第13話 木人殲滅作戦
蜀西部、城塞都市「西城」
蜀への自衛隊派遣が始まり数週間後、蜀の西側は木人の支配地域だが、中央部の荒地地帯には「西城」と呼ばれる大規模な城塞都市が存在する。人間が造り上げた巨大城塞であり、木人との戦争における最前線拠点となっていた。
広く晴れた穏やかな青空の下、西城の兵士達が慌ただしく駆け回り、防衛兵器の準備をしていた。兵士達が運んでいる投石器や弩砲の弾には高品質の魔石が使用されており、火炎魔法や炸裂魔法の魔法回路が描かれていた。この魔法回路は射撃と共に作動し、着弾の衝撃で対応する魔法を発生させるものである。
「木人は目の前に迫っている。急げ! 」
各部隊長の指示により、城壁に人員が増強されていく。城壁内の階段を駆け上った兵士が見たものは、大地を埋め尽くさんとする木人の波であった。
木人は人の形をした植物である。大きさは150㎝から250㎝とばらつきがあり、力や魔力、行動パターンも個体差がある。彼らのエネルギー源は基本的に光合成によって得られる養分だが、この地に豊富に存在する高濃度魔石から得られる魔力によって動物のような動きを可能としていた。
木人達は西城目掛けて全力疾走する。人間ならば体力が持たないが、木人は内部のエネルギーがなくなるまで活動し続けることが可能であり、速度を落とすことなく進軍していた。
ある程度の距離まで接近したことろで、西城から猛烈な攻撃が開始される。投石器により放たれた爆弾が爆発し、弩砲から放たれた極太の矢が木人数体を貫いて炸裂するが、木人の速度は落ちない。たとえ腕がなくなっても、痛覚の無い彼等は人間のように苦しむことはない。
全力疾走する木人であったが、西城を目の前にしてその速度が落ち始める。城壁の200m内には空堀と鉄でできた巨大な撒菱のような障害物、槍などが設置されており、脚部を破損する木人が続出、倒れた木人に後続の木人が足を取られて転倒し、前線の木人は渋滞し始めた。木人達が固まったところには城壁から熾烈な攻撃が行われ、多数の被害が発生するものの、木人達の戦意は落ちない。
木人達は障害物を自らの体で排除し城壁に取りつく。壁の高さは16m、地球であれば梯子を使用したり、攻城塔で乗り付けて攻撃するだろう、しかし、木人達は組体操のごとく集結し、木人でできた斜面を形成していった。数箇所で木人の斜面ができ、どんどん高さが増していく。城壁の兵士たちは木人の斜面に対して、燃える水が入っている大鍋をぶちまけ火を放つ、たちまち木人の斜面は燃え上がり、木人達は声にならない叫び声をあげ次々に倒れていった。痛覚がない木人でも継続して燃え続ける炎は弱点であり、恐怖でもあった。
「前線指揮官から第二城壁まで部隊後退の要請がきています。」
「木人は間もなく第一城壁上部に到達します。」
城から前線を監視している観測員が将軍へ報告する。
観測員の報告を聞き、
劉将軍は熊科の亜人である。生まれは平民の家であったが、戦場で武功を重ねて将軍の地位にまで上りあげた武人であった。その腕だけで将軍に上り詰めた劉は蜀の民憧れの存在であり、その戦いぶりと機転を利かせる戦術で一般兵士からは高く信頼されていた。
「援軍はいつくる? 」
将軍は低い声で側近に聞く。
「すでに連絡を受けております。間もなく到着するかと。」
将軍は少し考えた後、指示を出す。
「第一城壁に伝えよ、「持ちこたえろ」とな。」
城壁上部では木人との戦闘が始まろうとしていた。上部に到達した木人に対して魔術師が火炎魔法を浴びせて動きを止め、槍兵が槍を投げて一体一体確実に仕留めていく。しかし、次から次に登ってくる木人に魔術師の魔力は直ぐに底をついてしまう。炎がなくなった途端に木人達は兵士に向かってなだれ込んでゆく。木人は槍で突こうとする兵士を槍ごと持ち上げて壁の外に投げ飛ばし、剣を持った兵士を鎧ごと引き裂いて行った。
「第一城壁は突破された。撤退の指示を乞う。」
前線の指揮官から悲鳴が上がる。しかし
「撤退は許可できない。城壁を維持せよ。」
本丸からは淡白な回答が返ってくる。
現在戦闘は城壁内部にも移っており、このままでは全滅の可能性もある状況に、指揮官は直ぐ指示を出す。
「各部隊、持ち場を維持せよ。」
前線の指揮官は本丸からの命令を全うし、最後まで戦う決断をした。
前線指揮官が覚悟を決めた時、東の空から飛来する物体があった。バタバタと空気を叩くような轟音は戦場にも響き渡り一部の者の注意を引く。
それは、自衛隊のヘリ部隊であった。
「ヒバリから各機、西側城壁に敵勢力を確認。すでに城壁内部で戦闘が始まっている模様。」
OH-1観測ヘリから送られてくる情報を確認し、各部隊は作戦通り行動を開始した。攻撃ヘリであるAH-1SとAH-64Dが城壁外部に形成されている木人の斜面をロケット弾で破壊、密集地点を掃射していく。輸送ヘリUH-60JA部隊は城壁の上部を飛行しつつ、城壁上部の木人を掃討し、UH-60JA改と呼ばれる機体は木人密集地点にナパーム弾を投下して彼等を焼きつくしていった。
形勢は逆転し、木人達は撤退を開始する。永きにわたる人間との戦争で、木人はある程度の軍事学を身につけていた。いくら人間を殺せても、自身の被害が甚大になった場合、その後の戦闘でどんどん不利になっていくことを学習していたのだ。しかし、自衛隊は木人の撤退を許さなかった。
撤退している木人最前部に対して、新たに飛来したC-180輸送機6機からドラム缶がばら撒かれてゆく、ドラム缶の投下地点は強烈な炎に包まれ、木人達は退路を失ってしまう。このドラム缶は「ドラム缶爆弾」と呼ばれる現地生産の即席兵器であった。
戦場の上空には自衛隊機が飛び回っていたが、一機だけ場違いな見た目の航空機があった。それは蜀の航空機であり、見た目が空飛ぶ絨毯の機体には3人の人間が乗っていた。
「すごい火力ですね。」
蜀の軍事顧問、パラス・サイドが斑模様の服を着た人物に話しかける。
「あれは本来の使い方ではありません。普段でしたら輸送機にあんな物を積み込むこと自体ありえないことです。それより、敵の指揮官は見つかりましたか? 」
自衛隊の連絡員がパラス・サイドに尋ねる。
この部隊は木人の指揮官を特定するのが任務であり、精霊と自然魔法のエキスパートである軍事顧問のパラス・サイドは、木人指揮官が発する魔力を使った指令を感知する能力があった。
「ええ、貴方達が木人を混乱させてくれたおかげで、見つけやすくなりました。木人の指揮官はあそこです。」
パラス・サイドが炎の切れ間を巧みに進んでゆく木人の一団を指さす。
「敵指揮官の位置が判明した。座標を送る。」
すかさず自衛隊の連絡員は攻撃部隊に敵指揮官の位置を送る。ほどなくして、その一団はAH-64Dのヘルファイアミサイルで吹き飛ばされた。
指揮官を失った木人達は統制を失い、炎の合間を命からがら逃げて行った。しかし、彼らが助かったわけではない。
「これより追撃を開始する。我に続け! 」
劉将軍の号令と共に、騎兵を中心とした追撃部隊が生き残った木人達を畳み掛ける。西城の部隊は防衛時に第二城壁へ部隊を撤退させずにいたため、第一城壁を素早く奪還し追撃部隊を編制していたのである。そして、自衛隊と連絡を取り合い、最高のタイミングで追撃を開始したのであった。この戦闘で木人は5万体以上を失う大損失を出すこととなる一方、西城の被害は第一城壁の軽度の破損と死者300名程度であった。
この戦果は蜀の通信網で全国に伝わり、民は大いに歓喜した。そして、日本への偏見は少しずつ解消されていくこととなる。
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