第2話 あれ? もしかして・・・・・・
……ユキムラ……目を覚まして下さいユキムラ……
『ん……? ここは……?』
ヒデオは自分がどこにいるか確かめる。
周りは光りに包まれて何も見えない。光りに包まれてはいるが眩しくはない。
真っ白な世界に浮いているような感覚だ。
と言うか、この状況をヒデオは知っている。
【ようやく目が覚めましたかユキムラ。貴方をここに呼んだのは他でもあ】
『VOのオープニングじゃないか!?』
【ユキムラ、人が話しているのに途中で大声をあげるものではありませんよ。】
『あ、すみません……』
ヒデオは自分に話しかけている存在に目を向ける。
ゲームではドット絵で可愛らしく描かれていた月の女神アルテス。
ヒデオは気が付かなかったが宅配員と同じ絶世と言っていい美女の女神様だ。
グラフィックもドット絵ではなく現実と全く区別がつかない。
純白の布を衣のようにまとうグラビアアイドルも裸足で逃げ出すような完璧なスタイル。
胸の谷間も横乳も布によってエロテッィクにさらけ出している。
日本人的な少し薄めで色気のある顔立ちに漆黒の長髪。
女神を表すのにその表現はどうかと思うが、まさに女神だ。
目の前に美しい女性がいる。
その事実にヒデオは羞恥心を覚え……ない。
『あれ? 恥ずかしくない? と言うか、普通に話せている……』
【ユキムラはヴェルフェリア・オンラインの中では普通に話せていましたし、
女性相手でも関係なくむしろコミュ能力抜群に振る舞っていたじゃありませんか?】
そういえばそうだとヒデオは思う。
ギルド戦の傭兵のときには、まぁ、傭兵と言ってもユキムラは伝説のプレイヤー、ギルドマスターも勉強させてほしいと指揮権を委ねられることも多々あった。
先陣に立って戦場全体に指示を出していた、なんてことも珍しくない。
ヒデオ自身のPSプレイヤースキルも卓越していたが、戦況全体への把握能力も超越していた。
その指示は的確でしかもわかりやすい、何人もの上位ギルドランカーがその指導を受けて誕生した。
もちろん相手が女性だろうが気後れすることもない。
『僕は今、ユキムラなのか……』
【そうです。ユキムラ、貴方を呼び出したのは他でもありません。
我が世界ヴェルフェリアが今危機に瀕しているのです。
女神たちは捉えられ、神は打倒されました。
我らの世界の希望である勇者も邪神の力の前に傷つき倒れてしまいました。
我々に残された手段は一つしかありません、来訪者ビジターである貴方に頼るしか無いのです!】
ヒデオは久しぶりにオープニングを見て思い出す。
もちろんキャラメイクはたくさんしているので何度も見ていたが、ここ数年は新しいJobもスキルも追加されないため新キャラはとんと作っていなかった。
そういえばこんなストーリーだったなーとしみじみと思い出す。
始めの頃は誰もまだクリアをしていないために攻略情報もないメインストーリークエを、右往左往しながら一つ一つクリアしていって、初めて展開されるストーリーをじっくりと楽しんだもんだ。
ストーリー自体の完成度の高さも魅力のひとつだった。
(それが何度もやってるうちに文章も読まなくなってエンターキーを連打するようになって、さらに報酬が美味しくないクエストはやらなくなって……『旨い』クエストだけを効率だけで廻すようになってだんだんと作業になっていくんだよなぁ……)
【聞いていますかユキムラ?】
『あ、全然聞いてませんでした』
物思いにふけっている間にも女神の話は進んでいた。
女神の話を簡単に言えば、邪神が世界に訪れて立ち向かった神も勇者も敗れたから、異世界の人間に助けて欲しい。
女神や神の封印やら復活やらを手伝って、最終的には邪神を倒し、世界には平和を取り戻してほしい。
そういう王道ストーリーだ、もちろんサイドストーリーも大量にあって、コンシューマーゲームと比べ物にならないボリュームに当時のヒデオはどんどんのめり込んでいった。
【……また自分の世界に入ってますね……セッカクヨンデアゲタノニ……ブツブツ】
『あ、すみません聞いてます聞いてます』
【はぁ……まぁいいです。私の力も限られていますが、貴方には加護を与えます。
どうかこの世界をよろしくお願いします。
貴方にとって実りある人生を過ごせますように・・・・・・】
ひと目で心を奪われてしまうようなアルテスの極上の笑顔でヒデオは送られる。
『……? そんなセリフあったっけ?』
ゲームと同じように目の前が光りに包まれていく。
自分の容姿を決める場面だ、しかし、ヒデオのキャラは変更できない。
長年の相棒であるユキムラ、黒髪の短髪軽くモヒカンぽく立っている。
少しタレ目の色気のある目と泣きぼくろ、2Dからこの華麗グラフィックになると、ため息が出るほどの色男になっている。
現実のヒデオは不摂生な生活を送っており、悪くない顔つきも病的に痩せ真っ白、髪は伸び放題で後ろで無造作に結び、髭も適当に肌が痛まないように切っていて、正直不潔な印象だ。
『なんか、自分を美化しているみたいで恥ずかしいな……』
ゲーム開始時、来訪者として小さな辺境の村に16歳の少年、場合によっては少女がたどり着く。
『そこでチュートリアルを兼ねた……、まぁいいや。
続きはやっていけばわかる。』
ヒデオは服装なども愛用のユキムラと同じものを選ぶ。
初期クラスは見習い剣士、ってのが初心者のセオリーだが、トリッキーな操作が必要な代わりに取得経験値が多いという隠しポテンシャルを持つ……
凡人オーディナリーマンを選ぶ。
普通にプレイするとはっきり言って弱い。
というか、まともに動かすことも難しい。
しかし、操作のコツを知っていると普通に戦える。
いや、強い。
しかし、その操作方法は普通のプレイヤーなら難解すぎてめんどくさくて投げ出してしまう。
例えば敵一体倒すのも他の職業ならクリックすれば勝手に攻撃してくれるのに、このキャラは自分の正面に右足を出し、左足を出す、剣を右手で抜刀する。振り上げる、振り下ろす。
この調子でキーに割り振られたコマンドを連続で入力していく。
ほぼすべての行動をキー割り振りできる。
しかし、そんなもの使いこなせるやつはいなかった。
ヒデオ以外は。
彼を最強足らしめたのは、まさにこの操作方法だ。
UBMアルティメットバトルモードという操作方法だ。
村に降り立つユキムラ、ヒデオの脳裏に使い慣れた4台のキーボードとマウスが現れる。
ヒデオの脳内の自分が裸足になりぽきぽきと指を鳴らす。
左手、左足、右手、右足。
まるで生き物のように動き出し、キーを叩く。
それに合わせてユキムラが剣を振り下ろし、なぎ払い、突き、振り上げる、華麗にサイドステップをこなしシャドーボクシングのように動き出す。
まるで踊るように。対戦する相手には悪魔に見えるユキムラステップ。
ヒデオにしかできない戦闘方法だ、ヒデオは確認するかのようにユキムラを操作していると、段々と視界が変化していく。
どんどんユキムラの視界になっていく。
俯瞰でユキムラを見ている視界、ユキムラが見ている視界。
二つの世界が今ヒデオの中に流れ込んでくる。
次の瞬間、彼は自分自身の足で大地に立っていた。
ヒデオがユキムラとしてヴェルオンの大地に降り立った瞬間であった。
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