自殺ミスったら女の子の幻が見えるようになった。

渡路

第1話 お花の妖精ちゃん、襲来!

「お花の妖精ちゃんです☆ 気軽に妖精ちゃんって呼んでくださいね」


 ダイナミック飛び降り自殺に失敗した翌日に現れた幻覚が、エヘ顔ダブルピースでそう言った。

 このタイミングで幻覚が見え始めるのは流石にヤバすぎると思った俺はしめやかに二度寝した──のだが。


「ちょっとこのステーキ半生じゃないですか!? この私に何食べさせる気ですか!?」

「それはレアっつーんだよアホガキが」

「アホでもガキでもないですけど!!?」


 まさか、実体のあるガチ妖精だとは誰も思わないだろ。





 俺はしがない男子高校生だった。顔も並、偏差値も並、身長も並という、特筆すべき点はゼロな高校生。

 ここまで平凡を極めていると、逆に珍しいのではないかと思うくらいの没個性。

 とは言え、そこに大した不満があったわけではなく、このままで良いとすら思って生きてきたのだが、ちょっとした事情によって自殺することになってしまった。

 いや、まあ、失敗したんだけど……。

 学校の屋上から思い切ってダイブしてみたのだが、何か気付いたら病院のベッドだった。

 しかも身体はほぼ無傷。即日退院だった。

 ハゲのおじいちゃん先生なんかは


「いやぁ……きみ、本当に人間?」

「逆に人間じゃ無かったら何だと思います?」

「妖怪とか? ほら、きみ髪とか長いし」

「あっはっは、先生の方が河童っぽくて妖怪じみてますよ」

「死ねッ!」


 などという、誉め言葉と罵倒のラインをギリ行ったり来たりしてそうな言葉と共に俺を見送ってくれたものだ。

 正直この時点で「車道に飛び込めば死ねるかな……」と考え込んではいたのだが、退院したその日の内に死体として病院に戻るのも忍びない。

 せめて一日……いや二日くらいは待つか、と渋々帰宅した次第である。

 で、その晩。

 ぐっすりと熟睡していた俺は突然側頭部に激痛を感じて目を覚ました。

 

「え、なに?」


 超痛いんだけど。頭を抑えて上半身を起こせば足を全力で振り切ったらしい女が俺を見つめていた。

 その格好で街中を歩くのは流石に厳しそう、という感想が出てくるファンタジックな白のドレス。

 陶器のように白い肌。赤色の瞳。

 カーテンを閉め忘れていたのか、窓から差し込んでくる月光が女の長い、薄桃色の髪をキラキラと弾いている。

 端的に言って、ものすげぇ堂々とした不審者だった。

 

「はーい、初めまして。私はお花の妖精ちゃんです☆ 貴方に幸せをお届けに来ました☆ 気軽に妖精ちゃんって呼んでくださいね」

「??? 何? 誰? 怖い」

「怖くないですよ~☆ 妖精ちゃんは愛と恋と優しさと、それからちょっぴりのスパイスで出来ていますから」

「スパイスって何???」


 この不審者、押しが強すぎる。

 ドシンプルに恐怖だった。

 

「あ、もしかして貴方、信じていませんね? やれやれ、これだから人類ってのはヤなんですよ。す~ぐ妖精ちゃんを不審者扱いするんですから」

「どこから目線なん?」


 人類って括り方は妖精っぽいって思った。


「お花の妖精ちゃんは病める貴方に幸福を与え、代わりに生活の面倒を見てもらう存在です」

「ふうん……うん? なんて?」

「という訳で今日からお世話になりますね! あ、私朝ご飯はお米派なのでよろしくお願いします!」

「なになになに?」

 

 宗教の勧誘よりやばい女に会うの初めてなんだけど。

 流石にここまで来たら幻覚だと思う方が容易かった。

 未だにギャーギャー、ごちゃごちゃ言葉を並べ立てる妖精ちゃん(笑)をシャットダウンして、俺はすやりと眠りに落ちた。




 翌朝。

 目を覚ましたら居間で正座していた女がキッと俺を睨みつけた。


「お腹空きました!!!」


 俺は菓子パンを女の顔面に投げつけた。






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