撃ち滅ぼしても意味がないではないか・・・」


 セラフィムは人類の天敵、神竜討伐を計画していたのだが、来る災害に備えなければならなくなってしまう。


「お言葉ですが陛下、これは自然災害ではありませぬ。突如として現れた文明によるものです。」

「文明? 馬鹿な、そのようなことが出来る文明など・・・まさか、古代文明か! 」


 セラフィムは大陸全土を焼き尽くすほどの「火」を使用する文明を考えて、古代魔法文明に行き当たる。


「いえ、古代文明ではありません。かの文明を一瞬だけ除くことが出来ました・・・これからお話しすることは非現実的であり、大変申しにくいのですが・・・」

「構わぬ、何でも言うが良い。」


 アダムスが話しづらそうにしていたため、セラフィムは何を言っても良い許可を出す。


「その文明はジアゾを凌ぐ科学文明であり、そこに住まう者達の大半は一切の魔力を保持しておりません。また、その文明には魔族も住んでおり、信じられない事ですが魔力の無い者に付き従っておるのです。」

「魔力の無い者に魔族が従う? ジアゾの民ですら僅かな魔力を有しておる。魔力が全くないなど・・・それは死者ではないのか? 」


 セラフィムは余りにも非常識、非現実的な文明にアダムスの預言自体を疑い始めてしまう。


「死者というのは強ち間違えではないかもしれませぬ。その死者の国が瘴気内に出現し、瞬く間に瘴気内国家をまとめ上げて我らと敵対するのです。」


 瘴気内という言葉を聞いてセラフィムは1つの結論に行き着く。


「神竜の仕業か。我等の計画を察知するとは・・・怪物め。」

「信じられないことですが、予知夢で見た限り、神竜もその文明の元に集まっていました。」


 神竜が下等生物に従う? 生物界の最上位に位置する神竜がヒト如きに従うはずがない。


「神竜が他の生物に従うなどあり得ない。今回ばかりは、ただの被害妄想だろう。」

「陛下、落ち着いてください。陛下の神竜討伐計画は完璧であります。自身の死を察知した神竜が、死者の国を呼び寄せたと考えれば辻褄が合います。神竜は延命を、死者の国は世界を死で埋め尽くす。私はこの2者が世界崩壊の原因ではないかと考えております。」


 アダムスの話はあまりにも非現実的な話だった。しかし、セラフィムは世界を焼き尽くすにしても、神竜ならばやりかねない事を思い出す。その神竜が死者の国と手を組んだとなれば、未だかつてない世界の危機だ。


「アダムスよ、今回も内々に事を進める。国に戻り次第、預言検討会議を開く。」

「承知いたしました。」




ドンッ


 アダムスが退室してからセラフィムは執務机を拳で叩く。


「何時まで経っても戦が終わらぬ。早急に神竜を討たねば・・・」


 世界が2つに分かれて戦った大戦「100年戦争」終結から約480年、当事者であるアーノルド国は世界各地で大戦の混乱を治めてきた。そして、ようやく恒久平和が見えた矢先に新たな脅威がこの世界に出現しようとしていた。


 西大洋上、高度1万mをアーノルド国の巨大な王族専用機が飛行していく。恒久平和を夢見るセラフィム国王は、新たな脅威と戦うために同志と共に準備を進めるのだった。

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