第9話【修羅場】
「
「黙って聞いていればお姉さん、随分勝手な言い分ですね」
俺の言葉をスルーし、世愛は鋭い視線で
「あなたがこの部屋の家主さん、高梨世愛ちゃんね? 名義上は親戚の方になってるけど」
「そんなこと今はどうでもいいじゃないですか」
「確かにね」
鼻を鳴らし、大人の余裕を見せる奏緒。
女同士のバチバチとした、なんとも胃の痛くなるような緊張感が漂い始めている......。
「安心して、こいつ......ヒモのお兄さんは今日の内にここを出ていくから」
「おい奏緒、なに勝手なことを――」
「ダメです。本人以外による契約破棄は受け付けていませんので」
「え、契約? どういうこと? あんた、詳しく説明しなさいよ」
「あ、いや...これには深い事情があってだな......成り行きというか何というか......」
「風間さんは私と親子の契約を結んでいるんです」
言葉を
世愛らしいといえば世愛らしいんだが――ここは空気を読んで上手く誤魔化そうとするところだろうが! と心の中で突っ込まずにはいられなかった。
「......まさか、あんたにパパ活の趣味があっただなんてね。ひょっとして私が今まで渡したお金も、全部その子といかがわしいことをするために使ってきたんじゃ!?」
「なわきゃねぇだろ! 大体コイツと知り合ったのはほんの一ヶ月前だ」
「そうです。私は風間さんから一円もお金をもらっていません。むしろ渡している側です」
頼むから世愛、これ以上奏緒を余計に刺激するようなことは言わないでくれ!
「渡してる? 普通の女子高生にしか見えないあなたが? 言っておくけど、高校生のバイト代くらいで大人の男一人を養えるなんて軽々しく思わないことね」
「ご心配無く。サラリーマンの平均月収に近い金額をお支払いしていますので」
「つくならもっと上手い嘘をつきなさいよ」
鼻で笑って流そうとする奏緒であったが、俺の表情からその話がどうやら本当であることを察したらしく、見る見るうちに引きつった顔色へと変わった。
「......本当なの?」
「信じられないだろうが、大マジだ」
「お金持ちだとは知っていたけど、まさかこんな、面識が全くない無職のヒモ男をそんな大金で雇ったうえに一緒に住むだなんて......どうかしてる」
口に手を当てながら、奏緒はおぞましいものでも見るかのような雰囲気で一歩後ずさりした。
それから何かに気が付いた様子で、
「わかった、こいつに何か悪いことでもさせるつもりでしょ? あなたの目的は何?」
「落ち着けってお前。俺は家事手伝いくらいしかしてないから」
「そんなはずはないわ! なにか言いなさいよこの犯罪者!」
「おい奏緒!!」
興奮状態で世愛に畳みかける奏緒を、俺は一喝して制し、覚悟を決めて口を開いた。
「――丁度いい機会だからお前に伝えたいことがある。俺たち――もうこの辺で終わりにしよう」
「終わりにするって......何言ってるのあんた?」
ついに別れ話を切り出すと、奏緒の瞳からは徐々に明るさが消え、絶望の色へと変化を始めた。
「奏緒だっていい加減、自分の気持ちに気づいてるんだろ? 昔みたいに俺のことが好きじゃないことを」
「そんなわけ! ......ない、じゃない......」
「ちょっとでもそういう気持ちがあったからこそ、瞬に抱かれても断りきれなくて身体を許した。違うか?」
「......」
核心を突かれたらしく、俯いたままこちら見ようともせず、ただ小さく
「あの件に関してお前は責任を感じなくていい。俺の自業自得なんだから。それに――」
一度大きく深呼吸し、両の拳を強く握りしめながら、
「お前に辛い思いをさせてまで、俺は義務として養われるのは御免なんだよ。だからお互いのために別れよう。今までありが――」
バチーーーーーーーーーン!!!
決別とこれまでの感謝を最後まで言い終わる寸前、俺の顔は衝撃と共に大きく左に動いた。
ゆっくり視線を正面に向ければ、平手打ちした奏緒が目から涙を
「――あんたの顔なんかもう二度と見たくない! そんなに女子高生のお世話になりたいなら、一生面倒見てもらえばいいじゃない! このバカ!!」
部屋中に大きく響き渡るほどの別れの言葉を言い放ち、奏緒は勢いよく部屋から立ち去っていった。
その背中を残された俺と世愛は呆然としたまま見送る。
「......痛ってぇ」
「風間さん大丈夫?」
「ああ......」
心配そうに世愛は俺に駆け寄った。
自身初めての恋人との別れは、なんとも後味の悪い結果になってしまった。
そう思ったら急に痛みが増してきた気がする。
おかしいな、覚悟はできていたはずなんだけどな......。
「酷い彼女さんだったね」
「あんまり悪く言うな。あそこまで俺に対してヒステリーになっちまったのには、こっちの責任でもある」
俺がもっとしっかりしていれば、また違った未来に進んでいたのかもしれない。
だけど、いまとなってはそんなもん所詮タラればだ。
「顔を見せて」
「大袈裟だな、こんなもん全然ケガのうちに入ら!? な......い......」
痛めた頬を差し出した瞬間、世愛はその頬をぺろりと舐めた。
そして一旦俺から離れると、今度はどういうわけか突然、制服を脱ぎ始めた。
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