戦いしか知らない銀髪の女騎士(巨乳)を、徹底的に愛して屈服させます。

森林梢

第1話 女騎士(巨乳)はデレデレのタジタジ


「――エメリー様、大好きです」

「ふにゃっ!?」


突然、隣に座る青年から告白されて、【白銀はくぎん戦女神ヴァルキュリア】ことエメリーは赤面した。

年齢は、まだ20に達していない。

枝毛一つない、銀の長髪。

白磁はくじのごとく白い肌。

引き締まった体躯。

対照的に、豊かな胸部と肉付きの良い尻。

たおやかな手足。

そんな、彫像ちょうぞうめいた美女が、頬を紅く染めたまま、言葉を絞り出す。


「い、いきなり何のつもりだ!?」

「お許しください。言葉にしなければ、胸が張り裂けてしまいそうだったので」


 穏やかな口調で応じたのは、ジェイス・ヴィドゲンシュタイン。

 名門貴族である、ヴィドゲンシュタイン家の子息だ。

 貧民街の出身で、苗字どころか親さえ定かでないエメリーとは、対極に位置するような存在。

 灰褐色の髪を持つ、やや色白の長身痩躯。

 傍目はためには分かりにくいが、かなり筋肉質で、半年ほど前までは戦場の最前線にて剣を振るっていた。

 そんなジェイスの言葉に、エメリーは赤い顔で返す。


「こ、好意を口にしないだけで、胸が張り裂けるなど、あるはずないだろう! 気のせいだ!」

「……」


エメリーの発言の受けて、黙り込んだジェイスが、彼女の手を取り、そっと自身の左胸に押し当てた。


「ひゃうん!」


慌てふためき、目を泳がせるエメリーに向かて、ジェイスはウィスパーボイスでささやく。


「感じますか? この胸の高鳴り。今にも心臓が飛び出しそうでしょう? 気のせいなんかじゃありません」

「わ、分かった! 私が間違っていた! 謝る! だから、手を離してくれ!」

「すみません。出来ません」

「ふぇっ!? な、なんで!?」


戸惑い交じりの問いに、ジェイスは真剣な面持ちで答えた。


「自分の意志では、エメリー様の手を離すことが出来ません。本能が『この人を、離してはいけない』と訴えかけてくるのです」

「んぐっ……!」


もはやエメリーは、ジェイスを直視することさえ出来ていない。

ただでさえ、こういった女性扱いに慣れていないのだ。

ジェイスのような美少年に、これほどストレートかつ熱烈な愛情表現をされて、冷静でいられるはずがない。


「い、いい加減にしろ!」


エメリーが、ジェイスの手を振り払った。

彼は少し悲しそうに尋ねる。


「嫌でしたか?」

「……嫌では、ない。……むしろ、嬉しい」


口を尖らせて呟くエメリー。ジェイスは頬を綻ばせた。


「エメリー様。世界中の誰よりも好きです。心の底から愛しています」

「う、うるさいうるさい! 調子に乗るな! あっち行け!」


言い捨てて、エメリーはソファの端まで逃げる。

それを追うように、身を寄せるジェイス。


「な、なぜ近づく!?」

「申し訳ありません。エメリー様の声や口調があまりに可愛らしかったため、身体が勝手に動いてしまったのです。こうなった以上、誰も僕を止められません」

「馬鹿ぁ!」


顔を真っ赤にして叫ぶエメリーと、真剣な面持ちを浮かべたジェイス。

両者の距離がゼロになった。

ジェイスはエメリーの手に触れて、優しく繋ぎ、更に指と指を絡ませる。


「ふにゃぁっ!」


可愛らしい悲鳴を上げるエメリーに、ジェイスはおそるおそる聞いた。


「本当に不快だった場合は、遠慮なく仰ってください。自害するので」

「そんなこと言われたら、遠慮するに決まってるだろう! というか、自害などするな!」

「元より、エメリー様に救って頂いた命です。貴方に人生の幕を下ろして頂けるのであれば、本望です」


ジェイスの発言に、エメリーは目を細めた。


「……一旦、手を離せ」

「『一旦』ということは、また繋ぎ直してもいいということでしょうか?」

「わ、分かったから! 離せ!」


名残惜しそうに、手指を離すジェイス。

解放された手を、エメリーは頭上に掲げて、その側面をジェイスの額に軽く当てた。

いわゆるチョップだった。


「うぐっ」


美少年らしからぬうめき。エメリーは小さく笑う。


「ばーか」

「……愛らしさが臨界点りんかいてんを超えたので、抱き締めてもいいですか?」

「ダメだ。ちゃんと話を聞いてからだ」

「つまり、聞いた後だったら、抱き締めてもいいということですか?」

「……ちょ、ちょっとだけだぞ」


 小声での承諾しょうだくに、ジェイスは満面の笑みを浮かべた。


「話、聞きます! 一語一句、聞き逃しません!」


素直な反応に、少し困るエメリー。

そんなに大層な話をするつもりはないからだ。

少しでも威厳を出そうと、咳払いしてから、彼女は質問した。


「お前は、私がいなくなったら、寂しいか?」

「寂しいなどという言葉では足りません! 絶望のあまり、国を滅ぼす可能性さえあります!」

「それは止めろ。絶対に」

「分かりました!」


エメリーの一言で、簡単に意見を変えてしまうジェイス。

そんな彼の様子に、エメリーは少なからず不安を覚えた。

自分が『国を滅ぼせ』と言ったら、ジェイスはやりかねないから。

そして、彼が本気を出せば、それは実現しかねないからだ。

小さく嘆息して、彼女は続ける。


「つまりは、そういうことだ」

「……えっと、すみません。どういうことでしょうか?」


首を傾げるジェイスに、エメリーはふくれっ面で言った。




「……お前がいなくなったら、私も寂しい。と言ったんだよ」




瞬間、ジェイスは嬉しそうに口角を上げた。

琥珀こはく色の瞳の中に、ハートマークが見えた気がした。

凝りもせず、飽きもせず、ジェイスはエメリーを抱きしめる。


「んぁっ!」


濡れた吐息が耳に触れて、エメリーは堪らず嬌声きょうせいを漏らした

そんな彼女の耳元で、ジェイスは優しく呟く。


「エメリー様、愛してます」

「にゃあっ! や、止めろぉ!」


ジェイスの腕の中で、もがくエメリー。

本気で逃げる気が無いのは、ジェイスには内緒である。


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