第8話 お嬢様とお出かけ
——翌日 土曜日
ピピピッと煩いスマホのアラームに起こされた俺は朝に聞くと不快な音ランキング王者を倒すためにスマホを手に取る。
「マジか。 土曜じゃん今日……」
せっかくの休日だと言うのにいつもと変わらない時間に起こされてしまった俺は二度寝の前に水分補給をするためキッチンへ行こうとリビングのドアを開ける。
母さんの友達が遊びにきてるのか……
ドアに背を向けて設置されたソファーに並んで歓談する母達の邪魔にならないよう、そうっと二人の後ろを通り抜けてキッチンへ向かう途中で母の隣に座る女性が後ろを振り返り目があった。
「おはようございます、先輩。 お休みの日ですのに意外と早起きですわね?」
なんと早朝のリビングで母と歓談していたのは沙耶乃だった。
「なんで浦影がウチにいるんだよ! しかも今日土曜日だぞ!」
突然の沙耶乃の来訪に驚くあまり、沙耶乃の隣に母が座っている事が頭からすっぽり抜けてしまっていた俺が母の存在を思い出した時にはすでに遅かった。
「あなた彼女が朝から遊びに来てくれたと言うのに何なのその態度は!?」
目の前には鬼の形相で立つ母とその少し後ろで笑いを堪えようと不自然に口角の釣り上がった沙耶乃の姿があった。
はぁ……さらば俺の休養日。 きっと三日連続で理不尽なお説教なんだね……
俺が諦めの境地に至った頃、沙耶乃が母に話しかける。
「お母様、あまり先輩を責めないでください。 連絡もなく突然押しかけたわたくしも悪いですし……」
わたくしも悪いじゃなくて君が悪いよね!? 俺が間違ってんのか!?
「まあ、沙耶乃ちゃんがそう言うなら……本当、どうしてこんな捻くれた奴にこんなに良い彼女ができるのかしらね……」
母さん、あんたも何気に酷えな! 息子を捻くれた奴とか言わないでよ!
「それに、折角朝から来ましたのに遊びに行く時間が減ってしまっては勿体無いですわ」
「そうね。 じゃあ、今日も息子を頼みますね。 沙耶乃ちゃん」
どうやら俺の知らないところで俺の予定が決定されたらしい。
てか、浦影と二人で出掛けるって……でで、デートって奴じゃないのか……それは……?
俺がデート……? マジか……
「先輩? ぼーっと突っ立ってないで着替えてきてくださる?」
沙耶乃と母から追い出されるようにリビングからでた俺は自室に戻りクローゼットを開いた。
まさかデートに行く日が来るとか想定もしたことがない俺にどうしろと! 何着たら良いんだよ!
お嬢様の沙耶乃が行くような場所に庶民の俺が立ち入っても良いのか? 無難にスーツ着とけば間違いはないだろうか……
普段使われる機会もなくクローゼットの端に追いやられていたスーツを取り出し袖を通す。
お金はとりあえず有るだけ持っていこう……
革製の学生鞄になけなしの万札を入れた財布を詰めてリビングへと戻った。
「ちょ、先輩! なんですのその格好!」
リビングにはいった俺を見るや否や沙耶乃は堪えられないと爆笑する。
「酷くね!? 俺なりに頑張って服を選んできたんだぞ!」
むしろ笑われないためにスーツに着替えてきたって言うのに。
「ドレスコードが必要なほど良いお店に連れて行ってくれるってことじゃない?」
沙耶乃と歓談していた母までもが笑いながら俺を見る。
「先輩、今日のわたくし普通の私服ですの。 先輩も普段着で良いんですわよ?」
言われて沙耶乃に視線を向けると、いつもの制服姿と違い白いカジュアルシャツに水色のデニムパンツという至ってシンプルな服装だった。
初めて浦影の私服見たけどお嬢様の割に意外と普通なんだな……
あと、服装がシンプルな分余計に黒髪美少女が際立っている。 なんか悔しいけどそう思えて仕方ない。
「うん、確かにスーツは間違いだったね。 着替えてくるわ……」
自分の視線が沙耶乃に釘付けになっていることに気づいた俺は逃げるようにリビングを出てもう一度部屋に戻った。
今度はどんな服装なら並んで歩いても違和感ないか分からねえ……
しばらく頭を悩ませても妙案の浮かばなかった俺は諦めて普段着の黒いTシャツにベージュのチノパンを着てリビングへ戻り沙耶乃に声をかける。
「今度は問題ないだろ……? ないなら出かけようぜ」
「まあ、それでいいですわ。 お母様、先輩を今日は一日お借りしていきますわね」
母に丁寧なお辞儀をした沙耶乃は立ち上がるとこちらへ駆け寄ってくる。
「行きますわよ、先輩!」
先日の朝と同じく沙耶乃は俺の手を取ると玄関の方へ歩いていく。
先日との違いは俺が沙耶乃の手を振り払おうとしなかった事だ。
同じミスを繰り返して母の鋭い視線で睨まれることはないのだよ、浦影君。
満足そうに手を振る母を見て今日は勝った気がした。
一方の沙耶乃はいつも通り悪戯っぽく笑っているので実際は負けに違いないのだが……
「それで、休日に押しかけてまで俺をどこに連れていく気だ?」
「それは目的地に着くまでのお楽しみですわよ」
そんなこんなで俺たちは家を出て駅の方へと向かって歩き出したのだった。
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